マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第4話 マンモス復活
絶滅動物を復活させる話はSF映画の定番だ。映画「ジュラシック・パーク」はその代表で、琥珀に封じ込まれたDNAから恐竜が蘇った。ありえないと思いながらワクワクさせられたが、遺伝子工学やクローン作製技術の進展によって、こうした夢物語が現実になろうとしている。では約4000年前に絶滅したといわれるマンモスが現代に復活する可能性はあるのだろうか?
地球の生物に 興味津々の ドッキンです
わ~! かっこいい!
この動物に 会いたい ドッキ!
どこにいるの? 動物園?
それとも 外国の大草原 かなぁ~?
だめだよ ドッキン
それはすでに 絶滅してしまった 「マンモス」という 生き物なのよ
えっ……
ゼツメツ!?
そうなん ですよ……
私たちはその 絶滅してしまった マンモスを 復活させよう!
という研究を しています!
加藤博己 先生 かとうひろみ 近畿大学先端技術総合研究所 教授
マンモスとは!?
マンモスは 大きな牙と長い鼻をもった ゾウに似た生き物です
全身が長い毛で覆われた 「ケナガマンモス」が有名です
ケナガマンモスは かつて 北半球の広い範囲に 生息していました
しかし 氷河期が終わるころには だんだんと数が減り
今から 4000年ほど前に 絶滅した……と 言われています
現在では 生きているマンモスは もういませんが
シベリアなどの永久凍土から のこされたその体が 発掘されています
マンモス 復活について 最初に考えていた 私たちの作戦は
まず マンモスの体から 状態のよい細胞を 取り出して
遺伝情報が 含まれている 細胞核を取り出す…
一方で メスのゾウの 卵子から 核を取り除いて
かわりに マンモスの 細胞核を注入
刺激を与えて 胚になるまで 培養し
それを ゾウのメスの 子宮に移植して
赤ちゃんマンモスの 誕生を待つ……
という ものでした!
発掘された マンモス
メスのゾウ
細胞核を 取り出して 入れる
卵子
核
培養
子宮に移植
赤ちゃん マンモス?
ゾウに 代理のお母さんに なってもらう…… ってことなのね!
え~っ! そんなこと できるの!?
ドキドキ する~!
ところが 最初に手に入れた マンモスの細胞は 使いものに なりませんでした
なぜ!?
「永久凍土」と聞くと ガッチリ凍っていて 絶対にとけない地面だと 想像するでしょう?
でも実際には みなさんの家にある 冷凍庫よりも温度が高くて
アイスクリームを 入れておいたら とけてしまうような 感じなんです
そんな 温度変化の激しい環境で 凍ったりとけたりを 繰り返すため
発見される マンモスの体は
まるで 冷凍焼けで パサパサの肉のような 状態になっていることが 多いんです
または ビーフジャーキーの ような……!?
えぇ~
そして2010年
ロシア連邦東部 サハ共和国北部にある ユカギル地域で
非常に状態のよい マンモスが 発見されました
それは「Yuka」と 名付けられました
私たち研究チームは DNAを調べてこれが確かに マンモスだと確認しました
保存状態がとてもよくて たくさんの種類の タンパク質があることも わかりました
今度はうまくいきそうだ…!
Yukaの細胞の核を取り出して マウスの卵子に注入したところ
マンモスの細胞核の一部が マウス卵子の細胞核に 取り込まれていくようすが 観測されました
マウスの核 マンモスの核
分裂!
そのとき 一部が取り込まれ…
マンモスの核の一部を 取り込み大きくなる マウスの核
しかしその後 細胞分裂まで たどりつくことは できませんでした
DNAが傷んでいて その反応を起こす力が なかったのです
ええ〜っ
Yukaほど 状態のいいものでも だめ……
私たちは マンモスの復活には 最初に思っていたのとは違う 新しい作戦をとる必要がある と考えるようになりました
また この研究が始まった 数十年前と 時代が変化したことで 研究倫理に対する 世の中の考え方も 変わってきました
絶滅危惧種のゾウの卵子や子宮を マンモスの復活のために使うなんて よくないんじゃない!?
……と 人々が考えるように なったんです
あっ…… そうかぁ!
これからマンモスを 復活させるとしたら 最新の合成生物学の 技術によって……
マンモス1頭ぶんのゲノム情報から 核とミトコンドリアを合成して 組み合わせてマンモスの細胞をつくり
それからiPS細胞を経て 卵子と精子をつくって受精させて 胎児を人工子宮で育てる方法が いいんじゃないか……
……と 考えています!
しかし もしそれが実現しても 新しい問題が 生まれるでしょう
本来のマンモスの赤ちゃんは 生まれてから お母さんの消化管内にいる 微生物を受け取ることで その後食べる草を 消化できるようになるのですが
赤ちゃんマンモスを 人工子宮で育てると この微生物の受け渡しが できず……
草を食べても 消化することが できません
腸内細菌が お母さんから 引き継がれる
培養
人工子宮
腸内細菌がない
また 氷河期と現在では 環境もまったく 違います
マンモスが 本当にこの世界で 生きていけるのか?
それに 現在の生態系 他の生物や環境への影響も 考える必要があります
そうか… 単にマンモスだけを 復活させればいい という話じゃない ってことだね
復活させたあとのことを 考えてみたことが なかったわ…!
ドキドキ…
じゃあ こんな研究なんて しない方がいいのか?
というと そういうわけでは ないんです
この技術を伸ばすことで 関連するさまざまな技術も 発展していくでしょう?
こういうことが 生命科学の研究では とても重要なんですよ
ここから何がわかる? 種とは、生物とは、 生命とは、 生とは、死とは…?
……と 考えることにも なるでしょう
これからも 続けて いきます!
よろしくお願い しマンモス!
マンモス復活は 今の段階だとまだ 難しいかもしれない…
生物は環境の中で 他の生物と一緒に生きるもので その生物だけを復活させよう という考えではうまくいかない
でも絶滅種を復活する研究は 続けることが大事だとわかった
……よし! DOKIDOKI星に送る レポートが完成 したドッキ!
でもやっぱり いつの日か マンモスの復活を 見てみたいね~
ドキドキ する~!
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お話をうかがった先生
加藤 博己
(かとう・ひろみ)
近畿大学 先端技術総合研究所 生物工学技術研究センター教授
1993年京都大学大学院農学研究科畜産学専攻博士課程修了。京都大学博士(農学)。93年日本学術振興会 特別研究員、1996年米国コロラド州立大学ARBLポスドク、97年に帰国後、近畿大学研究員、先端技術総合研究所講師、准教授を経て、2013年より現職。ウシやヒツジの体外受精における卵子の体外成熟の研究や、世界初のウマの顕微授精による産仔作製等にかかわる。四半世紀前から近畿大学のマンモス復活プロジェクトに携わる。専門は生殖生理学、分子生物学、古生物学。