フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第20回 iPS細胞から血小板をつくる 京都大学iPS細胞研究所臨床応用部門 江藤浩之教授インタビュー

37度の体温下で培養しても止血機能を保持した血小板づくりに成功

───血小板をつくるいちばんもとになるiPS細胞には、何らかの違いはあるのでしょうか。

ええ、iPS細胞は、採取した体細胞に4つくらいの遺伝子を組み入れてつくるのですが、同じようにつくっても、質の良い細胞と悪い細胞ができてしまいます。たとえば、500個のiPS細胞をつくったとしても、それらのiPS細胞は一つひとつ違った顔をもっているのです。
あるiPS細胞は神経にはなりやすいけれど、血液にはなりにくいとかの個性のようなものがあります。血液をつくりたい私たちにとってみれば、神経になりやすいiPS細胞は質が良くないということになるわけです。また、あるiPS細胞は分化能力が高くて、たとえば血液細胞をどんどんつくれるのに、他のiPS細胞だと分化能力が低くて、いくつか血液細胞をつくった段階でそれ以上分化しなくなるようなこともあるのです。
こうした違いは、元の細胞を提供してくれたドナーの個性や体のどこの部位から採取したのかによっても左右されます。幸い、京都大学のiPS細胞研究所ではさまざまな種類のiPS細胞をつくる技術があるので、私たちは血小板をつくる上で性能の良い、質の高いiPS細胞を使うことができるのです。

───iPS細胞から血小板をつくった後、どのように保存するのですか。

実はこれが厄介な問題を抱えているんです。血小板は20~24℃の常温で保存しなければならず、しかも4日しかもたない。それ以外の条件だと止血作用などの血小板の機能が壊れてしまうのです。こうしたことから、献血ドナーから血液を提供されてつくられる血小板製剤の保存の問題も発生するわけです。
iPS細胞から血小板をつくるための培養は培養器の中、37℃プラスマイナス4℃前後の条件下で3週間かけて行いますが、そうしてできた血小板は止血機能に必要な分子が切断されて、止血できなくなってしまうことが研究途中で分かってきたんです。
そこで、常温でも止血機能を維持した血小板が産出できないか研究を続けましたが、やはりそれは不可能であることが分かりました。一方、37℃プラスマイナス4℃前後の条件下では、止血機能を持った分子が切断されるのは、メタロプロテアーゼという酵素の働きであることをつきとめました。そこでメタロプロテアーゼの活性阻害剤を培養の際に添加したところ、止血機能を維持した血小板をつくることに成功しました。
「森の教室」でお話ししたように、いま私たちは増殖能力を維持した巨核球株を得ることに成功しました。巨核球株は冷凍保存できますので、いずれさまざまなHLA型の血小板バンクのようなシステムが確立されれば、血小板の保存の問題も解決されていくのではないかと思います。

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