中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

生きた細胞から多重チューブの作製に成功

「けれども、インクジェットの液滴は小さいためにすぐに乾いてしまうという問題もありました。生きた細胞は乾燥にすごく弱いのです。そこで液体のように湿潤していながら固体のように硬さも持ち合わせているゲルを使って、打ち出した細胞をそのゲルで固めたらどうかと考えました。このゲル化材料として使ったのは、アルギン酸ナトリウムです。これは海草などに含まれている物質で、細胞にとって毒性がなく、生体親和性の高い(からだになじみやすい)材料なんです。インクジェットから細胞を打ち出したところ、生きたままゲルに包み込まれ、ビーズのようになった細胞をつくることに成功しました。さらにラインを引くとゲルのファイバーとなって、水溶液の中でもばらばらにならない3次元の積層構造がつくれました」

そこで、中村先生はインクジェットプリンターをさらに進化させ、「インクジェット3Dバイオプリンター」を制作することにした。(財)神奈川科学技術アカデミーで、3年間の「バイオプリンティング・プロジェクト」を率いることになった先生は、機械づくりや細胞培養の専門スタッフを集めて開発に挑戦した。
「とても素晴らしいスタッフで、私が考えていることをくみ取って実現する方法を編み出してくれましたね。こうした研究は、生物、医学の専門家だけではダメだし、機械屋さんだけでもできない。いまよく言われている医工連携が必須なんです」
自作された装置は、コンピュータプログラムでヘッドの動きを制御でき、ラインやシート、サークルなどのパターンを自由に描くことが可能となった。連続して重ね塗りをしていくことでシートを積層(積み重ね)させることができ、溶液中に3次元のチューブ構造が作製できた。さらに、インクジェットプリンターのカラー技術を応用し、多色刷りによる3次元造形を実現させたのだった。

写真:インクジェットを利用した『3Dバイオプリンター』1号機

インクジェットを利用した『3Dバイオプリンター』1号機

「私たちの動脈や静脈などの血管は、内側の層に血管内皮細胞を持った多重チューブ構造をしています。そこでインクジェットの2色インクを使って、生きた細胞を配置した二重構造のゲルチューブを作製することに成功しました」

写真:血管を構成している2種の生きた細胞を配置した二重構造のゲルチューブ(直径1mm)

血管を構成している2種の生きた細胞を配置した二重構造のゲルチューブ(直径1mm)

このほか、中村先生は開発した3Dバイオプリンターでさまざまな2次元、3次元構造体をつくってきた。たとえば、1辺が1cm×1cmのシートを連続的に積層し、厚さ7mmのシートをつくったり、髪の毛と同じ太さの直径100µmのチューブ、さらには、直径1mmのチューブでは16cmを超える厚さまで積層して作製したという。

チューブの打ち出し

チューブの打ち出し

水溶液中に、立体チューブを打ち出す(動画)

PAGE TOPへ