この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第3回 組織工学の手法で、気管再生に取り組む ハーバード大学 組織工学・再生医療研究室 小島宏司 准教授

自分の細胞でからだの組織をつくる研究

───小島先生の研究内容を簡単に教えていだだけますか。

私が研究しているのは、前にもちょっと触れましたが「組織工学(ティッシュ・エンジニアリング)」で、機能を失った臓器や組織の代替品を、生命科学と工学をうまく組み合わせてつくりだすことです。「Tissue (ティッシュ)」とは人のからだの「組織」のことを言い、「Engineering(エンジニアリング)」は「工学」を意味します。
少し具体的にいうと、患者さんから細胞を取り、培養皿でたくさん細胞を増やします。そして一方では、ちょうどジャングルジムに似た骨組みをつくり、この増やした細胞をその骨組みに付着させ、傷ついたからだのそばに埋め込むのです。この足場の材料は、からだの中に入れて何週間か経つと溶けてなくなるのですが、その間に細胞が足場の形になって骨や軟骨などの組織になっていくというわけです。
私は、この方法を使い、ヒツジの鼻と鼻の間にある鼻中隔という軟骨を5ミリほど取って、その軟骨の細胞を増やしました。足場になる材料を気管のような管の形にしてつくり、それに培養した軟骨の細胞を付着させたのです。それを傷ついたヒツジの気管のところに埋め込み、見事に気管を再生することに成功しました。ヒツジで成功する前段階では、ヒツジより小さいマウスで実験をしていましたが、マウスでも成功していました。

患者さん自身の細胞を培養して、その細胞を足場となる骨組みに付着させ、人体に埋め込んで、目的の臓器をつくりだす。

患者さん自身の細胞を培養して、その細胞を足場となる骨組みに付着させ、人体に埋め込んで、目的の臓器をつくりだす。

細胞を付着させるための材料は、PGA(ポリ乳酸)でできていて、からだの中に入って一定期間が経つと溶けてなくなってしまう。

細胞を付着させるための材料は、PGA(ポリ乳酸)でできていて、からだの中に入って一定期間が経つと溶けてなくなってしまう。

骨組みに付着させた細胞が次第に塊になっていく。

骨組みに付着させた細胞が次第に塊になっていく。

小島先生は、ヒツジの気管を人工的につくろうと考えた。気管は管状になっているので、PGAを材料とした管の形の骨組みに細胞を付着させた。

小島先生は、ヒツジの気管を人工的につくろうと考えた。気管は管状になっているので、PGAを材料とした管の形の骨組みに細胞を付着させた。

マウスの背中に人工気管をとりつけると、やがて、からだの組織として定着した。右は8週間後

マウスの背中に人工気管をとりつけると、やがて、からだの組織として定着した。右は8週間後

The FASEB Journal(Vol.17 May 2003)掲載の小島先生の論文より p823-p828

組織工学の手法で、ヒツジの気管をつくることに成功。

組織工学の手法で、ヒツジの気管をつくることに成功。

The Journal of Thoracic and Cardiovascular Suegery(Volume123, Number6 June2002)掲載の小島先生の論文より p1177-p1184

人工気管をとり付けられて、元気なヒツジの様子。

人工気管をとりつけられて、元気なヒツジの様子。

───ティッシュ・エンジニアリングによってからだを再生する意味はどんなところにあるんでしょう。

気管に限らず、肺でも心臓でも、移植による治療は他人の臓器を使うため、免疫システムが働いて、拒否反応が出ることが壁になっています。けれども、たとえば、自分の鼻の軟骨の細胞で人工的に気管をつくれば、それは自分に由来した臓器、細胞なので拒否反応がおこりません。他人の臓器を使う際に問題になる倫理的な問題もクリアされます。
将来、気管、肺、心臓、膵臓などの治療がこうした方法でできれば、多くの患者さんを救うことができると思いますね。iPS細胞だってティッシュ・エンジニアリングの技術と組み合わせれば、臨床の現場で役に立つ、明日の技術なんです。

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