フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第5回 DNA複製のプロセスは? 東京理科大学大学院 科学教育研究科 武村 政春 准教授インタビュー DNAで人間のすべてが決まるわけじゃない!

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第5回 DNAの暗号

DNAで人間のすべてが決まるわけじゃない!

東京理科大学大学院 科学教育研究科
武村政春准教授 インタビュー

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武村 政春(たけむら・まさはる)
1969年三重県生まれ。92年三重大学生物資源学部卒。98年名古屋大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。名古屋大学助手、三重大学助手を経て、現在東京理科大学大学院科学教育研究科准教授。著書に『生命のセントラルドグマ』『DNAの複製と変容』『おへそはなぜ一生消えないか』『脱DNA宣言』などわかりやすくDNAを解説した本をはじめ、『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか』など、架空生物を最新生物学の視点から語った本が好評を博している。

分子生物学の進展によって、DNAや遺伝子、ゲノムなどという言葉が、新聞やテレビで盛んに取り上げられるようになった。DNA鑑定をはじめ、「天才スポーツマンのDNA」なんて言葉で、個人の体質や性格、運命まで、すべてDNAに支配されているような言い方をされることもあるけれど、ホントにそうなんだろうか?私たちはどこまでDNAについて知っているんだろう? DNAについて正しい知識を身につけてほしい、と武村先生は呼びかける。

生命をつくる設計図が伝え続けられている

───DNAとはどんな物質ですか。

DNAは、私たち人間はもちろん、さまざまな動物や植物、すべての生物の細胞の中にある物質です。正式にはデオキシリボ核酸と呼ばれ、リン酸と糖でできた2本の細長いひもの間を、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基がそれぞれペアになって、はしごの段のようにつないでいます。リン酸、糖、塩基からなる基本構造を「ヌクレオチド」といい、これが長くつながって鎖状になったものがDNAです。
DNAの最大の特徴は複製すること。複製によって、DNAの長い鎖に含まれたその生物を生物たらしめている形質や特徴を伝える遺伝子が、親から子へと代々受け継がれていくのです。このATGCの塩基の組み合わせが、どんなタンパク質をつくるのかを指し示しているわけで、いわばDNAは生命の設計図といえるんですね。

───DNAはどのように複製されるのですか。

ATGCの4つの塩基は、AとT、GとCのように手をつなぐ相手が決まっているので、2本の鎖のうち1本をテンプレート(鋳型)にすれば、それをもとにして、新しいDNAがつくられます。
順序を追って説明すると、まず、DNAの2本の鎖を結合させていた塩基の部分が、ファスナーを開くように開かれて、1本ずつに分かれていきます。次に分かれた一本鎖がそれぞれ鋳型になり、新しい塩基が結合します。こうしてできたDNAが2本鎖となって、複製が完了するのです。

ATGC
MCMヘリカーゼ

一方の鎖を取り囲むようにして結合した「MCMヘリカーゼ」と呼ばれるドーナツ型の分子が、二本鎖を押し開くように進んでいくと考えられている。

───DNAの複製はどのくらいの時間をかけて行われるのですか。

複製は、細胞が分裂しようとするその間際になって始まります。複製が完成するまでの時間は細胞の種類によっても違うけれど、実験室で培養されている細胞でよく研究されていますが、それでも数時間はかかります。私たち人間では、一つの細胞の中には60億対にも及ぶ塩基の文字があるので、それほど短時間には複製できないのです。しかも、DNAがからまったりしないように、あるいは、間違って複製した場合はそれを訂正しながら複製するのですから、たいへんな作業ですね。

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