中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

チューリング理論の実証で『Nature』の表紙を飾る

留学先から日本に帰った近藤先生は、専門とする免疫の研究の傍らチューリング理論の証明の準備を進めていった。タテジマキンチャクダイを有力候補に決めたものの、この魚の縞模様の変化について詳しい人はいるのだろうか。
「京都大学の魚の専門家に聞いて回り、webでも調べたけれど、これまでタテジマキンチャクダイの縞模様が動くと述べている人はいませんでした。そこで水族館や熱帯魚屋を回ったところ、一軒の熱帯魚屋のおばちゃんが、『魚の模様は動く』と断言してくれたんです。ここの店では入荷した魚を餌付けして人工餌を食べるようにしてから売っており、毎日一匹一匹の魚を注意深く観察していたから縞模様が増えることを知っていたんですね」

このおばちゃんの言葉に勇気百倍。先生は当時50万円近くもした水槽一式とタテジマキンチャクダイを買って、縞模様の観察を始めた。
「といっても、魚が大きくなるのは結構時間がかかるんですよ。魚が病気になると夜中まで看病したり、おばちゃんに電話してアドバイスを受けたり、たいへんでした(笑)。
チューリング・パターンのシミュレーションでは、縞の数を増やしていくと、ちょうどジッパーが開いていくようにして増えていきますが、実際のタテジマキンチャクダイも同じように縞の数が増えていきます。最初は、期待が大きすぎて、気のせいか目の錯覚かとも思いましたが、観察を続けると間違いないことがわかりました」

タテジマキンチャクダイの模様の変化

タテジマキンチャクダイの模様の変化。成長して縞の本数が増えるとき、ジッパーが開くときのように一本が2本に分裂していく。下はチューリング理論による変化の予測シミュレーション。

クリックするとチューリング理論による
シュミレーションの動きがわかるよ!

この結果を『Nature』に投稿したところ、見事掲載が決まったという知らせが届いた。
「審査員の中に、私がドイツに会いに行ったマインハルト先生がいて、『I like this paper very much・・・・・・I fully support this paper』とありました」

こうして1995年、近藤先生の論文は『Nature』の表紙を飾った。チューリングが1952年に「反応拡散系」理論を提唱してから半世紀も経って、動物の模様は「波」からできることが生命科学的に実証され、生命科学界に大きな衝撃を与えたのだ。

ゼブラフィッシュの縞模様のうち、背側の2本をレーザーで焼いて消したあとの変化。腹側の縞が上のほうに移動して行き、ちょうど釣鐘のような形を作った。この変化もコンピュータの計算とぴったり合う。

PAGE TOPへ
ALUSES mail