公益財団法人テルモ生命科学芸術財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2018」レポート
講義と最先端の医工連携施設での実習を通じて
再生医療や人工臓器について学んだ2日間

[1日目]

講義と若手研究者からのメッセージで
医工連携で進む生命科学のいまと、自分の将来をイメージ

生命科学や生命工学で日本をリードする先生による最先端講義のあと、TWInsで研究活動を行っている若手研究者と院生3人がパネリストになって、研究内容や研究を続けている理由、今後の展望、高校生へのアドバイスなどを話してくれた。

講演会 第1部/講義1
人工臓器最前線-エンジニアが先進医療に挑戦する

早稲田大学理工学術院教授
工学博士・医学博士 梅津光生先生

設立10周年迎えたTWIns

梅津先生はまず、サイエンスカフェ2日目の会場となる「TWIns(ツインズ)」について触れ、TWInsが今年で設立10周年を迎えたことを紹介した。

「TWInsというのは東京女子医科大学と早稲田大学による医工融合研究教育拠点である東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設のことです。東京女子医科大学のTと早稲田大学のW、そしてInstitution(施設)とを組み合わせた、TWIns(双子)がこの施設の通称となっています。両大学は人工心臓の研究開発をはじめ、医学と工学にまたがる学際的な研究で50年以上にわたり協力と交流を進めてきており、2000年に正式な学術交流協定を締結して、2008年4月に創設されたのがTWInsなのです」

TWInsに研究室を置く学科・専攻は、早稲田大学からは理工学術院先進理工学部の生命医科学科、電気・情報工学科、総合機械工学科、それに教育・総合科学学術院の教育学部理学科生物学専修。現在、早稲田大学から450人、東京女子医科大学から220人がここで研究に携わっていて、早稲田大学の450人のうち約300人が大学院生だという。

「総合機械工学科と聞いて『えーっ、何で機械なの?』と思うかもしれないが」と前置きして梅津先生は、先生が所属する総合機械工学科について話を進めていく。
「機械工学とは何か。簡単にいえば自転車のメカを知っていても自転車には乗れない。それと同じで、知識だけではものはつくれず、ものをつくるには体験が必要です。そこで知識と体験を総合的に学び、ものづくりをデザインする力を身につけようというのが機械工学科。基本はニュートン力学ですが、宇宙構造物や人間共存ロボットなど、機械システムをつくる技術を総合的に研究する学科です」

「医学と工学が一緒にやる時代が来る」と恩師の言葉

梅津先生は人工臓器研究の世界的なパイオニアで、世界でも数少ない機械工学と医学の両方の分野に精通した研究者。40年以上にわたって人工臓器の開発に取り組んできた。先生がこの道に入ったきっかけがちょっと変わっていて、キーワードは「鉄道」。先生の趣味は小学生以来、鉄道の時刻表を見たり旅行をすることで、ついこの間まで早稲田大学の稲門鉄道研究会の会長だった。

「私が大学に入学した当時の教授に東海道新幹線の関ヶ原の消雪用スプリンクラーを開発した流体制御の専門家である土屋喜一先生がおられました。この先生の研究室に入れば鉄道の研究ができると、意気込んで土屋先生の研究室の門をたたいたところ、先生は『残念だったね、その研究はもう終わったよ』とおっしゃるのです。そして、『これからは医学と工学が一緒にやる時代が来るから、医学をやりなさい』と言われました。でも私は、病気になったこともなければ、医者になろうと思ったこともない。医学なんて関係ないと言ったら、先生は『関係というのはあるかないかじゃない。いかにこじつけるかだ。人のからだを見てごらん。血液が流れているだろう。指先の隅々にまで欲しいときに欲しい分だけ血が流れている。これは究極の流体制御(Fluid control)だと思わないか』」

