フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

謎がいっぱいの睡眠研究に挑戦を

───お腹がすいているとなかなか眠れないのはなぜなんでしょう。

最初にオレキシンは摂食と睡眠の両方に関係しているとお話ししましたが、空腹になると眠りにくくなり、満腹になると眠くなるのは、そのことにも関係しています。
私たちは長く食物を摂らないでいると、血液中のグルコース濃度(血糖値)が低くなります。すると、脳の周りを取り巻いている脳脊髄液中のグルコース濃度も低くなり、覚醒物質のオレキシンをつくるオレキシン作動性ニューロンの働きが活発になるのです。
つまり、空腹になると睡眠を妨げるオレキシンが脳にたくさん供給されて眠くなくなる。反対に食物を食べるとグルコース濃度が高くなって、オレキシン作動性ニューロンの働きが鈍り眠くなるわけです。
このシステムは、動物の世界でも見られるもので、野生動物は空腹になると餌を探す行動をとらなければならないでしょう。このとき眠くなっては困ります。なぜかというと、餌を獲るにはほかの動物と闘わなければならないなど危険がつきまといます。そこで覚醒レベルを上げて意識をクリアにし、交感神経を興奮させて身体機能をアップさせることが必要になるわけです。空腹のとき眠くならないのは、生存そのものに関わるシステムなのです。

───睡眠と脳についての研究は、覚醒時の脳の研究に比べて進み具合はどうなのでしょう。

残念ながら覚醒時の脳研究に比べると盛んだとは言えません。現在の医学教育では睡眠障害の講義に割かれる時間は非常に少ないのです。そして、睡眠の研究に携わる神経科学者の数も多くはありません。睡眠についての基礎研究をしている研究者グループは、日本ではそれこそ数えるほどしか見当たらないのが現実です。
一方、現代はストレス、不安などから睡眠障害に悩んでいる人が非常に多く、社会的にも大きな損失となっています。

───脳科学による研究が貢献できる余地がたくさんあるということですね。

そうですね。脳科学から見て睡眠は謎だらけであるといってもいいくらいです。これからも、情動(感情)と覚醒システムがどう関わっているか、扁桃体や大脳辺縁系がどのようにしてオレキシンを含めた覚醒系を制御しているのか、あるいはノンレム睡眠中に脳が何をやっているのかを可視化してみたいなど、研究したいことがいろいろあります。 睡眠は脳の機能を支える営みであり、睡眠を研究することは脳の機能を考えることに結びついています。脳科学の中でも謎がいっぱいの睡眠の研究に、皆さんも将来挑戦してみませんか。

(2016年3月29日取材)

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