公益財団法人テルモ生命科学芸術財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2017」レポート
生命科学関連のさまざまな講義と
最先端の医工連携施設での実習に参加した2日間

[2日目]

TWInsの施設見学と3つの実習で、気分は研究者の卵?

2日目は東京・新宿区河田町にあるTWIns(東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究施設)でのプログラム。施設見学のあと、チームに分かれて3つの実習に取り組んだ。

施設見学

サイエンスカフェ2日目はTWInsでの施設見学と実習。午前8時半過ぎにホテルを出発。約10分でTWInsに到着。

まずは全体ガイダンス。説明は、昨日の「若手研究者に聞く」でレクチャーしてくださった小久保舞美先生。このあと3班に分かれてTWInsの施設見学がスタートした。

再生医療の臨床の場でも活躍している細胞シートを作製しているのがCPC(細胞加工処理施設)。完全無菌を実現させるため、限られた人しか中に入れない。部屋の外から説明を受ける。

心臓の冠動脈が詰まると命にかかわる。そこで体の他の部位の健康な血管の一部を使って閉塞部を迂回して新しい血管の道をつくるのが冠動脈バイパス手術だ。熟練を要するため、冠動脈を再現したモデル血管と心臓の拍動を再現したシミュレーターで縫合訓練を行う。

心筋と血管を模したモデルを実際に触ってみる。やわらかい!

人工心臓の臨床の現場では、送・脱血管周辺での血栓形成が問題となる。そこで、血液適合性を工学的に評価する手法も開発。このように、工学が医療の発展に貢献できる領域は想像以上に大きい。

楽器演奏ロボット。人間の楽器演奏のメカニズムを工学的視点から徹底探究して開発。これはサキソフォン演奏ロボット。

人間の口の息を吹き込む複雑な動きや指の動きを再現している。演奏するところを聴いてみたい!

水棲動物実験室では、生命系の研究に欠かせないイモリ、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエルなどの水棲動物を飼育中。

アフリカツメガエルは、発生や四肢の再生、血液の研究などに有用な水棲動物なんだって。

TWIns2階の早稲田大学生命医科学科は、研究室の垣根を越えてコミュニケーションできるオープンラボが売り。10の研究室の教員や学生が学際的な研究を進めており、壁がないため気軽に声を掛け合うことで、違う角度からヒントを得ることもできる。

組織学実験室では、組織あるいは器官の観察を行うため、固定や染色といった手法でつくられた各組織の切片標本を観察する部屋だ。

かわるがわる顕微鏡をのぞき込む

組織培養を行うには無菌操作の環境が欠かせない。そのための装置がクリーンベンチで、周囲からの微生物の混入を避けるため、無菌状態で作業を行う。青い光は殺菌灯の働きをしているんだそうだ。

細胞シートを重ねて組織をつくる場合、シートの間に血管を通すことが重要になる。流路から1分間に数マイクロメートルずつ培養液を流す装置(バイオリアクタ)も開発している。

このほか合成室や分析室、微細加工室などさまざまな施設や設備を見学。最先端の研究が行われている現場を実際に見て、高校生たちは研究のイメージをふくらませたようだった。

大動物実験室見学・実習-----内視鏡操作と縫合体験

大動物実験室は清潔区域であるため、上下つなぎの保護服やネットキャップ、足カバーを着用して入室する。着替えたあと、室内に入るにはまず前室に移動するが、片方のドアが閉まらないと、もう一つのドアは開かない。

内視鏡(胃カメラ)操作と縫合体験の2つのグループに分かれる。

内視鏡の太さは1㎝ほど。先端に小型カメラ(CCD)やレンズを内蔵し、手元のアングルノブを操作すれば上下左右自由に曲がる仕組みだ。撮影用のスイッチもある。

内視鏡チームのミッションは、段ボールの穴からファイバースコープを挿入し、上手に操作して、段ボールの中に貼ってある胃の内部のポリープなどの病変を撮影すること。

段ボール内の側面と下部には、ポリープの画像が。

段ボール内部の様子はモニターに映し出される。

実際に操作するとなるとなかなか思うようにいかない。清水先生がアシストしてくださる。右手は段ボールの穴の部分で支点として固定させておく。左手のスナップをきかせるのがポイントなんだって。

やっと4点の写真を撮ることができた。

撮った写真を持ってニッコリ。

手術用器具を使って傷口を縫う縫合手技の体験は、手術用手袋を清潔に装着する見本をみせてもらうことからスタート。

続いてみんなも手術用手袋を装着。

縫合体験で使用するのは、人間の皮膚を模した疑似モデルと持針器(じしんき)、摂子(せっし=ピンセットのこと)、それにハサミだ。

医療現場で実際に行われている、結び目が下になる「埋没縫合」にトライする。先に先生が見本を見せてくれる。すいすいと簡単そうなんだけど・・・

持針器は針を持つための器具。裁縫の針は手で持つが、手術のときは手は使わない。この持針器で針を持つのだ。持針器で皮膚を軽くすくうように針を通し、摂子で引っ張る。

みんな真剣!

何しろ初めてだから縫い目はなかなかそろわない。皮膚そっくりといっても素材はゴムなので、あまり力を入れて引っ張るとヒトの皮膚とくらべて切れやすいのだそうだ。

傷口がきれいに塞がれば合格。完成した!

簡易型人工心臓の作製

簡易型の人工心臓を作る実習で使うのは、なんとおもちゃ屋さんの店先などでよく見るカプセルトイのケース。これで本当に人工心臓が作れるの?

