フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

フクロウ博士の森の教室 シリーズ2 脳の不思議を考えよう

第9回 脳の中のGPS「場所細胞」

場所細胞は、私たちが外界をどのように認知し記憶するかを探る覗き窓

同志社大学大学院 脳科学研究科 髙橋晋准教授 インタビュー

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高橋晋(たかはし・すすむ)
1998年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業。2003年同大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修了。博士(工学)。2006年 (独)日本学術振興会 特別研究員(PD) (京都大学大学院文学研究科心理学教室所属)、2008年京都産業大学コンピュータ理工学部助教、(独)科学技術振興機構 さきがけ研究員(兼任)を経て、2012年より同志社大学大学院脳科学研究科システム脳科学分野神経回路形態部門准教授。

2014年のノーベル賞受賞者オキーフ博士などの研究によって明らかにされた場所細胞は、単に位置情報に関係する細胞ではなく、過去、現在、未来の時間情報も持っていることが分かってきた。エピソード記憶にも関係しているという研究や、認知症患者の徘徊の原因に場所細胞が担うナビゲーション機能の障害があるといった研究も進んでいる。場所細胞研究の第一人者の高橋晋先生に、場所細胞研究の醍醐味を語ってもらった。

人工知能の研究から海馬研究へ

───高橋先生が「場所細胞」の研究を始めたのはどうしてですか。

大学時代はコンピュータ科学を専攻していました。人工知能などに興味があったからですが、いろいろ調べてみると、人工知能の前に脳のことが全然分かっていないことに気づいたのです。そこで認知科学の第一人者である慶應義塾大学の安西祐一郎先生(現日本学術振興会)のもとで脳科学を学びました。修士に進んでからは、慶應に籍を置きながら玉川大学の脳科学研究施設(現脳科学研究所)に通い、ラットの脳に電極を刺して活動記録をとっていたんです。最初のうちは脳が音にどう反応するかに興味があり、聴覚と脳について研究していましたが、次第に記憶に興味を持つようになり、博士課程ではやはり慶應に籍を置きながら京都大学文学部の櫻井芳雄先生(現同志社大学)のもとで研究を行いました。

───京都大学ではどんな研究を行ったのですか。

櫻井先生の研究室では、海馬と記憶とセルアセンブリの研究をしていました。セルアセンブリとは、特定のニューロン集団が特定の情報を表現するために次々と形成されていくことなんですが、これらの関係性を記録する研究です。
その後、日本学術振興会(JSPS) 特別研究員(PD)、科学技術振興機構(JST)の研究員として、櫻井先生のもとで戦略的創造研究推進事業(CREST)「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」の研究に携わりました。その後、複数のニューロン活動をリアルタイムで計測する技術を用いて、意図した方角を解読して車を移動させるBMIの開発など、コンピュータと脳を直結させる研究をしたりしていたわけです。

───そうしたなかで、場所細胞研究の面白さを見出したわけですね。

ええ、場所細胞を研究することで、脳のナビゲーションシステムの秘密が見えてくる。動物が位置をどのように把握しているかが視覚化できる特別な細胞で、研究の対象としてすごく魅力がありました。

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