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結石は隕石とよく似ている? 医工連携で尿路結石の発症予測と予防に挑む~大阪大学大学院工学研究科・丸山美帆子教授を訪ねて~

小惑星探査機「はやぶさ」は小惑星から鉱物を持ち帰った。そこには太陽系や生命の起源といった謎を解く情報があるのではないかと期待されている。そんな鉱物学の視点を医学に応用したのが丸山先生だ。尿の成分が結晶化した結石の形成機構解明に、鉱物学や材料工学の視点で挑み、治療や予防に生かそうというのだ。結石の結晶にはどんな情報が隠されていたのか、研究プロジェクトの歩みとともにお話をうかがった。

丸山 美帆子(まるやま・みほこ)

大阪大学大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻
創製エレクトロニクス材料講座 機能創製バイオマテリアル領域 教授

栃木県出身。2004年東北大学理学部地球惑星物質科学科卒業。09年同大学大学院理学研究科地学専攻博士課程修了。博士(理学)。大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻特任研究員、特任助教、北海道大学低温科学研究所研究員、京都府立大学大学院生命科学研究科特任講師などを経て、20年4月大阪大学高等共創研究院准教授。22年10月より現職。専門は結晶成長学、結晶工学。とくに生物がつくる結晶に着目し、尿路結石のメカニズムを鉱物や結晶工学の視点から読み解いている。

ショートムービーで見る研究のあらまし

隕石と結石が研究室で出会った!?

日本人男性の7人に1人、女性の15人に1人がかかる*という「尿路結石症」。知らないうちに尿中の成分が結晶化して硬く成長し、ある日突然、背中や脇腹に激痛が走る。レーザーや内視鏡で結石を砕いて取り除くことで治るが、何度も発症を繰り返す深刻なケースもあるという。それを解決しようと多くの医師らが取り組んできたが、残念ながら発症数はいまだに減ってはいない。

* 第7回「尿路結石症全国疫学調査」(2015年)生涯罹患率

そんな状況を変えようと、医工連携のプロジェクトチーム「METEOR(メテオ:隕石、流星の意)」を率いて取り組んでいるのが丸山先生だ。これまで研究をともにしたさまざまな分野の研究者を集め、医師たちとともに尿路結石のメカニズムを探っている。
その結果、結石の成長に関わるのは尿路結石の主成分「シュウ酸カルシウム」だけでなく、結晶の核になる「リン酸カルシウム」の働きが大きいことを突き止め、結石の成長過程や発症の謎も明らかになってきた。

しかし、丸山先生の所属は工学研究科の電気電子情報通信工学専攻。医学とは縁もゆかりもなさそうだが、いったい何が研究のきっかけだったのだろう。

「最初のご縁は、独立するまで所属していた研究室の主宰者である大阪大学の森勇介(もり・ゆうすけ)教授です。森先生の専門は電気材料工学ですが、扱うテーマはとても広く、さまざまな材料となる結晶の開発にも取り組んでいました。結晶というと宝石や鉱物を思い浮かべると思いますが、たとえば半導体の材料として注目されているのは窒化ガリウムの結晶です。非線形光学結晶といって、強いレーザー光を当てると、結晶を通った光の色(波長)が変わるものもあります。私は先生のもとでタンパク質や医薬品化合物の結晶育成技術の開発研究をしていました」

森先生は独自の結晶化技術で他分野にも貢献したいと、分野を超えた研究者との連携にも積極的だった。そんなある日、日本尿路結石症学会の依頼で結晶に関する講演をしたところ、会場にいた医師が詳しく話を聞きたいと連れ立って研究室にやって来た。このとき、大学で地球科学を専攻し、理学で学位をとった丸山先生も、"研究室の生物に関わる材料担当"として同席することになったのだ。