まずは心臓の働きやその仕組みについて教えてもらう。心臓は1分間に4.5リットルの血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしていること、そのポンプ機能が悪くなる病気が心不全で、重症になると、人工心臓でポンプ機能を代替するか、心臓移植するしかない。

実際に使われているダイアフラム型の補助人工心臓。ダイアフラムというのは空気圧で作動する膜のこと。血液が入る部屋と空気が入る部屋がダイアフラムで隔てられていて、血液が入る部屋には、入口と出口それぞれに一方向だけに動く人工弁が取り付けられている。駆動装置で空気圧を制御することでダイアフラムを動かし、血液を送り出す。

今回つくる人工心臓も、ダイアフラム型補助人工心臓と原理は同じ。カプセルの中にはさんだビニールの膜がダイアフラムの役目をするというわけ。

こちらはサンメディカル社の埋込型補助人工心臓。血液ポンプの駆動装置やバッテリーはバッグで持ち運ぶ。装置は約10kgと重いが、この人工心臓の開発でずいぶん患者さんのQOL(生活の質)が向上したという。

塩ビ管の先端にゴム板を接着して逆流を防ぐ逆止弁を作り、水の流れる向きに注意してカプセルに取り付ける。

水漏れを防ぐため、ビニールテープや結束バンドでしっかりと固定する。

カプセルのお尻部分に、空気を送り込むシリンジを取り付ければ完成!

できた! これからいよいよ、ポンプの役割を試すんだ。

自分が作った人工心臓がどこまで人間の心臓に近い働きをしてくれるか、水を使って実験開始。

シリンジを動かして空気を送り込んで、1分間に送り出した水の量を計測する。シリンジを動かす手に力が入る。空気漏れがあったりするとなかなかうまくいかない。

人間の心臓は1分間に4.5ℓの水を160㎝の高さまで持ち上げる力がある。だから4.5の数字が目標だ。すごい、最高記録だ!!

一人ずつ交代でチャレンジ。

シリンジを動かすのはけっこうたいへん。人間の心臓のすごさをナットクした実習となった。

温度応答性材料と細胞シート

現在再生医療の臨床の最前線で使われている細胞シートについて学ぶ実習。まず、細胞シートをつくる培養皿の表面に使われている温度応答性高分子の秘密を知ることからスタートした。

温度応答性高分子とは、温度によって性質がかわる高分子のこと。たとえば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)は、低温域では水に溶けて透明だが、容器を手の中で温めたり、40℃程度のぬるま湯につけるとイソプロピル基が集まって沈殿し、白濁する。

次に、あたためるとゲル化する高分子を観察した。こちらは粘性が出て、容器をさかさにしてもこの通り!

3番目は、海藻由来の天然高分子「アルギン酸ナトリウム」を使った実験。色素を含んだアルギン酸ナトリウム溶液をピペットで2%塩化カルシウム溶液に落とすと、瞬時にゲルカプセルになってカラフルな玉がいっぱいできてきた。面白い!

実は人工イクラもこの原理で作られているんだそうだ。イクラではなく、細胞や薬剤を封入したゲルカプセルを作って体内で徐々に溶けるようにすれば、医療にも応用できるというわけ。

温度応答性高分子について学んだあとは、細胞を培養し、増殖した細胞を新たな培養皿へ移し替える細胞の継代操作にトライした。まずは皮膚の線維芽細胞を顕微鏡で観察する。

ピペットや電動ピペッターを使って、培養皿の培養液を除去したり、洗浄のために緩衝液を加えたりと、慣れないピペット操作に最初は四苦八苦。

テーブルの上には培養液や緩衝液、細胞回収用、廃液入れなどの容器が並んでいる。慣れてくると片手でフタの開閉もできるようになるとか。

目盛りとにらめっこしながらのピペット操作が続く。

細胞を遠心管に入れ、1分間に1000回転の速度で3分間遠心処理を行うと、遠心管の底に細胞が沈殿する。ピペットで上澄み液を除去し、培養液を加えて細胞を分散させ・・・と、継代操作ひとつとってもいろいろな作業が必要だ。

最後に温度応答性培養皿上で培養されている細胞を使った模擬移植の実習。培養皿を冷やすと、次第に細胞シートが剥離してくる。

「ほら、ここに細胞シートがあるのが見えるだろう」と先生。みんなも覗き込む。

培養液を除去しながら細胞シートを培養皿の中央に寄せていく。

支持膜をピンセットでつまみ、細胞シートの上に乗せて、そっと支持膜をつまみ上げると、細胞シートが支持膜に張り付いた状態で回収できる。

「ここが傷ついた場所だよ!」 印のついた個所に、細胞シートを支持膜ごと乗せて、ゆっくり剥がす。

慎重に、慎重に・・・・

「やったー!移植できた!」

ディスカッション~修了証から記念撮影

実習を終えたあとは、清水達也教授や実習を指導してくださった先生も交えての自由討論。司会は早稲田大学理工学術院 研究院准教授の坂口勝久先生だ。

高校生から活発な質問が相次いだ。

「人工心臓が長持ちしない理由はどこにあるか」「鼻血が出やすいが、細胞シートで鼻血が出にくくなるか」「大動物実験室はとても清潔で豚を飼っているようには見えなかったが、どのように飼育しているのか」「今後期待される医療技術は?」など、次々に手が上がった。

未来の医療の話になったとき、清水先生からは「AIが内科医の代わりに病気を診断して薬を出してくれる時代になるかもしれない」というコメントがあった。外科医は当分必要だが、いずれロボットが外科手術をする時代になる可能性もある。だから「医学だけでなく、工学的な視野を持ったり、工学部に行ったらバイオや医学の視野を持つなど、両方の分野を知っている人が増えていくことが、日本の医療を切り拓いていくはず」という言葉に、生徒たちは大きくうなづいていた。

最後に清水先生から修了証が授与された。

TWInsの正面玄関前で記念撮影をして、サイエンスカフェの1泊2日のプログラムが終わった。

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