中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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  • 免疫についての最新のトピックスを教えてください。

「マイクロバイオーム」と免疫に関する研究を紹介

最近の話題から、人体の「マイクロバイオーム」と免疫に関する研究についてお話します。
「マイクロバイオーム」の研究とは、人体とそこに存在する微生物との関わりのことになります。ヒトの細胞の数は、60兆個に及ぶといわれますが、人体には腸をはじめ、皮膚や口などには、ヒト細胞数の10倍もの細菌や微生物がいると言われています。
ヒトは新生児として生まれた際には無菌ですが、母親の胎内から出て、母乳を飲み、両親や祖父母に抱かれ、兄弟や友達に接する間に急速に微生物が身体について増えてゆきます。また、日常的に接触する物品やペットからも微生物は移り、この「マイクロバイオーム」が形成されてゆき、そうしてヒトはその個人ごとに独自の「マイクロバイオーム」をもつに至ります。
また、「マイクロバイオーム」に含まれる細菌や遺伝子は、ヒトにとって危険なものではなく、ヒトの基本的な生理機能を助けてくれる重要な存在である可能性があることが判りました。

以下に微生物とヒトとの共生関係にある可能性を示唆した最近の2つの研究について紹介します。

■T細胞に関する研究

白血球の中にT細胞がありますが、体内に侵入した微生物を攻撃し、感染した場合の全身の炎症反応(腫れや発熱など)を引き起こします。T細胞には炎症性T細胞と制御性T細胞があり、この2種類のバランスにより免疫が適正に保たれます。

制御性T細胞は、炎症性T細胞の攻撃性を抑制する蛋白質を産生してコントロールしています。これは炎症性T細胞の放出する物質がヒトの細胞や組織を過剰に攻撃することを抑えるための機構ですが、長年、ヒトが自己の免疫系でそのバランスを調整していると考えられていました。

しかし米国の研究者が、腸内にいるバクテロイデス・フラジリスという一般的な細菌が、制御性T細胞を増やすことに関わって、免疫系のバランスを保っていることをマウスの実験で発見しました。そして、さらにその後フラジリス菌の表面に存在するある物質が、制御性T細胞の産生を促し、炎症性T細胞がフラジリス菌を攻撃しないことを発見しました。つまりT細胞の自律性は、ヒトの自前のものではなかったという可能性を示唆します。この発見は2011年に『Science』誌に発表されています。『Science』誌は世界で大変権威ある科学雑誌のひとつです。研究者は、免疫系を手助けするこのような微生物は他にもいるだろうと指摘しています。

■ピロリ菌の研究

ピロリ菌は胃に生息して、潰瘍の発生を促すことは今や広く知られ、また胃癌の発生リスクを高めるとの報告もあります。ところがこの菌も、米国の研究者がヒトの健康に有益な共生関係をもつ可能性を報告しました。

胃では食欲に関するグレリンというホルモンが作られています。空腹を感じるのはグレリンが高いためで、食事をとるとグレリンは低下します。その研究者がピロリ菌の保菌者と非保菌者で、食事前後のグレリン濃度を測定したところ、保菌者はグレリンが低下するが、非保菌者は低下しないという明快な結果を得たと言います。これはピロリ菌が食欲の制御に関わっている可能性を示唆していることになります。

ところで米国では抗生物質の使用で保菌者がかなり減り、子供では6%程度だといいます。米国は肥満対策が急務とされている国ですが、もしかしたら、ピロリ菌との共生が崩れたために肥満が増えているのかもしれません。

これらの研究では人体の自律性が、人体自身と人体の「マイクロバイオーム」を合わせた複雑な生態系によって実現されていることを示していますが、最近では薬剤の使用や生活環境の変化により、人体の「マイクロバイオーム」がだいぶ変わってきていると研究者はいいます。そしてその変化がヒトの免疫系に変化を及ぼしているのではないか、近年の自己免疫疾患の発症の増加につながっているのではないかとの仮説を提示しています。

微生物の感染が減ったことと免疫疾患が増えたことには相関関係があるようですが、そのどちらが原因でどちらが結果かは、これからの研究を待つところのようです。(update:2012.11.28)

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