公益財団法人テルモ生命科学芸術財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2017」レポート
生命科学関連のさまざまな講義と
最先端の医工連携施設での実習に参加した2日間

[1日目]

生命科学や生命工学で日本をリードする研究者による最先端講義と若手研究者4人が研究者をめざしたわけを知る!

1日目は2人の先生と4人の若手研究者によるレクチャー。最先端の再生医療や生命工学を切りひらく研究者の生のメッセージからは研究の重要性ややりがいが伝わってきた。
夕食を兼ねた懇親会では、若手研究者も加わって全国から集まった高校生たちがコミュニケーションを深めた。

第1部/講義1
人工臓器最前線-エンジニアが先進医療に挑戦する

早稲田大学理工学術院教授
工学博士・医学博士 梅津光生先生

TWIns(ツインズ)って、どんな施設?

講義の冒頭、梅津先生はサイエンスカフェ2日目の会場となる「TWIns(ツインズ)」がどんな施設なのか、先生が所属する総合機械工学科ではどのような研究・教育が行われているかを話してくれた。

「TWInsというのは東京女子医科大学と早稲田大学による医工融合研究教育拠点である東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設のことです。東京女子医科大学のTと早稲田大学のW、そしてInstitution(施設)とを組み合わせた、TWIns(双子)がこの施設の通称となっています。
両大学は人工心臓の研究開発をはじめ、医学と工学にまたがる学際的な研究で50年以上にわたり協力と交流を進めてきており、2000年に正式な学術交流協定を締結。2008年4月に創設されたのがTWInsです。来年で創設からちょうど10年を迎えます」
梅津先生によると現在、早稲田大学からは450人、東京女子医科大学からは150人がここでの研究に携わっており、そのうち約300人が大学院生という。

「さて私が所属している総合機械工学科についてお話ししましょう。機械工学で何を学ぶかといえば、基本はニュートン力学です。さらに、新しい技術開発に向けてニュートン力学を超える知識、たとえば脳科学、認知心理学、量子力学、複雑系の力学といったものも大切になっています。ただし、いくら勉強しても知識だけでは『もの』は創れません。いくら自転車のメカを知っていても自転車には乗れない。それと同じで、『ものを創る』という体験が必要です。知識と体験を総合的に学び、ものづくりをデザインする力を獲得することが求められています」

「医学と工学が一緒にやる時代が来る」と恩師の言葉

梅津先生は人工臓器研究の世界的なパイオニアで、世界でも数少ない機械工学と医学の両方の分野に精通した研究者。40年以上にわたって人工臓器の開発に取り組んできた。先生がこの道に入ったきっかけがちょっと変わっていて、キーワードは「鉄道」だった。

「私の趣味は、小学生以来鉄道の時刻表を見たり、旅行をすることで、現在は早稲田大学の稲門鉄道研究会の会長でもあります。私が入学した当時の教授に東海道新幹線の関ヶ原の消雪用スプリンクラーを開発した流体制御の専門家である土屋喜一先生がおられました。この先生の研究室に入れば鉄道の研究ができると意気込んでいたところ、『残念だったね、その研究はもう終わったよ』とおっしゃるのです。そして、『これからは医学と工学が一緒にやる時代が来るから、医学をやりなさい』と言われました。でも私は、病気になったこともなければ、医者になろうと思ったこともない。医学なんて関係ないと言ったら、先生は『関係というのはあるかないかじゃない。いかにこじつけるかだよ。人のからだを見てごらん。血液が流れているだろう。指先の隅々にまで欲しいときに欲しい分だけ血が流れている。これは究極の流体制御(Fluid control)だと思わないのか』」
この土屋先生の言葉によって、梅津先生は医学と工学の融合分野の研究に進むことになる。

