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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊

第17話 発光生物

調査のまとめドッキンレポート

7000種もの光る生き物がいる!

光る生き物を見たことがあるかな? 暗闇でホタルがまたたく姿は印象的だよね。ホタルのほか、陸には光るキノコや光るカタツムリなんかがいるし、海にもホタルイカやウミホタルをはじめ、数多くの種類がある。
「核を持たないバクテリアの仲間にも光るものがいるし、真菌類ではキノコ、単細胞生物では放散虫も光りますね。多細胞生物では、クシクラゲやクラゲ、オタマボヤ…。ヒトにいたる系統では魚類までが光りますが、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類など陸上の四足動物にはいません」(別所先生)
いまわかっているだけでも、世界で7000種もの光る生き物がいるんだって!
とくに、魚類は1500種もの発光種が報告されていて、海洋生物の76%が発光生物といわれていることからも、海では光ることが役に立ったり生存に有利だったりするのではないかと考えられているらしい。

光る目的もさまざまドキ。相手をおどかす、餌をおびきよせる、求愛やコミュニケーション、照明…などが知られているが、正確に証明するのはむずかしいらしい。

ゲンジボタル。発光器のある腹部の末端部分の表皮が透明で光を発している様子がよくわかる。光るのは求愛のため。

ホタルミミズ。体長は約1cm。透明感のあるピンク色で、腸に土が詰まっているのがわかる。体内に発光細胞があり、刺激に応じて発光細胞が分泌され緑色の発光を示す。向かって右の環帯があるのが頭側で、尾側を刺激すると緑色に発光。

ウミホタル。上唇腺(じょうしんせん)からルシフェリンとルシフェラーゼを吐き出して、海中で発光させる。光る目的は求愛のためと、目くらましのため。

暗闇の中で光るクシクラゲ。クシクラゲは有櫛(ゆうしつ)動物門で、刺胞(しほう)動物門に分類される一般的なクラゲとは全く違うグループに属する。櫛板(くしいた)が虹色に光るのは発光ではなく反射によるものだが、櫛板の下に発光細胞が並んでいて、発光タンパク質がカルシウムイオンと結合することで発光する。

写真提供:富山県ほたるいか協会

光るホタルイカ。第4腕の先端部が強い光を発し、襲ってきた相手の目をくらますと考えられている。目のまわりに5個、体全体に数百個の発光器がある。体全体を光らせるのは、深い海の中で下からやってくる敵から自分のシルエットが目立たないようにするためと考えられている。

シイノトモシビタケ、アミヒカリタケ、ツキヨタケなど光るキノコはいくつもある。なぜ光るかは諸説あり解明が進んでいなかったが、2023年1月に米国カリフォルニア大学バークレー校(UCB)が、一部のキノコが光るのは、ハエなどの昆虫を集めて胞子を運ばせるためだとする論文を発表した。

さまざまな生物が光っている写真は、
別所先生のwebサイトにもいろいろのっているドキ!

ところで、発光生物の「発光」というのは生物が自ら光を発している現象のことで、暗闇で猫の目が光って見えるような「反射」や、紫外線などを当てると励起状態になってもとに戻るときに違う色の光を発する「蛍光」は、発光とは言わない。混同しがちだから注意が必要ドキ。

多くはルシフェリンとルシフェラーゼによる化学反応で光る

ではどんなメカニズムで光るのだろう? 発光生物の多くは、「ルシフェリン」と呼ばれる光のもととなる物質(基質分子)がO2(酸素)と反応して光を発する。この化学反応を助けるのが「ルシフェラーゼ」と呼ばれる酵素ドキ。ちなみに、ルシフェリンは、光をもたらす天使の名前の「ルシファー」から来ているよ。

この「ルシフェリン」と「ルシフェラーゼ」はあくまで機能を示す総称で、それぞれ の生物で基質分子や酵素の構造は異なっている。そのため、生物の基質分子を指すときは、ホタルルシフェリンとかキノコルシフェリンなどと呼び、生物のグループによって光るしくみはちがうドキ。たとえば、ホタルの発光反応には、ATP(アデノシン三リン酸)が補因子(酵素以外で化学反応を助ける物質)として使われるけど、キノコの発光反応には別の補因子(NADPH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)が使われているそうだ。

ホタルの発光のしくみ

生物の進化の歴史を見ると、発光能力は系統にかかわらず独立に獲得されたもので、獲得回数は通算して100回以上にも及ぶと推測されている。そのときどきで、発光生物は独自の基質分子を生合成してきたと考えられているけれど、ルシフェリンの構造が明らかになっているのはわずか15種類にすぎないんだって。また、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩(しもむら・おさむ)博士で有名になったオワンクラゲは、例外的な化学反応で発光しているという。

生物発光の世界は
奥が深いドキ!

