公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「サイエンスカフェ2018」レポート
講義と最先端の医工連携施設での実習を通じて
再生医療や人工臓器について学んだ2日間

講演会 第2部
若手研究者に聞く

1日目の講演会第2部は「若手研究者に聞く」。清水達也先生の司会で、Twinsで研究活動を行っている若手研究者と大学院生にご自身の体験を語ってもらった。

工学部出身なのに医学の研究をしているそのワケは?

東京女子医科大学先端生命医科学研究所で講師をつとめる高橋宏信先生は、生まれも育ちも広島で、熱烈なカープファン。九州大学工学部の出身だが現在は医学の研究をしている。その道のりを話してくれた。
高橋先生は、研究のおもしろさを大学に入って研究室に配属になってから感じるようになった。研究室に入って与えられたテーマが「金ナノ粒子」で、バイオセンサーなどに応用できないかと研究に取り組んだ。その後、大学院に進んで博士号を取得して、そのまま大学で研究を続けるか、それとも企業に就職するかの選択を迫られ、高橋先生は研究者を続ける道を選んだ。

研究を続けるとなると英語が必須になってくる。英語が話せなかった高橋先生は、それなら英語しか話せないところに行くしかないと留学を決め、アメリカのコロラド州立大学とユタ大学で2年半を過ごした。
留学中に取り組んだ研究のひとつが「RNA干渉*」。2006年のノーベル医学・生理学賞の授賞対象となったテーマだ。
*RNA干渉…二本鎖RNAが、遺伝子の発現を抑制する現象で、遺伝子機能探索の技術としても注目されている

「RNA干渉を利用して、医学に応用する研究が世界中で盛んに行われています。私はもともと工学部出身なので、工学部の技術をうまく盛り込んで研究できないかというのが留学中にやりたかったことでした。たとえば工学部にはタンパク質や細胞などのパターニング(配列・固定)の技術があり、これには化学の技術が必要になります。生物のシステムはすごいものがありますが、工学部の技術だってなかなかすごい。それをうまく組み合わせると、工学部出身者が医療の現場で何か新しいことをできるのではないか、と思うようになったのです」

現在、高橋先生が取り組んでいるのは筋肉の再生だ。
「筋肉って普段私たちは何も考えずに使っていますが、ここにはすごいテクノロジーが詰まっていて、細い筋原線維と呼ばれるものが束になって大きな長いチューブ状の筋繊維をつくり、それがさらに束になって物を持ったり力を出したりできるのです。生体が本来持っているすごい力を、工学部の技術でうまく体の外でつくりだすことができないかと取り組んでいるところです」

研究に意欲的に取り組む高橋先生だが、研究の8割方は失敗の連続。
「失敗を繰り返しながら、たまに成功があるのが研究だと思っています。失敗続きの中で、失敗だったけどこれはこういうふうに使ったらどうかと発想を転換すると、意外と新しい発見が出てくるものです。あきらめずに研究を続けるといろいろな世界が広がるので、研究って楽しいなと思います。失敗の中から何か見つけていくというスタイルは、合う人と合わない人がいると思いますが、そういうやり方が自分の性に合うと思うようならきっと研究者に向いています。みなさんも、どういうスタイルが自分に向いているかを考えながら進路の選択肢を絞り込んでいってください」

自分の夢は何?──研究者になって医療の発展に貢献したい

早稲田大学大学院・創造理工学研究科総合機械工学専攻博士課程1年の田中龍一郎さんは梅津信二郎先生の研究室に所属し、バイオ3Dプリンタを用いて人工的に細胞組織をつくる研究を行っている。
「3Dプリンティングの技術はバイオ分野などさまざまな分野での活用が期待されています。そこで自分の研究テーマと東京女子医大で開発された細胞シートの技術を組み合わせると何かおもしろいことができるのではないかと、清水先生にもお世話になっています。まだ発展途上の研究ですが、最終的には三次元のより厚い組織をつくって、心臓などさまざまな臓器をつくる技術に応用したいと考えています」

こう語る田中先生は、中学時代は医師になることが夢だったという。
「ところが高校に入るとまったく勉強しなくなりました。というのも部活の軽音楽が楽しくて、遊んでばかりいたからです。医師になる夢も、高校に入って生物を勉強してみると生物が得意ではないと感じたので諦めて、大学は工学部に決め、何となくメーカーに就職するのかなと考えていました」

しかし、勉強不足がたたってか、大学受験に失敗して1年間浪人。早稲田大学に入学して、総合機械工学科3年で研究室に配属されたときが進路選択のターニングポイントだったと振り返る。
「研究室のプレゼンで梅津先生から『バイオ3Dプリンタで人工臓器をつくる』という話を聞いてものすごく感動し、もともと医療分野にかかわりたいという気持ちもあったので、梅津先生の研究室を選びました」

学部4年生のとき、進路について梅津先生に相談すると、メーカーに就職するにしても博士号を取得してはどうかと大学院への進学を勧められ、博士をめざすのもいいなと大学院に進学。しかし、研究がうまくいかず大学を辞めようかとさえ考えたこともあったという。
「研究がうまくいかなくて結果が出ない、将来が見えないということもありましたが、辞めようかと思った一番の理由は、何となく博士をめざしてしまったのでモチベーションの維持が難しかったから。そこで気付いたのが夢を持つことの大切さでした」
自分はいったい何のために博士になることをめざしたのか? あらためて自分の夢を考え直した。もともと考えていたのは常に新しいことを追求する専門的な職業につきたかったということだ。一方で研究生活を通して考えたのは、工学の立場から医療分野の研究に携わり、世の中の役に立ちたいということ。