人工心臓づくりに挑む

大学院に進んだ梅津先生を待っていたのが、犬を使う実験だった。しかし、この研究では犬を100頭も殺さざるをえない。犬好きの梅津先生にはそれが大きなトラウマになったという。なんとか無駄に動物を殺すことのないテクノロジーを開発したい、こうして動物実験が不要となるシミュレーターを開発。特許の取得にまで至った。それを論文にまとめ、生まれて初めて国際学会で発表したところ、聞いていたのが、国立循環器病センターの初代病院長となった大阪大学の当時の第一外科主任教授・曲直部寿夫先生だった。
「曲直部先生は『こんなおもしろい発表を聞いたのは初めてや。きょうほど医学と工学が一緒にやらなきゃいかんということがようわかった日はない。どうだ、大阪に来て一緒に働かんか』と誘ってくださいました」
こうして梅津先生は国立循環器病センター研究所の開設メンバーの一人として加わり、人工臓器開発プロジェクトの初代リーダーとなった。その後企業化された体外設置型の空気圧駆動人工心臓はこれまで1000人以上の患者に使われている。また「EVAHEART」と呼ばれる体内埋込型の遠心式補助人工心臓は、東京女子医科大学の山崎健二教授発案のものを、諏訪の精密工業のベンチャーが中心になって、東京女子医科大学、早稲田大学、ピッツバーグ大学、そして企業50社の知恵を結集してつくり上げられたもので、商品化されてこれまでに120人の患者に使われている。
医工連携による人工臓器の開発によって、実際に多くの人を救っているのだ。

梅津先生は、次のように述べて講義を締めくくった。
「TWInsがオープンしたことで真の医工連携を実践できる環境をつくるという永年の私の夢が実現しました。ここでは医工連携を旗印に再生医療、ロボット手術、人工臓器開発をはじめ数々の先進医療への挑戦が行われています。ぜひここから、世界で活躍する次世代の人材が飛び立っていってほしいですね」。

第1部/講義2
心臓を創る~再生医療最前線~

東京女子医科大学 先端生命科学研究所所長・教授
清水達也先生

だれかが死ぬのを待つ医療をなくしたい

清水先生の講義は、めざましい進歩をとげている再生医療について。なぜ再生医療が求められているのか、清水先生が具体例として挙げたのは心臓の病気だ。重い心臓の病気になって心臓が動かなくなる可能性が出てきたとき、心臓移植が必要になってくる。
「でも臓器移植によって治す治療というのは、だれかが亡くなるのを待つ治療です。たとえばドナー登録している方が交通事故などに遭って亡くなって初めて、その方から臓器の提供を受けて移植が行われるのですが、これだけ医学が進歩しているのに、死を待つ医療が医学の最終ゴールというのはおかしいですよね。もし細胞から心臓を創ることができるなら、ドナー移植の必要はなくなります。そんな未来をめざして私たちは研究をしています」

再生医療は2本の柱で成り立っている。1つは「幹細胞生物学」。組織や臓器の材料となる細胞をどのように用意し、増やすかの研究だ。幹細胞とは分裂して自分と同じ細胞を次々とつくる「自己複製能」と、体を構成するさまざまな細胞をつくり出す「多分化能」の二つの力を持つ細胞のこと。

「私たちの体の中にはいろいろな幹細胞があり、古くなった組織の入れ替わりや傷の治癒をしています。皮膚にちょっと傷がついても元通りになるのはそのためですし、たとえば骨髄には、赤血球や白血球、血小板をつくり出す幹細胞があって、新鮮な血液をつくり続けています。心臓や脳にも多少は幹細胞がありますが、数が少ないために心臓や脳を再生させることはできません。また、私たちの体の中の幹細胞(体性幹細胞)は、どんな種類の細胞にでもなれるわけではありません。
しかし、ES細胞(胚性幹細胞)とか、京都大学の山中伸弥先生が開発されたiPS細胞(人工多能性幹細胞)が登場し、目的の細胞へと分化させる技術が進んできたので、再生医療への期待が高まってきたのです」

2本柱のもう1つが「組織工学(ティッシュエンジニアリング)」。簡単にいうと、細胞から組織をどう組み立てていくかを研究する学問であり、工学と医学とが融合した領域だ。
「私たちが取り組んでいるのがこのティッシュエンジニアリングです。現在は細胞から三次元的な組織をどのようにつくり出すか、最終的には心臓を丸ごとつくることを目標に研究を続けています」

すでに臨床の現場で実用化されている「細胞シート」

清水先生が再生医療の研究を始めたのは1999年のこと。
「当時、私は循環器内科の医者でした。もちろんやりがいはありましたが、治療法には限界があって治らない患者さんがいる。患者さんの命を救うことができる新しい研究に取り組みたいと思っていたときに出会ったのが、梅津先生と一緒にTWInsの開設に力を尽くした東京女子医科大学の岡野光夫先生が開発された『細胞シート』でした」

