フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第10回 将来の再生医療に役立たせるために 東京工業大学フロンティア研究機構 赤池敏宏教授インタビュー ES細胞やiPS細胞を高品質で大量に培養、分化制御する技術を開発!

インターナショナルな感覚を大切に、新しいことにチャレンジを

───赤池先生が研究者になったのはどうしたいきさつからですか。

私は、1970年前後に、大学の工学部で高分子合成化学を専攻していました。いまの若い人には理解できないでしょうが、当時、大学では大学や社会を改革しようとする学生運動が盛んな時代で、私もそうした運動に積極的に参加した一人でした。そんなことをしている間に、気がつくと研究分野では仲間からずいぶんと遅れてしまっていました。
それでもなんとかドクターコースを終えることができたのですが、自分の研究が中途半端なままで、なにか不完全燃焼という気持ちが強かったんです。このまま社会に出ても勝負にならない、なにかもっと全力を傾けられるものはないか探していたんです。
そうしたところ、大学の恩師が東京女子医大で工学系の助手を探しているから行ってみたらどうかといわれたんです。

───先生は工学部なのに、なぜ医学系の大学から誘いがあったんですか。

当時、東京女子医大では、高名な心臓外科医の先生がいたり、人工心臓の研究を行っていたり、先進的な研究に取り組んでいました。犬に人工心臓を埋め込む研究や、コラーゲンというタンパク質を医用材料として体内に埋め込む実験などもやっていたんです。こうした研究には、医学の知識はもちろんですが、工学系の知識も必要になる。私の友人たちも誘われたようようだけれど、医科大学でまともな高分子化学の研究ができるとは思わなかったようですが、私は好奇心旺盛なものだから、あえて飛び込んだ(笑)

───それなら医学系の勉強もかなり必要になったのではないですか。

ええ、でも医学もやってみるととてもおもしろい。最初の1年間は何をやってもよろしいというので、図書館に通いつめました。私は医学の知識がほとんどなかったけれど、それがかえってよかったのかもしれない。砂地が水を吸うように知識を吸収することができたんです。

───医学と工学の両方を勉強し研究したことが、現在の研究に大変役立っているということですね。

そうですね。再生医療はいまや単なる生物学や発生生物学や応用臨床医学の問題だけではなく、化学や工学を研究する人たちが頑張らなければいけないところに差しかかっていると思いますよ。

───生命科学分野やバイオマテリアルなどの研究にこれから取り組みたいと考えている若い人にメッセージをいただけますか。

まず、どんな分野に進む人であれ、こう申し上げたい。「紆余曲折は青春の特権なのだ」と。現在という時間を一生懸命生きれば、いろいろ失敗もあるかもしれない、でもいろいろな経験を積むことは、たとえ失敗してもマイナスになることはありません。クラブ活動でも何でも新しいことにチャレンジして、新しい情報を得てください。
それから、いまはインターナショナルな経験を大切にしてほしい。世界と交わればいろいろな考えや文化が見えてきます。違った環境に育った人からは、自分が持っていない発想が得られるものです。
最後に、バイオマテリアル野研究を志す諸君には、こう言いたい。「若者よ、バイオマテリアル変革期をたくましく、オリジナルに生き抜け!」と(笑)。

(2011年3月公開)

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