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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊

第17話 発光生物

光る生き物といえば、まっさきにホタルやホタルイカなどが思い浮かぶが、地球上にはわかっているだけで、なんと7000種もの発光生物がいるそうだ。でも、光る理由やメカニズム、光る能力をどのように獲得したのかなどは謎だらけ。今回は、発光生物のさまざまな謎に迫る研究を紹介するよ!

ある夜のこと…… ええっ!ドッキンのおしりが光ってる! んっ? ああこれ… ドキドキすると光っちゃうんだよね〜 えええ〜 この漫画が始まって数年経つけどそんな設定があるとは知らなかった… 設定って何…? えーっ? ミシルくんとカシコちゃんは体のどこかが光ったりしないの? ぼくたちは光らないよ! でも地球にも体が光る生物はいるよね?ああいうのはどうやって光っているのかなぁ…

光る生物の研究!! これまでに発見されている「発光生物」はバクテリアから脊椎動物までさまざまなものがあります 原核生物、真菌、キノコ、単細胞生物、多細胞生物…なんと7000種も! その中でも魚類は1500種の発光種が報告されていて全発光生物のおよそ4分の1を占めています 海洋生物の76%が発光生物と言われており… 海では光ることが役に立ったり生存に有利だったのではないかと考えられます 別所-上原学先生 東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教

生物発光はその体の中で起こる「化学反応」によって生み出されたエネルギーが私たちヒトの目に見える光として放たれる現象です 体の表面や外部の光をはね返して光る「反射」や 外部から与えられる光のエネルギーがもととなって光る「蛍光」…とは異なるものです 生物発光をもたらす天使の名「ルシファー」にちなみ 「ルシフェリン」と呼ばれる分子が「ルシフェラーゼ」という酵素の助けで化学反応して起こる現象です 多くの発光生物はそれぞれ独自の構造をもつルシフェリンやルシフェラーゼを使って光っています!

発光生物の中でも私が主な研究対象にしているのはキンメモドキです! 群遊が美しく水族館で見られるような魚です これが「光る魚」であることはあまり知られていないのですが… 胸部と肛門付近に消化管とつながったふたつの発光器を持っています 20世紀なかばに羽根田弥太博士とのちのノーベル賞受賞者である下村脩博士は キンメモドキの発光器の中にあるルシフェリンはウミホタルのルシフェリンと同一の化合物である…ということを発見しました しかしその後50年経つのにキンメモドキのルシフェラーゼについては目立った研究がなかったので、自分はこれを研究していこうと決めたんです!

キンメモドキのルシフェリンがウミホタルのルシフェリンと同一の化合物であることはわかっていた… ではキンメモドキがもつルシフェラーゼとウミホタルのルシフェラーゼは同じなのか!? その研究に取り掛かったとき、水族館に協力を頼んだところ、魚が不足していたタイミングでなんとか譲ってもらえたのが前年度から飼育していたキンメモドキでした そこで1年間飼育されていたキンメモドキは光らないということに気付き… これを調べてみるとルシフェラーゼを持っていないことがわかりました その光らないキンメモドキにウミホタルを餌をして与えたところ その発光器からルシフェラーゼが検出されるようになったんです! キンメモドキが持つルシフェラーゼは餌から取り込まれたものだった!! これが証拠になりキンメモドキはウミホタルから「盗んだ」ルシフェラーゼで光っていることがわかりました

キンメモドキがウミホタルのタンパク質を食べてそのまま利用しているということがわかったので 私たちはこれを「盗タンパク質現象」と名付けました 盗んだ!ドキドキするね〜 ぼくがこの餌を食べたとしても光らないと思うんですが…… どうしてキンメモドキはそれができるんでしょうか? まさにそこが不思議に思うところなんです! ルシフェリンは小さな分子なので餌として食べられて体内にそのまま取り込まれることはありえます でもルシフェラーゼは酵素なのでタンパク質でできていてかなり大きな分子です

こんなに大きなものがいったいどうやって細胞膜を通り抜けているのだろうか… 自分の体よりも小さなドアをくぐり抜けるかのようなイメージなんです! 「食べたタンパク質を壊さずに体に取り込めてその機能が利用できる」しくみがわかったら これをまねして大きな分子を体に取り込んで利用できるようになるかもしれないでしょう? 体の中のねらった場所に薬を運んで効果を発揮させる「ドラッグデリバリーシステム」という治療方法がありますのでこれに応用できたらいいなと考えています 「光る成分」じゃなくて「薬の成分」を運ぶってことですね ドキドキするね!

タンパク質ではないですが、普通は消化されてしまうものをたくみに利用している例は他にもあります 光合成のため葉緑体を盗む「盗葉緑体」 クラゲの刺胞を盗む「盗刺胞」などがあります 「盗機能」あるいは「盗機能生物学」という視点で生物をとらえることで 生物学の新しい見かたが生まれると思います! 「生物が光る」とはどういうことかという生物のしくみや進化をひもときたい! もうひとつは「盗み」による進化が他にもあったら見つけたいし そのメカニズムを調べたいという目標もあります

子供のころから生物や魚が好きだったんですか? 全然そんなことはなかったですね〜 え〜っ しかも虫が苦手で触れなかったのに大学ではホタルの研究をしていました! 高校のとき1年間アメリカに留学していたので英語は得意だったかも…… 海の研究だから船に乗って調査に出たりすることも… 体力と持久力が大事なのでジョギングをしています! いま中高生で研究者を目指す人は 興味がある分野だけでなく 興味がないものもいろいろチャレンジしてみてください それが自分のアイデンティティをつくっていくことにつながります!

地球には7000種もの発光生物がいてそのうち4分の1は魚類なんだって! 海には光る生き物がいっぱいいるんだね。 発光生物の体内には「ルシフェリン」と呼ばれる分子とその化学反応を助ける「ルシフェラーゼ」と呼ばれる酵素があり、このふたつが混ざることで光っているらしい。 このような物質を自分の体内でつくるのではなく 餌として食べた物からその機能を「盗んで」活用し生存に役立てる生物がいるらしい。なんとも興味深い現象だ。 光る生物のことを調べていたら 新しい薬をつくる可能性にもつながっていったという話もあったね! そんな思いがけない展開になることもあるんだね〜 ドキドキするね〜! レポートをDOKIDOKI星に送って今回も任務完了! ドッキンのおしりが光ってる!

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(全10ページ)

お話をうかがった先生

別所-上原 学
(べっしょ-うえはら・まなぶ)

東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教

1989年生まれ、名古屋市出身。2017年名古屋大学大学院生命農学研究科修了後、18年4月より2年間、米モントレー湾水族館研究所(Monterey Bay Aquarium Research Institution:MBARI)博士研究員。20年4月名古屋大学高等研究院特任助教。24年4月から現職。発光生物とその進化について探究している。

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