細胞シートとは何か。私たちが筋肉痛のときに患部に貼るシートをイメージするとわかりやすいかもしれない。細胞がシート状になっていて、目的の部位に移植すると、ピタッと貼り付いて、そこで増殖して組織の一部となったり、まわりの細胞を元気にするサイトカインと呼ばれる物質を出したりする。

「細胞を培養皿で培養すると細胞同士が手をつないで増えていきますが、これを取り出そうとするとき、通常はトリプシンというタンパク質分解酵素を使うため、細胞同士を結び付けていたタンパク質も壊してしまい、細胞がばらばらになってしまいます。ところが、温度によって性質が変化する高分子を表面にコーティングした『温度応答性培養皿』を用いることで、細胞同士が手をつないだまま、きれいにシート状にはがれるのです。この高分子は37℃では疎水性の性質を持っていてタンパク質をくっつけるので細胞がくっつく。一方、32℃以下では親水性となり、タンパク質がくっつかなくなり、培養皿の表面から細胞がきれいにはがれるというわけです」

清水先生がこの温度応答性培養皿を使って心臓の筋肉の細胞を培養したところ、なんと培養皿の上で拍動した。清水先生が見せてくださった拍動する心筋シートの動画に、高校生たちもみんなビックリ!

「細胞からシートを創る技術で、実はすでにいろいろな患者さんを救っています。細胞シートを心臓の表面に貼り付けたり、あるいは濁ってしまった角膜と取り替えたり、臨床の現場での活用も進んでいます。現在、臨床で進めているのは、患者さん自身の細胞を増殖させてシートにして移植する方法ですが、いずれは他人の細胞を使って細胞シートを創るようになるでしょう」

臨床例として紹介してもらった一つが、大阪大学と共同で行っている重症心不全に対する筋芽細胞シート移植治療だ。
「これはご本人の太ももの筋肉を10グラムぐらいとってきてつくり出した細胞シートを弱っている心筋に貼り付けることによって心臓の機能が改善していくもの。すでに2016年5月から、厚労省の承認を得てテルモ(株)から世界初の心不全治療用の再生医療等製品として『ハートシート』という商品名で販売が始まっています」

やがて丸ごとの臓器をつくって移植する時代へ

現在、心不全治療用に使われているのは、太ももの細胞を使った細胞シートだが、清水先生は近い将来、拍動する分厚い心筋組織をつくり、ゆくゆくは心臓を丸ごと創れるまでに技術を高めたいと語る。そのために重要なのが、細胞シートを使っていかに立体的な組織をつくるか。
「問題は、細胞シートをどんどん重ねていって厚くすると、酸素が足りなくなって細胞が死んでしまうことです。ですから立体的な組織を創るためには、血管を通すことが必須となります」

清水先生たちの実験では、心筋細胞と血管内皮細胞を一緒に培養して細胞シートを創ると、培養中に毛細血管のような血管細胞のネットワークができる。このシートを3枚重ねてラットに移植すると血管ができてラットの血管とつながる。さらに繰り返しこの3枚の移植を続けていって、30枚で厚さ1㎜ぐらいの組織となり、組織が死ぬことなく動いていたという。

「最初のころはラットの心筋細胞でやっていましたが、最近はヒトのiPS細胞で実験しています。iPS細胞から分化させた心筋細胞で細胞シートを創ると、拍動する心筋シートができます。ここに血管を入れて厚くしていけば、力強い動きになります。心臓に取って代わるのはまだ先ですが、心臓の表面に貼り付けて心臓の機能を回復させることは十分可能になるでしょう。細胞シートを管状にすることでポンプ機能を有する組織の作成にも着手しており、将来的には心臓そのものを生体外で創って移植することもできると考えています」

清水先生の夢は「心臓を創る」こと。大きな夢と信念をもってたゆまずチャレンジすることで、不可能と思われることも可能になる。数十年前の映画やSFがすでに実現しているいくつもの例を紹介しながら、みなさんも大きな夢を持ってほしいと、先生は高校生たちにエールを送った。

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