「おいでになったのは、尿路結石を研究している名古屋市立大学病院の医師で、同大学医学研究科 腎・泌尿器科学分野の安井孝周(やすい・たかひろ)教授、岡田淳志(おかだ・あつし)准教授、そして当時は博士課程に在籍していた田中勇太朗(たなか・ゆうたろう)医師です。もちろん、私は医学のことはわかりません。『われわれも新たな技術で結石の結晶を解明したい』『レーザーを尿に当てたらどうなりますか?』などと迫られ、おしっこの研究なんて見当もつかないと途方に暮れていました。しかし、話を伺ううちに、尿路結石と隕石は似ているかもしれない!とひらめいた。そこで、『隕石の研究手法で結石を調べてみたらどうでしょう』と言ってしまったのです」

地球科学では、岩石や隕石の成分から46億年前の地球や太陽系の環境まで調べている。長さ数十cmの尿路の環境だって、結石を調べればわかるのではと思ったそうだ。考えてみれば、尿は人間の摂取した水の最終出口。「鉱物で宇宙の環境をたどれるなら、結石で体内の水循環も調べられるかもしれない。そうなれば生命科学にも大きく役立つ研究だ」と確信し、かつて研究をともにしたさまざまな研究仲間に協力を呼びかけた。

そうして集まった、結晶工学・鉱物学・隕石学・材料工学・光科学といったさまざまな分野の研究者たちに、名古屋市立大学病院の医師たちを加えて、2018年に立ち上げた医工連携プロジェクトが「METEOR」だ。Medical and Engineering Tactics for Elimination of Rocks Project(結石除去プロジェクトにおける医学的および工学的戦術)の頭文字をとった名前は、同大学の岡田先生が命名してくれた。

METEORプロジェクトメンバー

地球環境問題を結晶成長学で解決する?

そもそも、丸山先生が小・中・高校生時代から興味をもっていたのは地球環境問題だ。それを解決するために地球のことを学ぼうと、東北大学理学部の地球惑星物質科学科に入学。そこで出会ったのが塚本勝男(つかもと・かつお)先生だった。
「1年生の『地学実験』という授業で、地学のさまざまな分野の先生がオムニバス形式(交代で担当する形式)で講義をしてくれたんです。塚本先生は『生きている結晶』というテーマで、ヨウ化カドミウムの溶液がスライドガラスの上で自然蒸発する様子を顕微鏡で見せてくれました。結晶がみるみる成長していく美しい光景にすごく感動して、以来、塚本先生の研究室に遊びに行くようになったんです」

たびたび顔を出すうち文献調査や研究雑務のアルバイトも頼まれるようになり、結晶の研究にも触れるようになった。塚本研では、隕石の結晶から太陽系の起源を調べる研究、タンパク質の結晶成長の研究などさまざまなテーマに取り組んでいたが、その一つに、二酸化炭素ガスを結晶化して地球内部に貯蔵する研究もあった。「結晶を学べば地球を守る方法が見つかるかもしれない」と思った先生は、塚本先生の研究室に入ろうと決めた。

「塚本先生は常に疑問をもち、サイエンスを楽しみながら『結晶成長』という切り口でアプローチすることができるテーマなら何でもOKという先生でした。『原理的にはできるはずだ』と途方もないアイデアで学生たちを困惑させることもありましたが、ラボでは結晶成長を軸に幅広い議論を交わしました。また、東北大の地球科学系は大講座制(いくつもの異なる分野の研究室が一つにまとまった体制)だったので、教授も研究分野も異なる学生たちが同じ部屋で研究していました。そのおかげもあって、大学は他分野の研究を見聞きするとてもいい機会となりました」

後列中央が塚本勝男先生。航空機を使った無重力実験での1枚。

ちなみに先生の卒業論文は、生き物がつくる結晶、バイオミネラリゼーションに関わる研究だ。炭酸カルシウムやシュウ酸カルシウムといったミネラル成分(無機成分)を水に溶かし、水分がゆっくり減る中で再び結晶として出てくると、規則正しい無機的な形になる。しかし、生き物は同じ無機成分を使って多様な結晶を生み出している。魚のうろこ、サンゴの骨格、私たちの骨や歯もその一例だ。先生が研究していたのは炭酸カルシウム。その溶液に有機物を加えると、結晶の成長する方向や速度が変わり、結晶の形も変わるという。

