フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

フクロウ博士の森の教室 シリーズ1 生命科学の基本と再生医療

第29回 ダイレクト・リプログラミングとは

軟骨細胞のダイレクト・リプログラミングを再生医療と軟骨疾患の解明に役立てたい

京都大学 iPS細胞研究所 妻木範行教授 インタビュー

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妻木 範行(つまき・のりゆき)
1989年大阪大学医学部卒業。研修医、堺市立病院整形外科医員などを経て、92年大阪大学大学院医科学研究科博士課程卒業。96年米国国立保健所(NIH)留学。98年大阪大学医学部整形外科助手、99年大阪警察病院整形外科副医長、2002年大阪大学大学院医学系研究科整形外科助手、07年同大学同研究科 骨・軟骨形成制御学独立准教授、09年独立行政法人科学技術振興機構CREST研究代表、11年京都大学iPS細胞研究所 増殖分化制御部門 細胞誘導制御学分野教授。

iPS細胞を介することなく、体細胞から直接目的の細胞に誘導するのが「ダイレクト・リプログラミング」だ。2013年に皮膚線維芽細胞から軟骨様の細胞への誘導に成功した妻木範行教授に、ダイレクト・リプログラミング研究の可能性をうかがった。

軟骨の分化機構の研究に没頭

───妻木先生が整形外科医の道を選んだのはなぜですか。

中学生時代から柔道をやっていて、大学に入ってからは医学部のラグビー部に入るなど、スポーツが好きだったんです。柔道やラグビーをやっていて何度か骨折し、整形外科にはお世話になっていたこともあり、私も整形外科医になりたいと思ったわけです。大学に入学したとき、研究者ではなく臨床医の道を歩もうと思っていたのですが、3年生のときに先生から軟骨研究の手ほどきを受けて興味を覚え、その後、大学院で軟骨がどのようにできてくるのか、軟骨の発生の研究を本格的に始めることになりました。

───発生というと、受精卵が分化するところから研究を始めるのですか。

いいえ、軟骨ができるその直前の段階から研究します。軟骨は、コラーゲンでできているのですが、当時、分子生物学が盛んになって、コラーゲンをつくる遺伝子をクローニングする(タンパク質の情報を持った遺伝子部分を特定し、その部分を取り出して大量に増やす)研究が行われるようになっていました。私も大学院時代は、軟骨のコラーゲン遺伝子を見つける方法を指導教官から教えていただき、研究に打ち込みましたね。1995年には軟骨に特有のⅪ型コラーゲン遺伝子のクローニングに成功しました。
ちょうど1990年代の終わり頃から、多くの研究者の努力によって、軟骨のコラーゲンを発現させる多くの転写因子が見つかっていました。
私たちも軟骨でコラーゲンがつくられる仕組みを解明するために、遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス)を作製する方法にもチャレンジしていました。そして軟骨をつくる遺伝子を失ったマウスや軟骨ができないヒトの遺伝子情報を調べるなかで、Sox9という転写因子が重要な役割を果たしていることがわかってきたのです。つまり、軟骨になる手前の段階の細胞にSox9が働いて、軟骨のコラーゲンをどんどん作らせて軟骨ができていくわけですね。

───当時の研究の目的は何だったのですか。

そのときは、遺伝子をクローニングする作業が楽しかったので、目的がどうのというよりも、研究自体に没頭していました。その一方で、軟骨は一度損傷すると元に戻らず、治療が難しいということを臨床で実感していたので、からだの中で軟骨ができるしくみを理解することによって、軟骨細胞をつくり出すことがきれば臨床に役立てられると漠然と考えていたのです。

───米国に留学されていますが、どんな研究をしていたのでしょう。

先ほどお話ししたように、Ⅺ型コラーゲンの遺伝子のクローニングに成功したので、この遺伝子(転写因子)に何かほかの遺伝子をつなげば軟骨をつくることができるかもしれないと考え、米国では大学院時代の延長線上の研究をしていました。以前からBMP(骨形成因子)が骨や軟骨をつくるのに重要な働きをすることがわかっていましたので、Ⅺ型コラーゲンの遺伝子にこのBMPをつないで、マウスを使って軟骨の発生にBMPがどのようにかかわっているのかを調べました。
この頃、私たちだけでなく、軟骨の発生の研究に関しては多くの研究者が取り組んでいて、その成果を米国留学で学ぶことができ、「軟骨の分子レベルでの仕組みが明らかになりつつある」と実感しました。

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