───細胞シートなどの再生医療によって重症の心臓病を治療する意義はどんなところにあるんですか。
心不全を引き起こすような重い心臓病の患者さんで、薬では治療できなくなった方には、人工心臓をつけるか、他の方の心臓を移植するかしか方法がありませんでした。けれども、人工心臓はあくまで機械ですから、長い間つけていると血栓ができるなどの問題もあり、心臓にかかる負担も大きいんです。いまのところ人工心臓は、心臓移植を受けるまでのつなぎの位置づけなんですね。
では心臓移植はどうかというと、日本ではなかなか受けられないのが現実です。アメリカでは2008年段階で約2000例あるのですが、日本では2000人近く心臓移植の希望者がいるのに約10例だけです。また、日本では2009年7月に臓器移植法が改正され、やっと15歳未満の子供の臓器提供ができるようになったばかりです。※
こうしてみると、人工心臓や心臓移植のほかに、重い心臓病患者さんの命を救う方法が必要になってきます。
※15歳未満のドナー(臓器提供者)による日本で初めての心臓移植は、大阪大病院で2011年4月、澤先生の執刀で行われた。
───そこで、細胞シートを使って心臓を元気にしようと。
そうですね。私たちは毎日病気と闘っている患者さんを見ています。そうした苦しそうな患者さんを見ていると、「治してあげたい」と切実に思うんです。私は医療の基礎研究にも携わっているけれど、臨床医であり患者さんを治すための研究をしているんです。
だから、細胞シートが、動物実験から人間の患者さんに適用できるところまできたときの喜び、感動は言葉に表せないほどでしたね。
───細胞シートを使って治療できる患者さんはどういう状態の人ですか。
私たちは、たとえばちょっと手のひらを切ったときなど、特別に治療しなくても自然に肉が盛り上がって治ってしまうでしょう。生き物にはそうした自然の創傷治癒能力が備わっています。手に限らず、どの組織も一応持っていて、心臓にも小さいながらこの創傷治癒能力が備わっています。細胞シートは、そうした心筋の持っている治癒能力に働きかけるので、心筋症の患者さんのうちでも治癒能力をまだ持っている人に有効なんです。
だから、すべての心筋症の患者さんを治せるかというと、現在の細胞シートではまだできないというのが現実のところですね。
けれども、これから研究を重ねていけば、さまざまな状態の心筋症の患者さんを治療できる可能性は持っていると思います。