フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第24回 リハビリとBMI

脳の可塑性がBMIリハビリテーションの研究を加速させる

慶應義塾大学 医学部リハビリテーション医学教室
里宇明元教授 インタビュー

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里宇 明元(りう・めいげん)
1979年慶應義塾大学医学部卒業。同年同大学医学部リハビリテーション科入局、慶應義塾大学病院・月が瀬リハビリテーションセンター、国立療養所箱根病院、国立療養所東埼玉病院にて研修。84年米国ミネソタ大学医学部リハビリテーション科レジデント。85年国立療養所東埼玉病院理学診療科医長、99年埼玉県総合リハビリテーションセンターリハビリテーション部長。2004年より現職。

脳と機械を結びつけて、脳活動の信号を使って機械を動かしたり、脳へ送る感覚情報を機器経由で入力したりするBMI(ブレインマシンインターフェース)をリハビリテーションに応用しようという研究が進んでいる。その第一人者の慶應義塾大学の里宇教授に、リハビリテーションの現状やBMIを使ったリハビリのこれからについてうかがった。

予防、回復、代償の3つがリハビリの役割

───私たちの周りでも、リハビリに通う人が増えているように思います。

日本は世界でも有数の高齢社会になっており、今後さらに高齢化が進んでいきます。お年寄りが増えれば、どうしても介護される人が増え、これから12年先の2025年には要介護・要支援者の数は、700万人にものぼると言われています。
こうした超高齢社会が来て、歳をとって寝たきりになったりすると、本人や家族がたいへんな思いをするだけでなく、社会全体の介護負担が増えてしまい、日本が元気をなくしてしまう。さらに、国際競争力が低下してしまうことにもつながりかねませんね。
そうならないためにも、できるかぎり元気で、自立して老年期を過ごせるようにしたいものです。
リハビリの大きな使命は、元気なお年寄りを増やし、活力のある社会をつくることと言えるでしょう。

───リハビリテ―ションというと、病気などで失った身体の機能を訓練で回復させるというイメージがあります。

多くの皆さんがそう思いがちですが、そればかりではなく、リハビリには大きく3つの役割があります。
一つは、症状がそれ以上悪くならないように「予防」することです。以前は脳卒中などで倒れると、患者さんをベッドの上で安静にさせ、動かさないようにするのが常識でした。しかし今では、リハビリの目的はただ単なる後遺症の治療というだけではなく、できる限り早い時期からリハビリを行って、筋力が落ちないような予防措置をとることが非常に大切であると考えるようになっています。
二つ目は、失われたからだの機能を「回復」する役割です。「森の教室」でもお話ししたように、機能を回復させるためのさまざまな方法が開発されているので、それらを使って少しでも元のからだに近づけられるようにします。
そして三つ目は、失われた機能が回復できなかった場合には、そうした機能を「代償」するためのリハビリです。たとえば、片方の手が麻痺した場合、麻痺のない反対側の手を使って、箸やペンなどが使えるような訓練をします。また髪の毛をとかすブラシに通常より長い柄をつけるなど、補助用具を使うなどの工夫も必要です。
こうした予防、回復、代償の3つの要素のリハビリを患者さんの状態に応じてバランスよく行って、患者さんの社会的参加を手助けしたり、豊かな生活を送れるようにすることがリハビリの重要な役割と言えるでしょう。

───高齢になったり、からだが不自由になると、動くことが大変になります。リハビリでもからだをうまく動かすことが大切なポイントになってくるのではありませんか。

動くためには、脳から指令を出して、神経、筋、骨、関節などを働かせるシステム、そして呼吸や循環器によってエネルギーを供給するシステム、さらには、動くための生活環境の3つが整っていることが必要です。
「動きにくい」という現象が出てきたときには、こうしたシステムのどこかに障害が起きているわけです。脳、筋肉、骨などの病気のほか、呼吸や循環系が働かなければ動けません。高齢者の場合には、これらのどれか一つの要因だけではなく、脳卒中を患って片麻痺がある、変形性膝関節症を患っていて膝が痛い、心臓病を持っていて息切れがしやすいなど、さまざま要因を抱え込んでいる場合があり、これらが複合して「動くことができにくい」状態に陥っている場合もあります。
したがって、高齢者のリハビリは、一つの要因だけでなく「動く」という観点から、何がどう障害されているのか全体的に見て、多面的にアプローチすることが重要になります。

───システムで関わるとなれば、生活環境の整備も欠かせないということになりますね。

ええ、その通りです。たとえば、生活環境が整っている病院では歩くことができても、自宅に戻ったら部屋に段差がある、からだを支える手すりがないなど、生活環境が整っていないために歩くことができなくなったというケースもあります。

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