そして、大学院に進み、博士課程を終えたころ、先生はもう一人の研究者に出会う。それが、冒頭でも紹介した大阪大学の森先生だ。当時、構造生物学の分野ではタンパク質の結晶からその立体構造を解明する研究が注目されていた。しかし、その研究に必要な大きくて良質なタンパク質の結晶をつくるのは難しく、研究者たちを悩ませていた。

「たとえば水に溶けた砂糖や塩が限界まで溶け込んでいる飽和状態から、さらに温度が下がったり水分が蒸発したりすると、溶けきれなくなった分子同士が偶然ぶつかり合って小さな塊ができます。この結晶の"種"というべき核のまわりに、他の分子が引き寄せられて規則正しく配列して、成長してできるのが結晶です。結晶の核形成には、溶液の濃度が高いほうが簡単で、核ができたら、濃度の低い溶液に移してできるだけ静かに成長させるときれいな結晶ができます。濃度が高いままだと、分子が急速に集まって、きちんと並んでいない状態で成長するためきれいな結晶になりません。ところがタンパク質は非常に軟らかいので、核形成のあとに形を保ったまま薄い溶液に移動させるのは難しいし、濃度の違う溶液に入れたら浸透圧で割れてしまうのです。そこで塚本研では、タンパク質の結晶を刺激のない究極の場所 "宇宙空間" でつくることまで考えていました」

ところが、学会で森先生が提案した手法は、そんな常識を覆すものだった。まず、核形成には不向きな薄めの溶液をつくり、そこにレーザー光を照射してバブルを発生させる。すると、バブルが発生した局所で濃度が瞬時に上がって核が形成される。核ができて少し経つと溶液の濃度が薄い状態に戻るので、攪拌(かくはん)しながら環境をできるだけ均一にして結晶を育てるというのだ。この方法ですでにタンパク質の結晶作製にも成功しているという。

型破りな手法に興味をもった丸山先生は、森研究室に移って引き続きタンパク質の結晶を研究することにした。
「タンパク質の結晶作製のほか、薬の溶け方を変えるために結晶の構造を制御する手法なども研究していました。森先生は、問題解決を第一に、非常に柔軟な発想で臨機応変に研究を進めていくタイプ。原理がわからなくても役に立つことが大事という工学的なアプローチです。理学は逆で、"なぜ効くのか"という原理の追究がメインですから、そうした文化の違いに慣れるまでは、自分のやり方が否定されているようで、けっこう苦労もしました」

2023年3月15日に開催された応用物理学会春季講演会授賞式で、前年度の「化合物半導体エレクトロニクス業績賞」を受賞した森勇介先生とともに、第1回「ダイバーシティ&インクルージョン賞」を受賞。

2024年度の日本結晶成長学会国内会議の懇親会にて。お祝い事があり、有志でオリジナルラベルのクラフトビールを学会に寄付し、みんなで味わった。その名も「Pegmatite(大きな結晶が集まってできた花崗岩タイプの岩石名)」。

鉱物学の技法で結石の薄片をつくる

さて、丸山先生たちのMETEORプロジェクトに話を戻そう。
プロジェクトで最初に取り組んだのは、尿路結石の「薄片(はくへん)」をつくることだ。それまで医学者は、結石を粉末にして含まれている有機物を分析していた。しかし、地学系の研究者に言わせれば、鉱物は薄片をつくって調べるのが常識なのだ。
「だって、鉱物の結晶を粉末にしたら成長の時系列情報がなくなってしまいます。私たちは鉱物に含まれる成分の割合だけでなく、鉱物の成分がどこに何と一緒にあったのか、そこから結晶がどう変化して成長したのかというプロセスに注目するんです」