コラム

緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein; GFP)を発見してノーベル化学賞を受賞した下村脩博士の研究テーマは、オワンクラゲの発光のしくみを明らかにすることだった。しかし、どんなに工夫してもオワンクラゲからルシフェリンとルシフェラーゼが抽出できなかったという。別のメカニズムで発光しているのではないかと考えた下村博士は、85万匹ものクラゲを用いて研究を重ね、ついに、オワンクラゲは「イクオリン」という発光タンパク質がカルシウムとくっつくことで青色の光を出すことを見つけた。この研究の副産物としてGFPが見つかったんだって。実際には、イクオリンの発光エネルギーがGFPに受け渡されることで、オワンクラゲは緑色の光を発すると考えられている。
この紫外線を当てると緑色に光るGFPの特長を利用して、それを目印にしてがん細胞などが体のどこにあるかや、脳の神経細胞の活性化の様子などを可視化できるようになり、医学や生命科学が大きく進歩したんだ。

オワンクラゲの発光のしくみ

発光生物の進化研究の道へ

別所先生は大学生のころから漠然と、進化の研究がしたいと思っていたという。
「進化って生死をかけたドラマの結果ですよね。当時のドラマを見ることができたらおもしろいと考えていたんです」
いろんな研究室をまわるなかで、当時助教だった大場裕一(おおば・ゆういち)先生(現・中部大学応用生物学部 環境生物科学科 発光生物学研究室教授)の研究室で、実際に光っているウミホタルを目にした。
「青い光そのものがとても美しかったんです。それと同時に、不思議に思いました。光ることは目立つので生存には圧倒的に不利ですよね。しかもウミホタルは泳ぎだって速くないのに、いったいなぜ生き残ることができたんだろう? それを解き明かしたいと思い、発光生物の進化を探究することを決意しました」

大場先生からいくつかテーマを提示されて選んだのが、キンメモドキだった。キンメモドキは小型で浅い海にすむ魚で、胸部と肛門付近に発光器があって光る。高級魚のキンメダイに似ているということからその名がついたが、キンメダイは水深200~800mにすむ大型の魚で光ることはない。

キンメモドキが光っている様子。キンメモドキの発光器は胸と肛門付近にあり、食べ物を消化するところ(消化管)とつながっている。

「魚類で光るグループは約1500種が確認されており、進化の歴史でおよそ27回独立に発光する能力を獲得したといわれています。うち17回はバクテリアと共生することで発光できるようになった。たとえばチョウチンアンコウは、チョウチンにあたる背びれの一部が発光器となっており、ここに発光バクテリアを共生させて光っています。 それ以外はバクテリアに依存せずに自力で光るグループですが、ルシフェラーゼ遺伝子を持っていることがわかっている魚は、当時はいませんでした。ただ、キンメモドキについては興味深い先行研究がありました。先ほど紹介した下村脩博士と羽根田弥太(はねだ・やた)博士(元 横須賀市自然・人文博物館館長)が1961年に発表した論文で、「キンメモドキは餌として食べたウミホタルのルシフェリンを使って光る」というものです。甲殻類と魚類で同じルシフェリンを使っているというユニークな発見なのに、その後の報告はありません。いったいどんなルシフェラーゼを使っているのか? 半世紀手つかずの謎を解き明かしたいと思いチャレンジしました」

キンメモドキのルシフェラーゼはトガリウミホタルのルシフェラーゼと同一!?

まず、200匹のキンメモドキから抽出したルシフェラーゼを精製して、タンパク質の配列情報をデータベースで調べた。すると意外なことに、キンメモドキのルシフェラーゼはトガリウミホタルのルシフェラーゼと同一の構造であることがわかった。しかし、そのルシフェラーゼをつくりだす遺伝子をキンメモドキは持っていない。

「ルシフェリンは餌から取り込めるので同一であっても不思議じゃないんです。でも、ルシフェラーゼが同じというのは、これまでの常識ではありえない。ルシフェラーゼは酵素であり、タンパク質でできていてかなり大きな分子です。いったいどうやって細胞膜を通り抜けているのか想像がつきません。そもそもキンメモドキとウミホタルは違う生き物ですし、食べたものはタンパク質なので普通は消化されてしまいますから、同じ酵素を使っているなんて信じられませんでした。そこで、『キンメモドキは、食べたルシフェラーゼタンパク質を分解せずに、機能を保ったまま発光器に蓄積している』という仮説を立てて、検証することにしたのです」