この土屋先生の言葉によって、梅津先生は医学と工学の融合分野の研究に進むことになる。

大学院に進んだ梅津先生を待っていたのが、犬を使う実験だった。しかし、この研究では1年間に犬を100頭も殺さなくてはいけない。犬好きの梅津先生にはそれが大きなトラウマになった。何とか無駄に動物を殺すことのないテクノロジーを開発したいと人工心臓を使った血液循環系のシミュレーターを開発。特許の取得にまで至った。それを論文にまとめ、生まれて初めて国際学会で発表したところ、聞いていたのが、国立循環器病センターの初代病院長となった大阪大学の当時の第一外科主任教授・曲直部寿夫先生だった。
「曲直部先生は『こんなおもしろい発表を聞いたのは初めてや。きょうほど医学と工学が一緒にやらなきゃいかんということがようわかった日はない。どうだ、大阪に来て一緒に働かんか』と誘ってくださいました」

世界にはばたく次世代の人材に期待

こうして梅津先生は国立循環器病センター研究所の開設メンバーの一人として加わり、のちに人工臓器研究室の室長に就任。ほかにも先生の研究に興味を示してくれたのがオーストラリアだった。

「オーストラリアは臓器移植が盛んな国でしたが、臓器移植にどうしても必要になるのが人工臓器なのです。移植医療において臓器移植と人工臓器は車の両輪であり、お互いに補い合いながら臨床に用いられるべきなのに、オーストラリアには外科と内科の専門家はいるが人工臓器の専門家がいないというので、私が呼ばれました。それが1986年のことで、オーストラリアの人工心臓開発の初代プロジェクトリーダーともなりました」

その後も数々の実績を残した梅津先生だが、10年前、TWInsがオープンしたことで、日本に最先端の医工連携を実践できる環境をつくるという長年の先生の夢が実現したという。ここでは医工連携を旗印に再生医療、ロボット手術、人工臓器開発をはじめ数々の先進医療への挑戦が行われおり、医学と工学が融合した“未来の手術室”ともいえる「スマートサイバーオペレーティングシアター」も実現するまでになっている。

梅津先生は「医工連携の研究の中から世界で活躍する次世代の人材が飛び立つことを期待しています」と述べて講義を締めくくった。

講演会 第1部/講義2
心臓を創る~再生医療最前線~

東京女子医科大学 先端生命科学研究所所長・教授
清水達也先生

再生医療の2本の柱、「幹細胞生物学」と「組織工学」

「再生医療のゴールは臓器をつくることです」と語り出した清水先生は、次のように再生医療がめざすものを語った。
「私の前に講義した梅津先生は人工の臓器を研究されていますが、われわれがめざしているのは細胞から臓器をつくることです。特に子どもの場合、機械でつくった臓器だと成長していく過程で取り替えたりしなければいけなくなります。細胞から臓器ができるようになれば、たとえば心臓であれば、幼いころに移植した心臓が、子どもの成長に合わせて大きくなっていく、そういったところまでできるようになるといいなと思っています」

清水先生によれば再生医療は2本の柱で成り立っていて、1つは「幹細胞生物学」であり、もう1つが「ティッシュエンジニアリング(組織工学)」。この2つの学問によって再生医療が具現化されることになる。
「幹細胞生物学とは幹細胞を利用して組織・臓器の再生をめざす学問のことです。幹細胞とは、分裂して自分と同じ細胞を次々とつくる『自己複製能』と、自分とは異なる細胞をつくる『多分化能』の2つの能力を有する細胞のことです。自分で分裂して増やしながら、あるスイッチが入ると、肝臓の細胞になったり心筋細胞になったり血液の細胞になったりする。私たちの体の中にも幹細胞は存在していて、皮膚や腸の粘膜などは多少の傷であれば幹細胞の働きによって再生します。一方、脳や心臓にも多少は幹細胞が存在していますが、数が少ないため、傷ついた脳や心臓を再生する力はありません。これら私たちの体に存在する幹細胞は『成体幹細胞』と呼ばれ、どんな種類の細胞にでもなれるというわけではないのです」

