フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第7回 細胞の死 川崎医科大学 生化学教室 刀祢 重信 准教授インタビュー 細胞の自殺──アポトーシス研究の重要性

週末は僧侶。細胞死を取り入れて説法することも

───アポトーシスの研究を通じて、どんなことを感じていますか。

私は実は実家がお寺で、研究のかたわら週末は僧侶をしています。僧侶ですから、法事のときなどには、参列された方々に説法をする機会があります。そんなときには、私の研究テーマであるアポトーシスの話をすることもあるんです。
アポトーシスとは、細胞自身が自分の死ぬ時期を知っていて、けれども、生命全体を救うために自分が死んでいくシステムといってもよいでしょう。小さな細胞の一つひとつが、からだを作っている細胞社会での自分の役割を知っていて、自ら死を選んでいく。
こうした話は、すべてのものが相互作用しながら常に変化し、どんなものでも消滅するのだという仏教的な生命観にも通じるところがあります。私が生物学、アポトーシスの研究をしていたからこそ、みなさんにお話しできるのではないかと思います。また、最近では、説法の中で、iPS細胞についてのお話をするとたいへん興味を持たれるようです。iPS細胞が旬な話題だということもあるでしょうが、一般の方の生命科学に対する関心も高いという印象を受けています。

───中高校生にメッセージをお願いします。

私は子どものころは天文学や宇宙についての興味を持っていました。それから化学が好きになった。というのは、私の父が僧侶ではあったけれど化学が好きで、ほんとうは化学の研究者になりたかったようなんです。お寺の隅に実験室なんか作ってボヤを出したり(笑)。でも現実には化学者の道を選択できずに僧侶になった。その果たせなかった自分の夢を息子の私に託したのか、夏休みの理科の自由研究などは厳しく指導してくれました。
進路を決める場合、いろいろな選択肢があると思います。私はたまたま、父親の影響もあって理学部を選んだのですが、生命科学を研究する場合、医学部に進学して医学の立場から研究することだってできますし、薬学部や工学部、あるいは農学部からアプローチすることもできます。昔と違って生命科学でしたら、学部間の違いは小さくなっています。何が自分に向いていて適性を活かすにはどの道がいいか、自分が夢中になってやれることは何かとあわせて、現実的な就職状況や将来設計をじっくり考えて方向性を決めることが大切なような気がします。
研究者の道は実力だけでなく、運も左右する厳しい世界でもあります。九州大学の中山敬一先生も『君たちに伝えたい3つのこと』(ダイヤモンド社)で書かれていますが、研究の道を志してもし挫折したときのためのセーフティーネットとして、国家資格(医師免許、薬剤師など)が得られる学部を選ぶということも、賢い選択かもしれません。

(2010年8月17日取材)

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