「研究生活を通して、先生たちに助けられてばかりの自分が、次はだれかを助ける側になりたいと思うようになりました。そこから導き出された自分の夢、それは研究者になって医療の発展に貢献したいということであり、そのためにも博士号をとって研究者をめざそうと考えるようになり、今に至っています」

高校時代は生物が苦手だと思ったが、今になって振り返ると大学受験のための勉強だったので肌が合わなかっただけ。研究のためにあらためて生物を勉強してみると、当時あんなにいやだった生物の勉強が楽しいものに変わったという。

研究には正解がない。だからこそ挑戦する意味がある

早稲田大学大学院・創造理工学研究科総合機械工学専攻修士課程2年の秋元渓さんも、田中さんと同じく梅津信二郎先生の研究室に所属し、東京女子医科大学先端生命研究所で細胞組織の中に人工的に血管をつくる研究を行っている。
「生体内には、数㎝の太い血管から数10㎛、数100㎛といった細い血管までさまざまな血管がびっしりと張り巡らされています。そのため再生医療のための細胞シートをつくる際にも、生体の臓器に張り巡らされている血管と同じように3Dプリンタを使って血管の構造をつくる必要があります。私は、生きた細胞を扱う研究と、機械工学の知識を生かしながらデバイスをつくる研究の2つの研究を同時に行いながら、3Dプリンタを使って血管構造を人工的につくるという研究を続けています」

秋元先生はどのように進路を決めたのだろうか。ひとつめのポイントは高校1年生の夏にあったという。
「高校1年生の夏に、ある大学医学部のオープンキャンパスに行ったときのこと。亡くなった方の臓器を実際に自分の手で触ってみるという体験講座がありました。肝臓のまわりにがんがベッタリとついた臓器を触ったとき、とても衝撃を受けました。がんさえけなればこの患者さんは亡くならずにすんだのにと強く思い、『がんをなくす人になりたい』、と思うようになったのです」

医学にかかわる道に進みたいと考えた秋元先生が選択したのが機械工学科だった。
「なぜ機械工学を選んだのかというと、お医者さんがいくらがんばってもお医者さんの手技で治せる病気には限界があるけれど、新しい医療機器をつくることができれば治せない病気も治せるようになるのではないか。そこで、手術ロボットを第一に思い浮かべてロボットをつくる人になりたいと考え、機械工学を選択しました」

しかし、大学3年のときの研究室配属で秋元先生が入ったのは、バイオエンジニアリングを研究する梅津信二郎先生の研究室。そこで出会ったのが再生医療だった。
「ここで初めて再生医療について学び、再生医療にはまだまだたくさんの課題があり、今後、再生医療が発展していけばこれまで救えなかったたくさんの患者さんを救えるようになるし、社会は大きく変わっていくということを知って、やりがいに気づきました」

研究生活を続けていると、試行錯誤を繰り返してもなかなか研究がうまくいかないことも多いし、そもそも研究には「正解」というものがないので、自分がこのまま研究を続けていいものなのか、無駄なのではないかと不安になることもある。逆に、苦労が多いということがそっくりそのまま研究のモチベーションにもなっているという。
「まだ実現していないものに挑戦しているんだということを実感するのがとても楽しい。細胞は思ったように扱えない反面、思いもしないような形になったり、反応を示したりすることがあるので、研究はとてもおもしろいですね」

卒業後の進路については、そのまま博士課程に3年間行くのか、それとも就職するのか2つの道があるが、秋元先生は就職を選択した。
「理由は、今困っている患者さんを自分の手で助けたい。それができるのは医療機器をつくっているメーカーで開発に携わることではないかと考えたからです。将来的には医療のことも機械のこともわかるようなエンジニアになりたいと思っています」

*     *     *

3人の先生の発言のあとは講演会の1日を通しての高校生からの質問タイム。
「細胞シートで臓器をつくるとして、一番現実的な臓器と一番実現が難しいな臓器は?」、「手術をすると傷跡が残る。そういうものも細胞シードで消すことはできますか?」、「人工臓器ができるようになれば病気で亡くなる人はいなくなる?」など、さまざまな質問に、清水先生がひとつひとつ丁寧にわかりやすく答えてくれた。

生徒たちから次々に質問が出る。丁寧に答える清水先生

懇親会

班対抗のクイズ合戦で逆転勝利に大盛り上がり!

1日目の締めくくりは夕食を兼ねた懇親会。歓談しながらバイキング形式の料理を楽しんだ。料理の中にはコックさんが目の前で焼いてくれるビーフステーキも。清水先生やパネリストとなった3人の若手研究者も懇親会に参加してくださり、高校生や引率の先生方と積極的にコミュニケーション。

一段落したところで、参加各校ごとの自己紹介が行われたあとは、翌日の施設見学や実習で一緒に行動を共にするA、B、Cの3つの班に分かれての班対抗クイズ大会で大いに盛り上がった。
「人体で最も温度が高い臓器は?」「世界で2番目に面積が小さい国は?」「英語とスペイン語、中国語、ヒンディー語を話す人が多い順に並べると?」「アルファベット1文字の元素記号をすべて挙げなさい」など、さまざまなジャンルの問題が出た。
3つの班が僅差で争う白熱のゲームとなり、最後は大逆転でC班が優勝し、1人1人に図書券がプレゼントされた。
クイズ大会で盛り上がったこともあり、写真を撮り合ったりしてお互いの親密度が増した夜となった。

夕食を食べながらの懇親会。楽しそうなシーンが会場のあちこちで見られた

自己紹介タイム

クイズ大会

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