まず、発光色のスペクトルを分析したところ、ほとんど一致していることがわかった。

次に酵素活性(化学反応を助けるはたらき)の強さを調べたところ、酵素活性は腸や筋肉にはなく、発光器にしかないこと、そして、抗原抗体反応を利用して抗原タンパク質の有無を検出する「ウェスタンブロット」と呼ばれる実験手法によって、発光器にのみルシフェラーゼがあることを確認した。
「キンメモドキのルシフェラーゼとトガリウミホタルのルシフェラーゼが同じものであることは疑いようのない事実だったのです」

発光器の内部が緑色に光り、ルシフェラーゼがあることがわかる。「幽門垂(ゆうもんすい)」とは胃と腸の境界部から突き出た袋状の消化器官で、ヒトの腸のような働きをする。

盗タンパク質の発見

本当にキンメモドキはトガリウミホタルを食べることによって、ルシフェラーゼを獲得しているのだろうか? これを調べるために別所先生が取り組んだのが、餌を使ったルシフェラーゼの取り込み実験ドキ。

水族館に協力してもらい、野生のキンメモドキにアミエビなどの光らない生き物を餌として与えて飼育すると、次第に発光器に蓄えられているルシフェラーゼの量が減ってきて、1年もするとルシフェラーゼの酵素活性が1%以下にまで減り、光らなくなることがわかった。
このルシフェラーゼがなくなったキンメモドキに、今度は光る生き物であるウミホタルを餌として与えたところ、再びルシフェラーゼが蓄積されて光るようになった。

野生のキンメモドキが発光器にもつルシフェラーゼ活性の平均を100%とする (1週)と、長期間の飼育にともない活性が低下していった。1年間が経過し、ルシフェラーゼ活性が低下した個体にウミホタルを投与すると、ルシフェラーゼ活性が回復した。

ここで工夫したのは、長期飼育後に与えた餌を野生のキンメモドキが通常食べている浮遊性のウミホタルとは異なる種のウミホタルに変更したということ。その後、キンメモドキのルシフェラーゼの構造(ペプチド配列)を調べたところ、新たに与えた餌のウミホタル由来のルシフェラーを取り込んでいることが明らかになったドキ!

1年間飼育後のルシフェラーゼ取り込み実験に使ったキンメモドキからルシフェラーゼを抽出してペプチド配列を調べた。トガリウミホタルとウミホタルのタンパク質のうち、ルシフェラーゼのペプチドが検出された領域をマッピングしたのがこの図。白は共通のペプチド配列で、黄緑がウミホタルに特異的な配列。餌由来のルシフェラーゼを取り込んでいるという仮説が実証された。

「こうしてキンメモドキが、餌の生物が持っているタンパク質の機能を保ったまま利用していることを証明できました。ある生物が持っている特殊な能力を、それを食べることでそのまま獲得するというのは、発光に限らず、ほかの生命現象を含めて世界で初めての発見です。別の生物のタンパク質を盗んで使っているということで、これを『盗タンパク質』現象と名づけて発表しました。反響は大きかったですね」

将来、摂取したタンパク質を壊さずに体に取り込み、その機能を利用できるようになれば、タンパク質で薬をつくって体内のねらった部位に運んで効果を発揮させる「ドラッグデリバリー」に応用できるようになるかもしれないんだって。すごいドキ!

モントレー湾水族館研究所に留学

別所先生が盗タンパク質の論文を発表したのは2020年1月のこと。しかし、研究は決して順調だったわけではない。
「先ほどお話ししたように、キンメモドキには研究を始めた当初から注目していました。でも難題がいろいろあったのです」

まず、キンメモドキは非常に飼育がむずかしい。水槽に移したとたん暴れ回って壁に衝突したり、ストレスにも弱く、すぐに餌を食べなくなったりする。最初のころは、飼育を始めて1週間以内に半数が死んでしまう状態だった。また、キンメモドキの生息数が激減しており、簡単に入手できなくなっていた。
「やむなく、学位はホタルの研究で取りました。はじめは、キンメモドキの研究のかたわらホタルの研究をしていたのが、いつの間にか逆転してしまいました。その後、中部大学に移られた大場先生のもとで半年間ポスドク(博士研究員)をし、キンメモドキの研究データをコツコツと蓄積しましたが、2018年からの留学にともない論文執筆も遅れ、論文として発表するまでには研究を始めてから10年かかりまました」

