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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊

第16話 BMIを医療に

BMIという言葉を聞いたことがあるかな? Brain Machine Interfaceの頭文字をとったもので、脳波の信号を使ってロボットやコンピュータなどの機械 (マシン)を操作し、脳機能を再建・増強する技術のこと。BCI(Brain Computer Interface)とも呼ばれる。重い運動麻痺(まひ)のある人が念じるだけでロボットアームや車いすを動かしたり、コンピュータを使って意思を伝えたりと、さまざまな応用が進んでいるんだって。今回はこのBMIが医療にどう活かされているのかを聞いてきたよ!

え~っ、カシコちゃんが入院だって!? しばらくの間 声が出せないんだって 言いたいことはこのノートに書いていくからね! えええ そうなの~!? ミシルくん カーテンあけてお水のませて はい! そこの本とって それから… これかな いちいちこうやって書くの大変だね うん… 思ったことをすぐに伝えられる方法ってないのかなぁ? 世の中にはもっと重い病気などで会話が困難な人たちもいるんだし… きっとどこかにあるのかも!?

頭の中で想像した言葉を声を出さずに外部に伝える? そういうものは実際にありますよ! えっ……ホントですかっ!! 栁澤 琢史先生 大阪大学高等共創研究院 教授 BMI Brain Machine Interface BCI Brain Computer Interface ブレイン・マシン・インタフェース ブレイン・コンピュータ・インタフェース と呼ばれる研究で… 脳波などを読み取ってその信号を外部機器へ送り出したり 逆に脳に刺激を与えることによって 脳と機械やコンピュータをつなぐ技術があります ぼくたちが知りたいのはまさにそれです! ドキドキ!

「思っていることを外部に伝えられるようなしくみ」は 難病や障害を持つ人々のコミュニケーションを助けることができます たとえば脳梗塞などで体が思うように動かせず言葉も話せない患者さんなどを想像してみてください そうかあ…… 言いたいことがあっても体が動かせない カシコちゃんがしていたような「筆談」という方法をとれない人もいるんだね 体を動かそうとするとき 脳内にある神経細胞が電気信号を伝え合います 伝えたい文字を選ぼうとするときの脳の活動を読み取ってコンピュータの画面に表示できれば…… この電気信号をどうやって拾い上げ解読するか?という研究は以前から行われていました

電気信号をできるだけ細かく正確に読み取りたい場合は 手術によって脳に直接電極を埋め込みます 侵襲型 頭蓋骨と脳の間に電極を置く「低侵襲型」もある の…脳ー!! しかし脳に直接針を刺すと脳を傷つけることになりますから 脳の表面に電極を置き 脳を傷つけずに微弱な電気信号を読み取る方法もあります 非侵襲型 頭皮にセンサーを置くだけなので安全 手術の大変さをとるか精度をとるか…ということですね 非侵襲型でも近年では制度を上げて実際に使える感じにだいぶ近づいています

筋肉を動かす命令を出す脳の機能に障害を受けて しだいに全身の筋肉が動かなくなってしまう筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病があります これは運動野とよばれる脳のある部位がはたらかなくなってしまう病気なので 従来のような運動野の活動を読み取る方法ではうまくいきませんでした 私たちの研究グループでは 脳から出る電気信号の読み取り+AI(人工知能) この両方を活用して思い浮かべていることを画像として示すようにする研究を進めています! この方法であればALSの患者さんも脳波を利用した意思伝達が可能になるでしょう ここ数年でAIがどんどん進歩して便利になっているもんね もう少ししたら実際に誰でも利用できるようになるかもしれないですね!

BMIの発展にはいろいろな分野がかかわっています いま話したようなAIやコンピュータ技術の進歩によるもの… 脳のどんな部位にどんな機能があるかというしくみの解明 実際に手術をする脳外科の技術の進歩 脳の信号を計測・解読する装置の機能向上といった工学的な部分… さまざまな専門家が協力することが大事なんですね この分野での研究をする人が世界的に増えています 私たちも大規模な研究プロジェクトを進めているところです

その他の研究の例では「幻肢痛」と呼ばれる症状の治療があります 失ってしまって存在しないはずの手足の痛みを感じるというものです 腕の場合ですが 切断された神経の代わりにコンピュータ回路をつなぐと 仮想のロボットアームを動かそうとします そのときに腕を動かすための脳の特定の部分が活動します 脳から腕を動かす命令を送る… ロボットアームの動きが脳に送られる… この相互のやりとりから脳活動が変わり痛みの軽減につながれば…と治療につなげるための研究をしています 双方向であることが大事なんですね

脳を機械に接続できれば治療が必要な人だけではなく普通の人々にも便利ですよね! ぼくもやってみた~い! でも手術をして脳に埋め込むにはちょっと勇気がいるかな~? そうですね 「すぐにでも使えるように」と期待されてはいますが 安全面や倫理面の問題はよく考えていかなくてはならないと思います 新しい技術は思いがけない影響を人体や社会に与えるかもしれません この分野の研究開発や実際の臨床での利用はアメリカでは盛んに行われていてすでに商業化へ向かっています 日本では精神医療の領域で外科手術を行いにくい歴史的な背景があります 人々のためにどうするのがよいか考えていかなければならないですね

それにしても脳と機械をつなぐなんてかっこいいですね! いつ頃からこうなりたいって思ってたんですか? 大学は物理学科で大学院では数理科学の研究をしていました そこでは脳のしくみに興味を持ち睡眠と覚醒のシミュレーションに取り組んでいました その後は医学部での研究の世界へ入り神経生理学を専門にしました 研修医時代には特に幻肢痛のため電気刺激を用いた運動刺激療法をしていました 現在の研究につながるまで自分でもいろいろなことをやったなと思います みなさんも「これひとつしかない」と思わないで「可能性はたくさんある」と思って  いろいろな道を探索してください!

頭で考えていることを文字にして伝えたり動かそうと思うだけでロボットの腕を動かしたり…そんな技術がすでにあるということに驚いた! 脳の「運動野」という部分に現れる微弱な電流の変化を「信号」としてとらえているらしい。 近年では「これはこう言いたいのだろう」とAIが推測するサポートが発達したおかげで 以前より格段にたくさんの言葉を伝えられるようになったりその精度が上がったりしているらしい。 将来はこんなレポートも想像しただけで書けるようになるかもしれないね そっかぁ…! 早くそうなってほしいね~! それどころかレポートを脳から直接送れるようになるかもしれないんじゃない!? レポートをDOKIDOKI星に送って今回も任務完了!

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(全10ページ)

お話をうかがった先生

栁澤 琢史
(やなぎさわ・たくふみ)

大阪大学 高等共創研究院 教授

2000年早稲田大学大学院理工学専攻修士課程修了。04年大阪大学医学部卒。09年同大大学院医学系研究科修了。博士(医学)。同大大学院医学系研究科保健学専攻神経機能診断学助教、同大国際医工情報センター臨床神経医工学寄附研究部門講師などを経て、18年4月より現職。脳信号をAIで読み解くことで、新しい診断法・治療法につなげる研究に取り組んでいる。内閣府ムーンショット型研究開発事業では「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」をテーマにサブプロジェクトマネージャーを務める。科学技術振興機構ERATO(戦略的創造研究推進事業)「池谷脳AI融合プロジェクト」研究メンバーでもある。

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