この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

Y染色体が消えてゆく!?

───黒岩先生は、『消えゆくY染色体と男たちの運命』という本を出版されました。ドキッとするようなタイトルですが、どんな内容なのですか。
『消えゆくY染色体と男たちの運命—オトコの生物学 』2014年03月07日発行学研メディカル秀潤社

『消えゆくY染色体と男たちの運命—オトコの生物学 』
2014年03月07日発行
学研メディカル秀潤社

トゲネズミにY染色体がないという話と多少関連するのですが、オスが持っているY染色体は、長い進化の過程で退化し続けています。そんなことから、Y染色体がこの世からなくなって、やがて男がいなくなってしまうのではないかという説が唱えられるようになったので、その説は本当なのか、Y染色体はなぜ退化してきたのか、Y染色体が消えてしまうと男たちはどうなるのか、「オトコの生物学」の謎に迫ろうというものなんです。

───とてもおもしろそうな話ですが、もう少し解説してください。

哺乳類の祖先が地球上に登場したのは今から3億年ほど前のことで、そのころはまだX染色体とY染色体の区別はなく、常染色体と同じようにペアであり、現在の性を決定する遺伝子もありませんでした。
ところが、染色体のペアの片方にたまたまオスをつくるのに有利な遺伝子が現れたとします。さらに、またオスに有利な遺伝子が現れて、これらの遺伝子がタッグを組み、こうしてオスをつくる遺伝子を持ったY染色体が選択的に残っていったと考えられています。
さて、染色体は通常はペアで存在し、遺伝子に傷ができたりすると、染色体同士の腕を交叉させて、変異を修復することができます。けれども、Y染色体とペアを組むX染色体とは、染色体の先端のほんのちょっとした部分以外は、まったく違うものなので、傷ができても修復をすることができません。さらに染色体中には、「トランスポゾン(転移因子)」という塩基配列が存在していて、染色体の間を自由に移動することが知られています。この転移因子はときに悪さをすることがあり、Y染色体の性決定遺伝子の周辺に飛び込んできたりすると、変異がチェックされずに有害な配列が蓄積されてしまうんですね。

───そうするとどうなるのですか。

今度はこの有害配列部分が切れてなくなる「欠失」という変異が起きます。この欠失は3億年という長い年月の間繰り返され、そのためY染色体はどんどん短くなってきたのです。かつて1100種類以上あったY染色体の遺伝子は、今では実際に役に立つのはわずか50種類くらいしかありません。そしてY染色体の遺伝子の傷の蓄積と欠失は、現在もなお男性の細胞の中で進行中なのです。

───Y染色体がどんどん短くなって消失すると、この世からオトコは消えてなくなるのですか。

そう簡単にY染色体が消失するとは思えませんが、遠い将来、もしY染色体が消失しても、トゲネズミのようにほかの染色体にオトコを決定する遺伝子を新たに作り出すなどして、生き延びていくのではないかと思っています。

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