留学先は、アメリカのモントレー湾水族館研究所、通称MBARIドキ。MBARIは、海洋研究に特化した世界トップクラスの研究所。発光生物の進化を研究するには、深海をはじめさまざまな海の生き物を研究する必要があると考えて選んだそうだ。

MBARIでは海洋探査船に乗り研究調査にも出かけた。研究者とエンジニア、乗組員の総勢30名弱で太平洋のカリフォルニア沖を2週間ぐらいまわり、巨大な網で海中の生物を捕ったり、ROV(Remotely Operated Vehicle遠隔操作船)でモニターしながら、ねらった個体を採集する。
「ROVは光がほとんど届かない深海を航行します。暗い宇宙をずっと進む様子をイメージしてもらうといいでしょう。マリンスノーが画面の向こうから迫ってくる映像は、ちょうど銀河の中を進んでいく感じです。泳ぎが緩慢な生物や、運良く寝ている魚などを見つけることができれば、サクションサンプラー(海水ごとサンプル瓶に吸い取る方法)を遠隔で操作して捕まえます。実際、生物発光は活きが良い状態でなければ見ることができません。なので、岩石をも砕くロボットアームを使うと、たいていの生物はそこで死んでしまいます。そこで、たとえば海底のサンゴやナマコなどを捕まえるときは、アームの先に台所用スポンジをしばりつけておいて、生物が傷つかないようにキャッチするんです」

また「この発光生物を研究したい」と考えていても、海洋調査で出会えるかどうかは運次第。留学中に別所先生が参加した調査では、光るサンゴやナマコが多数捕れたという。これらの生物についても発光に関係する遺伝子や分子についてはほとんど報告されていなかったが、浅瀬に住む発光サンゴのウミシイタケと共通したメカニズムで発光することがわかったという。

セレンテラジンを生合成するクシクラゲを発見

帰国後の2020年12月に別所先生が発表したのが、ルシフェリンの一つである「セレンテラジン」を生合成するクシクラゲを発見したという論文だ。

先ほど発光生物は進化の過程で発光能力を独立に進化させたので、ルシフェリンとルシフェラーゼの構造は生き物によって異なると紹介したけれど、海洋生物のサンゴやイカ、魚など9つの門に属する20以上の動物群は「セレンテラジン」と呼ばれる同じ構造のルシフェリンを使っている。

セレンテラジンは、もともと下村脩博士が発見したオワンクラゲの発光タンパク質である「イクオリン」の発光物質として部分構造が見つかっていて、その後ウミシイタケのルシフェリンであることがわかったもの。ところが、なんと…オワンクラゲはセレンテラジンを自力で合成できないのだ! 実際、水族館でセレンテラジンを含んでいない餌を与えられたオワンクラゲは、次第に発光能力を失っていくことが報告されている。オワンクラゲはセレンテラジンを餌から獲得しているらしい。セレンテラジンを使って発光する他の多くの発光生物も、同様に餌からセレンテラジンを取り込んでいることがわかってきた。では、いったい誰が最初にセレンテラジンをつくりだしたんだろう?

この謎に迫るにあたって別所先生たちが注目したのが、有櫛動物門のクシクラゲだった。有櫛動物門に属する190種類の生物のほとんどが発光する。はたしてクシクラゲはセレンテラジンをつくりだせるだろうか?

ラッキーなことに、MBARIの姉妹機関であるモントレー湾水族館で多数のクシクラゲを飼育しており、いずれもセレンテラジンが含まれていない餌で飼育されていることがわかった。

そこで水族館からクシクラゲの仲間のキタカブトクラゲと餌を提供してもらい研究を重ねたところ、卵の段階で光ること、成長後や3代目になっても発光を続けること、そして体内からセレンテラジンが検出されることが確認できた。

「深海調査でご一緒したことのあるマイアミ大学のウィリアム・ブラウン博士は、ムネミオプシス・レイディというクシクラゲの飼育を15世代にわたり続けていました。博士も飼育にあたってセレンテラジンが含まれていない餌を与えていました。博士からムネミオプシス・レイディをお借りし、暗所で光らせたところ、15世代経っていても発光能力が保持されていることがわかりました」

暗闇で光を放つムネミオプシス・レイディ。
(撮影:左、ウィリアム・ブラウン博士、マイアミ大学。右、別所上原先生)

