フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第18回 難治性皮膚疾患の再生医療 大阪大学大学院医学系研究科再生誘導医学寄附講座 玉井 克人 教授 インタビュー

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第18回 皮膚の再生医療

骨髄由来の細胞が表皮細胞に分化して表皮水疱症の皮膚を再生する

大阪大学大学院 医学系研究科 再生誘導医学寄附講座
玉井克人教授 インタビュー

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玉井 克人(たまい・かつと)
1986年弘前大学医学部卒業。1990年同大学大学大学院医学研究科博士課程卒業。同年弘前大学医学部附属病院皮膚科助手。青森県立中央病院皮膚科、弘前大学医学部皮膚科助手などを経て、1991年米国ジェファーソン医科大学皮膚科留学。1996年弘前大学医学部附属病院皮膚科講師、2003年大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学助教授、2004年同准教授。2010年より現職。

皮膚は実に身近な存在だ。夏には日焼けする。擦り傷、切り傷はしばしばあるし、ときにはニキビやアトピーで悩むことも。そんな身近な皮膚について、炎症のメカニズム、表皮水疱症の再生研究のプロセス、さらには玉井先生の「皮膚哲学」までお伺いした。

皮膚は異物やストレスの鋭敏なセンサー

───「皮膚は地球人の宇宙服」とのことですが、その一方でじんましんが出たりかゆくなったりと、お肌のトラブルはつきものです、私たちの皮膚が炎症を起こすのはどんなメカニズムからなのですか。

私たちの遠い祖先、まだヒトへと進化する前の小さな生き物であったはるか昔に最も困ったのは、ちょっとしたけがをしたとき、外部から入ってきてほしくない細菌などが体の中に入って、あっという間に死んでしまうことでした。そこで、外敵が体の中に侵入してきたときに、それに対応できる免疫システムを獲得していったわけです。その免疫システムは私たちヒトにも伝えられていて、とくに体のうちでも外界と接触する皮膚は、免疫機構が発達しています。
免疫系の中でもリンパ球、マクロファージ、顆粒球などの白血球は、それぞれの特徴を生かしながら、侵入者から私たちの体を守っています。これらの免疫系の防衛者たちが、外敵が侵入したときに起こす反応によって、アレルギーやかゆみ、炎症、湿疹などの皮膚炎がおきます。こうしたアレルギー反応は、「いま体に悪いものが入ってきているよ」という警告を発しているものといえるでしょう。

───外部からの刺激によってだけでなく、ストレスや薬を飲んでも皮膚炎が起きることがあります。

他の器官では、たとえばウイルスがその器官にいると炎症を起こします。ところが、皮膚の場合は、そこにウイルスがいなくても、肺とか気道とか体のどこかにウイルスがいると、「ウイルスに感染しているぞ」という情報が血液を介して皮膚に伝えられ、それに皮膚が敏感に反応して炎症を起こすのです。
ウイルスだけではありません。高血圧のための降圧剤、抗生物質、痛み止めなどの薬も、本来、私たちの体の中にあるものではない異物です。内服薬の場合には腸から、注射の場合には血管から、異物がからだの中に入ってくると、同じように皮膚が免疫反応を起こして炎症を起こすのです。また、がん細胞などが体の中に発生すると、皮膚に異常なかゆみや乾燥などが起き、警告を発してくれます。
そればかりではなく、精神的なストレスを感じたときも、皮膚に炎症が起きることがあります。私たちの脳などの中枢神経系は、末端神経の通っている皮膚にさまざまな情報を送ります。たとえば、太陽が上るのをキャッチすると、血管を開き、汗をかいて体温を下げなさいなどと命令を発します。そして、この命令に従って皮膚が体温を下げる活動をすることによって、内臓の温度が下がり生命活動を維持するわけです。
皮膚は、暑い、寒い、固い、軟らかいなど、外界の状況をキャッチする役割を果たしているため、神経ネットワークが発達しています。中枢神経系で感じた精神的なストレスが末梢神経系の神経分泌因子を介して皮膚の免疫系を異常に刺激すると、皮膚炎が悪化してしまうのです。
皮膚は外界とからだの内部を知る鋭敏なセンサーだといえるでしょう。

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