フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第2回 細胞の不思議 ヒトのからだができるまで 東京大学大学院 総合文化研究科 浅島 誠 先生 インタビュー からだの器官づくりを促すアクチビンを発見!

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第2回 細胞の不思議
〜ヒトのからだができるまで

「誘導物質を発見しない限り生物学の発展はない」という強い思いで研究に打ち込む

東京大学大学院 総合文化研究科 浅島誠先生 インタビュー

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浅島誠(あさしま・まこと)
東京大学大学院 総合文化研究科特任教授
(独)産業技術総合研究所 器官発生工学研究ラボ フェロー、ラボ長
1944年新潟県佐渡に生まれる。小中学校時代、青い空を飛ぶ野生のトキを一度だけ目にし、トキを絶滅させたくないという強い思いを抱く。豊かな自然の中での昆虫採集や生物観察が生物学者を志す原点となる。67年東京教育大学(現筑波大学)理学部動物学専攻卒業。72年東京大学理学系大学院博士課程修了。このころから生物の器官形成に関係する誘導物質に興味を抱き、ベルリン自由大学分子生物学・生化学研究所研究員に。横浜市立大学文理学部教授を経て、東京大学大学院総合文化研究科生命系教授。1989年に誘導物質がアクチビンであると発表し、世界的な注目を集める。木原記念学術賞、上原賞をはじめ受賞多数。2008年文化功労者。

未分化の細胞に、心臓や手足など生物のさまざまな器官をつくるよう働きかける誘導物質とは、いったいどんなものか、長い間、多くの生物学者、研究者が発見しようとしてきたが、半世紀近くも研究を続けてもその正体は不明なままだった。浅島先生はこの難問に挑戦し、見事にアクチビンというタンパク質がその正体であることを突き止めた。アクチビンはどのように働くのか、発見までにどんな苦労があったのだろう?

濃度の違いによって、異なる器官に分かれる

阿形清和教授
───まず、アクチビンのはたらきについて、わかりやすく教えてください。

私たちのからだは、たった一個の受精卵が分裂していき、次第に手や足、眼、心臓、脳などがつくられていきます。ヒトだけでなく、卵からいのちを形づくる生物はみなそうしたプロセスをたどるわけです。
以前は、卵の段階ですでに、眼になるか心臓になるかなどが決定づけられていると考えられていたのです。これを「前成説」といいます。ところが、1924年にドイツのノーベル賞生物学者のハンス・シュペーマンが、卵の段階でどんな器官になるかが決められているわけではなく、受精卵が細胞分裂を繰り返していく過程で、なにかの物質が手足や、心臓や脳などの器官になるように働きかけ、誘導していると発表したのです。こうした考え方を「後成説」といいます。
けれども、その誘導物質がどんなものなのかはさまざまな生物学者が研究しても、長い間わかりませんでした。私は、その誘導物質がどんなもので、どのようにして器官を形づくっていくのか、そのメカニズムを明らかにしようと考え、研究を続けて、その誘導物質がアクチビンであることを世界で初めてつきとめたのです。

───アクチビンは、どの段階でからだの器官づくりを促すのですか。

イモリの場合で見てみましょう。受精卵が分裂を繰り返していくと胞胚ができてきます。この胞胚には、将来からだのどんな器官になるかが決まっていない、未分化な細胞が集まった領域が形成されます。その領域のことを「アニマルキャップ」というのですが、アクチビンはこのアニマルキャップの未分化細胞に働きかけて、筋肉や神経組織、脊索、心臓、腎臓などをつくるように促すのです。

───アクチビンという同じタンパク質によって、筋肉や心臓、腎臓など、別々の器官に分化するのはなぜですか。

どんな器官になるかは、働きかけるアクチビンの濃度の違いなんです。私たちの研究室では、生理塩類溶液中にイモリやカエルのアニマルキャップを切り出して入れ、それにアクチビンを低濃度、中濃度、高濃度に分けて処理してみました。すると、低濃度では血球様細胞や上皮が、中濃度では筋肉、神経組織が、高濃度では脊索や心臓ができたのです。

アクチビン処理により形成される組織と器官

アクチビン処理により形成される組織と器官
アクチビンの濃度が濃くなるに従って筋肉、脊索、心臓、肝臓などが次々に形成される。また、アクチビンとレチノイン酸を混合して添加すると膵臓や腎臓ができる。

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