中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

地底に広がる多様な微生物の世界

それまで日本では“地底”の生物に目を向ける人がほとんどいなかった。「サイエンスとして地底を調べる価値がある」と納得してもらうために、長沼先生は、欧米の研究機関の動向について調べたり、日本で国際シンポジウムを開催するなどして、地底探査の機運を高めていった。2005年にJAMSTECが、海底や地底などに広がる生命圏の探査を行う地球深部探査船 「ちきゅう」を竣工させ、ようやくわが国でも地底生物調査への本格的な取り組みがスタートした。
「地下の世界には、ものすごく多くの生命、微生物が生息しているんです。地下生物圏の研究はまだ30年くらいしかたっていませんが、これまでの収集されたデータによると、地下生物圏のバイオマス(生物量)は、陸上や海洋などの生物量を超えるらしい。私たちが知っている世界よりはるかに大きな世界が地下に広がっているんです!」

バイオマスの量
生物量〔総体重〕 陸上と海洋 地下生物圏
植物 1~2兆トン 0
動物
(人間)
<100億トン
(3億トン)
0
(0)
微生物 3000億トン 3~5兆トン

地下にすむ生物は、どんな存在なのだろうか。
「SFの世界では、地底の生物といっても酸素を吸っていて、地上の世界が地底に代わっただけのパラレルワールドです。しかし、実際の地下の生物圏は、光のない暗黒の世界であり、暗黒の地底では光合成ができないため、ここにすむ微生物たちは当然のことながら酸素呼吸はできません」
酸素の代わりに硫酸、硝酸、鉄、二酸化炭素、ウランなどの物質を利用して呼吸をしているのだ。

イラスト図

「最近、熱帯雨林などの生物多様性が話題になっていますが、私に言わせれば、酸素の代わりに硫酸などさまざまな物質を使って呼吸をする地下生物は、本当の意味で生物多様性を実現しています。呼吸の多様性は驚くばかりです。呼吸というのは生命の根源的な働きですから、太陽に依存した光合成を通してではなく、惑星自身に由来する地下のさまざまな物質を使って地下生物が呼吸するとしたら、それは地球の地下生物だけでなく、地球以外の天体の生命にも通じるものだと思うのです」
こうして長沼先生の「辺境生物」研究は、宇宙の生物の探求へと進んでいく。

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