つまり、キタカブトクラゲもムネミオプシス・レイディも、
セレンテラジンを生合成できるってわけドキ!!!
発光生物の進化研究のおもしろさとは

バラバラに進化してきた複数の系統に共通の普遍的な能力獲得があることを「収斂(しゅうれん)進化」という。発光能力を持たなかったクシクラゲや甲殻類の先祖が、それぞれ独立してセレンテラジンという同一の分子を使って光る能力を身につけたことも収斂進化だ。

「収斂進化の代表としては、鳥類、コウモリ、プテラノドンなどの翼竜が翼を獲得した例が有名です。でもその進化の謎や翼を獲得したメカニズムなどを探究するには、一人の研究者の人生がいくつあっても足りません。その点、発光については、ルシフェリンとルシフェラーゼというたった2つの分子の進化で説明がつき、これを追うことで収斂進化が説明できます。発光生物の進化研究のおもしろさは、そこにありますね」

キンメモドキが「盗タンパク質」によって光る機能を獲得したという現象も新しい収斂進化ドキ。別所先生は、こうした「盗みによる進化」のメカニズムや、それがどのように生まれ、どのように発達してきたのかを、さまざまな系統を調べて明らかにしたいと考えている。
「タンパク質ではありませんが、巻貝の仲間のウミウシの一種が餌として食べた藻類から光合成をするための葉緑体を盗むという『盗葉緑体』現象や、別のウミウシの種ではミノという背中の突起に、餌のクラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物が持っている「刺胞」という武器細胞を取り込む『盗刺胞』現象など、機能を盗む生物はいくつか知られています。盗葉緑体をもつウミウシを研究する前田太郎博士(現 慶應義塾大学 先端生命科学研究所特任助教)をはじめとする研究者と、餌から機能を盗む生物たちについて協力して研究を進めています。いろんな生き物の不思議や進化の謎解きはわくわくしますね!」

思い立ったら誰でも変わることができる

発光のしくみを使った応用研究や医学研究については数多くの研究者がいるが、発光生物の進化や発光生物の生態といった基礎生物学から発光生物を研究する人は世界でも100人足らずという。

「学術的な価値はあるけれど、他の人があまりやらないユニークな着眼点で、それまで誰も気づいていなかったことを明らかにするような研究が性に合っているんです」

そう語る別所先生は、さぞかし小さいときから生き物が大好きだったのでは?と思って聞いてみると、なんとホタルの研究を始めるまでは虫にもさわれなかったのだという!

「中高校生時代は、夢中で取り組んでいることもなく、漠然と過ごしていた感じですね。でも大場先生のところでウミホタルが光っているところを見て、好奇心に火が付きました。そういう意味では、中高校生時代にとくに将来が決まっていなくても、思い立ったら誰でも変われるということは強調したいですね」

進化の研究がしたいと考え始めた学部時代は、何が役に立つかわからないので取れる授業は全部取って、図書館に通い、文化の話から宇宙の話までいろんな分野の本を読み漁ったそうだ。

「興味のない分野も含めて読んだことが、意外にいまの研究に結びついたり、自分のアイデンティティをつくる糧になったりしました。だからみなさんも焦らずに、いろんなことを吸収してほしいですね」

発光生物に興味を持った人にオススメ

別所先生に、発光生物に興味を持った人にオススメの本を教えてもらったドキ。

大場裕一/総監修
『光る生き物』

(学研の図鑑LITE:学研プラス 2015年10月刊)

200種以上の幅広い分類群の発光生物がカラーで掲載されている。値段も手頃。付属のDVDで実際の動画も見ることができる。

下村脩/著
『クラゲに学ぶ-ノーベル賞への道』

(長崎文献社 2010年11月刊)

「役に立つとは思っていなかった」クラゲの蛍光タンパク質の発見からノーベル賞を受賞した下村脩博士の人生を追いながら、世紀の発見へつながる物語。

大場裕一/著
『恐竜はホタルを見たか-発光生物が照らす進化の謎』

(岩波科学ライブラリー:岩波書店 2016年5月刊)

昆虫、キノコ、魚など、地球上には数万種もの発光生物がいる。生物はいつ、どうやって光る能力を手に入れたのか。光を使った生存戦略とは? 発光生物について最先端の研究に、生物の進化という視点から切り込んだ一冊。

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  • ◎下村脩博士の研究と蛍光タンパク質を使ったバイオイメージング研究については
    ■いま注目の最先端研究・技術探検!
    第14回 蛍光タンパク質を使って、生きた細胞の活動をリアルタイムに観察

    https://www.terumozaidan.or.jp/labo/technology/14/index.html

(取材・文:「生命科学DOKIDOKI研究室」編集 高城佐知子)

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