フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第8回 ニューロンの情報伝達の仕組みとは 科学技術振興機構ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクト 黒谷 亨研究員インタビュー 基礎から応用への段階に入ってきた脳研究。

脳研究は基礎から応用の時代に入った

───これから進むと思われる脳研究の分野には、どんなものがありますか。

国の方針としても、以下の3つは脳研究の重要な柱になると思います。

(1)BMI(brain machine interface)
BMIとは、脳とマシン(機械)をプログラムで結びつけ、脳内の信号で直接機械を動かす技術のことです。たとえば、事故などで手足の機能を失った患者さんの脳波を読み取り、マシンを操作して手足を動かすなどということが現実になる日も遠くないでしょう。
いままでの脳研究は基礎研究の段階でしたが、これからは実際の医療などに結びついた応用の時期に来ているといえますね。

(2)分子生物学を医療に応用
脳の病気はまだ治療困難なものが多い。分子細胞生物学の目標は、からだの細胞の構造と機能を分子レベルで解明することであります。いま、分子生物学が急速に進歩していて、その成果を実際の病気の治療に役立てる段階に来ています。
脳や神経系の老化の原因を分子生物学によって研究し、アルツハイマ-病の起因遺伝子や細胞強化に有効な遺伝子を発見して、治療や予防に応用するなどというのもその一つといえるでしょう。これはあくまで、ひとつの例にすぎません。分子生物学を用いた脳の治療の応用範囲はとても広いと思いますね。

(3)脳研究の人文科学への応用
これは私たちの情動情報プロジェクトとも関連するのですが、脳研究の人文科学分野への応用です。たとえば、いま、インターネットを通じたコミュニケーションが盛んですが、自分の感情、情動情報を他人にうまく伝えられないで、ディスコミュニケーションに陥っている若い人が、みんなの周りにいるかもしれませんね。そうした場合、脳の情報処理技術をネット上にのせて、適切なコミュニケーションを促し、不要なあつれきを避けることができると思います。
もう一つが、芸術と脳科学の融合です。これができれば、これまでの芸術の観念を変えるような新しい芸術が誕生するかもしれません。 こうしてみてくると、脳研究は基礎から応用への段階に来ていることがよくわかります。

───最後に中高校生へのメッセージをいただけますか。

教科書を読んですべて正しいと思いこみ、それを丸暗記する生徒も大勢いるようです。そういう生徒は、ちょっと目先を変えた質問をすると答えられない。そうではなくて、自分の頭でなぜそうなのかを考え、理解するようにしてほしい。まあ、私も中高校生のとき、それができたかというとそうでもないんですが(笑)。でも、言えることは、知識そのものはそれほど重要ではなく、考え方が重要ということ。研究者にとっては、自分が知らない事柄に出会ったとき、それがどういう原理で働いているのかを推測する応用力が求められますね。

(2010年12月公開)

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