そこで登場したのが"薄片サンプルづくりのプロ"、田尻理恵(たじり・りえ)さんだ。元は国立科学博物館の専任技術者で、独立した今も世界中から薄片づくりの依頼が来るという。田尻さんのことは丸山先生の地学仲間が紹介してくれた。
通常、鉱物の薄片は1mmぐらいの厚みで切ったものを研磨して、マイクロメートルレベルの厚さ(20~30 μmという規格が決まっている)にして分析する。しかし、砂岩などのもろい微結晶の集合体は下手に削るとバラバラになってしまうし、硬い骨片に筋肉などの軟組織がつくヒトデなどは、硬いものと軟らかいものを共存させて薄片を作るのは至難の技。そこで、サンプルを破壊しないように丸ごと樹脂で固めてから研磨する。田尻さんは対象ごとに手法を変えて見事な薄片にするのだ。そんな百戦錬磨の達人でも、結石に最適な手法の見極めには1年を要した。骨などの固いものは溶かして柔らかくしてから切る方法(切片[せっぺん]という)もあるが、その手法だと結石の場合、結晶まで溶けてしまう。重要な成分が損なわれないように試行錯誤し、先生がそれぞれのサンプルを評価してフィードバックするということを繰り返して、ようやく今の方法にたどり着いたそうだ。

尿路結石の結晶組織・タンパク質を損なうことなく作製した薄片

田尻理恵さんとともに結石の薄片を覗く。

結石の薄片ができたことで、赤外分光分析やラマン分光分析などの「光を使った分析法」を使って、結晶の詳細な構造や成分分布を分析できるようになった。METEORのメンバーでもある名古屋市立大学の田中先生は、「蛍光免疫染色法」で結石を染める手法を開発してくれた。その染色法は、細胞などの有機物を染めるごく一般的な手法だが、結石のような硬い鉱物を染めるという発想自体が斬新だった。当初は、名古屋市立大学のグループでは、カルシウム成分を溶かした切片を用いて蛍光免疫染色に挑んだことがあったが、これではタンパク質の正確な分布がわからなかった。そこで、カルシウム成分を溶かさない薄片を用いることで、複数のタンパク質の分布をマイクロメートルオーダーで分析できるようになったのだ。
「結石のタンパク質を見るなんて化石を調べるようなものだと最初は笑われましたが、いろいろな人の力も借りて、最新技術を使った分析が可能になりました」

尿路結石内に分布する3種類のタンパク質局在の様子
a:3つのカルシウム結合タンパク質の像を重ね合わせたもの。b:オステオポンチンの分布。c:プロトロンビンフラグメント1の分布。d:カリグラニュリンAの分布。

じつは、切片による結石の研究は1950年代にも行われていて、詳細な論文も残っている。しかし、当時の分析技術は限られていたため、論文の検証がなされないまま忘れ去られていた。一方で、結石の治療法は時代とともに変化してきた。昔はぎりぎりまで体内で保存して大きくなってから開腹手術で取り出していたが、近年は内視鏡や超音波を使って石を破砕し、早期に取り出せるようになった。その結果、命に関わる病ではなくなり、結石症のしくみや予防より、患者さんの負担をより減らして結石を取り出す技術や医療機器の研究に関心が集まっていた。
「でも、そもそも結石症にならなければ痛みも治療もないわけです。私たちは改めて薄片を分析して、発症の原因を突き止めたいと考えました」

結石の成長過程を解明

初めて結石の薄片を電子顕微鏡で見た先生は、あまりの美しさに目を奪われた。その写真は、カメラメーカーのフォトコンテストで賞を取ったほどだ。

その薄片は非常に複雑な構造をしていた。同じシュウ酸カルシウムの結晶なのに、年輪のような層状結晶もあればギザギザの結晶もあり、さらにギザギザの中には小さい結晶がタイル状にぎゅっと詰まっていたのだ。詳しく調べていくと、興味深い事実がいくつも見えてきた。

尿路結石を薄片にしたものの偏光顕微鏡像。光の屈折率の違いが色の違いとなる(2023年 NIKON JOICO AWARD 芸術特別賞)

まず、年輪のような結晶からは、結晶が成長する過程の有機物分布の変化がわかった。
「年輪のようなしま模様は、成長の過程でタンパク質の濃度が変化を繰り返した結果だったんです」
私たちは1日に何回も尿を排出するが、睡眠中はホルモンが水の体への再吸収を促して尿を少なくしている。しかし、有機物の分泌量は変わらないため尿は濃くなる。一方で、昼間は何回もトイレに行くので尿は薄まる。結晶の年輪はその尿の濃淡の変化と連動していると考えている。