これに対していま大きな注目を浴びているのが、多様な種類の細胞に変化する能力を持つ幹細胞であるES細胞であり、京都大学の山中伸弥教授が開発したiPS細胞だ。
「ES細胞はヒトの受精卵の分裂の初期段階である胚(胚盤胞)の一部を取り出して培養した細胞なので生命倫理の問題があり、他人の受精卵から取り出してつくるため拒絶反応が起こる問題もあります。この2つの問題を同時にクリアできるのがiPS細胞です。ES細胞のように受精卵を利用することはなく、自分自身の体細胞からつくれば拒絶反応も起こらないと考えられています」

ではES細胞やiPS細胞などを目的の細胞に分化させたとして、次に問題となるのが、具体的にどうやって細胞を患者の体の中に入れて治療するかだ。
「ひとつは注射するという方法です。しかし、体内のある特定の部位に注射しても、ほとんどバラバラになってどこかへ行ってしまいます。このため、治療に用いるには、体内でバラバラにならないように工夫して移植する必要があります。そこで登場するのが『ティッシュエンジニアリング』、細胞からいかにして組織や移植するための形をつくっていくかという学問です」

臨床の現場での実用化が進む「細胞シート」

20年ほど前から清水先生らが取り組んでいるのが、東京女子医大の岡野光夫先生が開発した「細胞シート」だ。細胞シートとは、細胞が粘着シートのようなシート状になっているもの。温度によって表面の性質が変化する培養皿を利用することで、細胞同士が手をつないだまま取り出すことができる。

細胞シートによる再生医療はすでに実用化が進んでいて、たとえば大阪大学と共同で行っている角膜の治療では、患者自身の口腔粘膜から採取した細胞を培養してつくった細胞シートを角膜に移植。両目とも失明していた患者さんの目が見えるようになり、仕事ができるまでに回復したという。
また、大阪大学との共同による重症心不全に対する筋芽細胞シート移植治療でも、心臓移植をするしかなかった患者の命を救った。このとき開発された心不全治療用の細胞シートは、テルモが実用化に取り組み、厚労省の製造販売承認を取得。2016年5月、「ハートシート」という商品名で販売が始まっている

このほか、食道がんの内視鏡切除後の再生医療や、関節軟骨の修復、歯周組織の再生、気胸の再生、中耳や膵臓、肝臓など、細胞シートを用いたさまざまな前臨床・臨床研究が進んでいる。

細胞シートを重ね合わせて“丸ごとの心臓”づくりをめざす

現在、清水先生らが取り組んでいるのは、細胞シートを重ねあわせて、三次元の組織とし、 “丸ごとの心臓”をつくる夢のような計画だ。
「拍動する細胞シートはできていて、ネズミに移植すると体の中で拍動を続けます。課題はいかに血管を通し、分厚い組織としていくか。私たちの体はいたるところに毛細血管が走っていて酸素と栄養を供給しています。細胞シートを積層化させていったときにも、そこに血管を入れていかないと、細胞が壊死してしまうのです」

たとえば心臓をつくろうとすると、人間の心臓の壁の厚さは1㎝なので、細胞シートを300枚重ねて、その中に酸素と栄養を供給する血管網を構築しなければいけないという。現在は生体に段階的に重ねていくことで、細胞シートを30枚重ねることに成功していて、今後は、生体外で分厚い組織をつくることが目標だ。

心臓を丸ごとつくろうという壮大な計画に取り組む清水先生から生徒たちへのメッセージは「たゆまぬチャレンジが夢を実現させる」ということ。
「『夢と信念』というのが私のスローガンです。マンガやSF小説、映画などで、『こんな夢みたいなこと、できっこない』と思われていた話が実現していることってけっこうあります。大切なのは夢に向かってあきらめずにやり続けること。そのためにはまず夢を持たなければ始まらない。私は心臓をつくることを夢みていますが、みなさんもぜひこの機会に何年か先、何10年か先に実現させたい自分の夢を見つけてください」

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