さらに、いろいろな形の結晶が混在しているのは「仮晶(かしょう)」だとわかった。たとえば木の化石といわれる珪化木(けいかぼく)は、樹木が地中でケイ酸を含む地下水にさらされた結果、木の形はそのままに主成分が炭素からケイ素に変わったものだ。このように、結晶の形は変わらないまま、内部だけが別の物質に置き換わった結晶を仮晶という。
「たくさん鉱物を見ていると、これは仮晶だ!とピンとくるんです。じつは、結石の主成分はシュウ酸カルシウムの『一水和物(COM)』なんですが、不安定な『二水和物(COD)』もよく見られます。そしてCODの結晶は薄片のギザギザ結晶のようにとんがっているんです。そこで、よく見られるCOMを主成分とする結石は、CODの仮晶ではないかと考えました」

早速、CODの形が残っている結石をCTで調べてみると、やはり内部はCOMになりかけていた。そこで、今度は結晶ができる様子を観察した。
「尿を模した溶液に拝石(体外に石が出てくること)されたばかりの結石を浸して、変化の様子をマイクロX線コンピュータトモグラフィ(マイクロX線CT)と走査型電子顕微鏡(SEM)で1週間ごとに観察しました。すると結晶の内部が徐々に変化してCODからCOMに変化していくことを確認できました。結石はCODの結晶として生まれて、尿中でCOMに変わっていたんです」

さらに、結石化の細かなプロセスも見えてきた。同じシュウ酸カルシウムでもCODは結晶になりやすいけれどCOMよりは溶けやすい(溶解度が高い)性質。逆にCOMは溶けにくく、結晶化もしにくい性質がある。そのため、尿中ではCODがまっさきに結晶をつくり、COMはそれを追うように結晶化を始める。やがて両方の結晶が成長しだすと、その周りの尿は成長する結晶に成分を奪われて濃度が低くなる。すると、CODは溶け出すが、COMは薄い尿の中でも溶けずに成長を続けて最後はCOMの硬い結晶が残るのだ。ちなみに、結石の一番外側は新しい尿がどんどん補給されるためCODが溶けることなく最後まで残っている。

尿路結⽯が形成されるプロセス

薄片によって、シュウ酸カルシウムが硬く大きく成長するプロセスの一部が解明できた。しかし、結晶化のきっかけは謎のままだった。
「名市大病院の先生たちによると、腎臓組織内には、血液をろ過して尿にする腎単位というものがたくさんあって、その腎単位の出口が集まっている腎乳頭(じんにゅうとう)にリン酸カルシウムの塊があって、そこから結晶化が始まるというのです。そこで、結石の結晶成長のプロセスをもう一度、さまざまな視点で確認してみることにしました」

まず、薄片を染めて元素の分布を見ると、シュウ酸カルシウムとリン酸カルシウムの双方の材料となるカルシウムが全体的に分布していた。そして、ところどころにリン酸カルシウムを示すリンも強く出ていた。そこで、さまざまな結石の結晶構造をもう一度、詳しく調べた。
「結石中には確かにリン酸カルシウムの微結晶(ナノメートル〜数マイクロメートルオーダー)が集合した塊がよく見られ、その周辺にCOMの硬い層状結晶が発達していました。そして、この結晶はCODではなくCOMがダイレクトに結晶化したものでした。さらに調べると、尿中に浮遊しているリン酸カルシウム(数十〜数百マイクロメートル程度に成長したもの)を核にしたCOMの結晶もあり、そこにも層状結晶が確認されました。つまり、リン酸カルシウムはCOMの硬い層状結晶の核になると考えられるのです」

この結果から、これまで結石の主成分として着目されてきたシュウ酸カルシウムだけでなく、リン酸カルシウム結晶が結石の核になるためにより注意を向ける必要があることがわかってきた。さらに、腎乳頭に付着したリン酸カルシウム微結晶の塊(いわゆるプラーク)だけでなく、尿中に浮遊するような大きく成長したリン酸カルシウム結晶も、結石の核になることを新たに示した。また、リン酸カルシウム結晶の周辺に発達しやすい層状のCOM構造は非常に硬く、結石が大きくなり壊れにくくなることで重症化のリスクにもつながると考えられる。

尿路結石予防のバイオマーカーへ

結石形成のメカニズムがだんだんわかってきた。では、再発を繰り返す人には何か特徴があるのだろうか。
それを探るために、尿路結石症患者の尿を約200人分集めて、1回だけ発症した人、何度か発症した人、頻繁に発症を繰り返す人に分けて尿中の結晶を調べた。すると、頻繁に発症を繰り返す人の半数近くにリン酸カルシウムの結晶が多く見られた。結石症を繰り返し発症する人と、尿中のリン酸カルシウムの量は相関していたのだ。

この結果から、尿中のリン酸カルシウムを尿路結石の予測や予防のためのバイオマーカー*として使えないかという研究も進めている。このアイデアも医工連携の視点から生まれたものだ。じつは、医学の臨床検査は常温で行うのが基本で、冷却保存された尿も必ず常温に戻してから使う。それを知った丸山先生たちは疑問を抱いた。
「常温だと結晶が出にくいと考えるのが結晶工学の常識です。だから、冷却保存した尿をそのまま検査すれば何か違うものが見えるのではと思ったんです。試してみたら、リン酸カルシウムの結晶がたくさん見えた。それでマーカーに使えるのではと考えました。常温検査では成長しやすいシュウ酸カルシウムの結晶ばかりが目立って、リン酸カルシウムの結晶に気づかなかったんですね」

*バイオマーカー:体の状態や病気の有無を示す生物学的な指標のこと。

尿路結石症を予測できれば、いいことはたくさんある。結石症の患者さんの多くは、突然、原因不明の激痛に襲われ死ぬかと思って救急搬送されてくる。もし結石症のリスクが事前にわかれば「あと2か月ぐらいで痛みが来ますよ」と伝えられる。そうなれば、出産と同じで心の準備もできるし、救急搬送を使わずにタクシーで病院へ向かう余裕も生まれるはずだ。

また、結石の結晶の謎が解明されれば、骨粗しょう症をはじめ他の結晶に関連した病気もコントロールできるかもしれないという。骨粗しょう症は骨からカルシウムが溶け出して骨がもろくなる病気だが、一方で、血液中で過剰になったカルシウムが血管に沈着して動脈硬化を引き起こす(血管石灰化)。また、増えすぎたカルシウムが尿に排出される過程で、シュウ酸などと結びついて結晶化すると尿路結石になる。尿路結石や血管石灰化などはどちらも予期せぬところで結晶ができる病気なのだ。五十肩も関節にリン酸カルシウムの結晶が沈着するのが原因だという。つまり、結晶化のメカニズムを解明すれば、こうした病気の解明や改善につなげられる可能性もあるわけだ。

最後に、先生にとって研究で大切にしていることをうかがった。
「やはり、視野を広くもってしっかり眺めること。それは研究対象だけではなく、自分をとりまく世界も人間関係も含めてです。結晶工学と医学では見える世界が違うし、研究者と患者さんでも違う。言語も文化も違うから苦労もしますが、なんでもいいから共通点を探して異なる世界を柔軟に受け入れてほしいですね。
それから、新しいアイデアは人にきちんと伝えること。笑われることもあるけれど、人に言わないと新しい展開は起こりません。私自身、それぞれ違うテーマをもちながら研究していた仲間たちに声をかけ、再び一緒に研究に取り組むことができました。さまざまな出会いは心からワクワクするし、研究後の飲み会は格別ですよ」

結石症の専門家を前に「隕石と結石は似ている!」と口にしたことから、尿路結石の研究にのめり込むことになった丸山先生。私たちの体の中には、まだ見ぬ美しい結晶が謎解きのチャンスを待っているに違いない。

(2026年7月24日更新)