マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第9話 音で“見る”世界
コウモリって見たことある? 哺乳類だけど空を飛べるんだ。夜行性のコウモリの多くは、「エコーロケーション」と呼ばれる“音で見る”能力を使って、暗闇の中でも仲間とぶつかることなく自在に飛び回ることができる。コウモリのこの能力を応用すれば、自動運転のクルマが衝突を避ける技術のヒントになるかも♪
ある日のこと… うわ~っ どうしよう 停電だ! 懐中電灯… これかしら? イタタタ カシコちゃん それはぼくの 耳だよぉ~ 真っ暗で 何も見えないよ~! いつになったら 回復するの かしら…… キャッ! いたた…… コウモリみたいに 暗闇でも ぶつからずに 動けたらいいのに… ええ~ 真っ暗で見えないのに その場所のようすがわかる 生き物がいるの⁉ いったいどうやって⁉
というわけで コウモリがどうやって 暗闇でぶつからずに 飛んでいるのかを 知るため… コウモリの研究を しているという先生に 会いに来ました~! こんにちは! 私たちの研究室では コウモリがどんな 生物であるかということ 飛龍 志津子 先生 ひりゅう しづこ 同志社大学 生命医科学部医情報学科 教授 まずは コウモリという 生物についてですね コウモリは 翼をもち飛ぶ 唯一の哺乳類です えっっ 鳥じゃない のぉ~!? コウモリは世界に 1300-1400種類くらい いると言われていて… そのうち日本には 30種類くらいが 生息しています
私たちの研究では 暗闇で行動する この3種類について 調べていますv 頭胴長(とうどうちょう):動物(特に哺乳類)の体長のうち、尻尾を含まない(頭から胴までの)長さを指す語。尻尾を含めた体長は「全長」と呼ばれる。 アブラコウモリ 頭胴長4~6㎝ 日本全国に生息し、道路や線路の高架、 家屋をすみかとすることが多い。 キクガシラコウモリ 頭胴長5~8㎝ ユーラシア大陸の南部から日本にかけて 幅広く分布し主に洞窟をすみかとする。 鼻のひだが菊の花に似ていることから 名付けられた。 ユビナガコウモリ 頭胴長6~7cm 南アジアから日本にかけて分布し 洞窟に大規模な群れをなして生息する。 翼を構成する指の骨が非常に長い。 コウモリたちが住んでいる 実際の場所に行って 野生の姿を観察するほか 研究室内で飼育して 実験を行っています!
真っ暗な中で 暮らしている コウモリは 光でものを見ることが できません そのかわり 「音」で 周囲のようすを とらえています 音でまわりを… どうやって!? コウモリが出す 「音」は私たちが 聞いているものより ずいぶん 高い音で ヒトの耳では 聞こえません 僕たちには 聞こえないけど 鳴いているん ですね… コウモリはその 「超音波」という音を出して はね返ってきた 音を 聴いています そのとき どんな高さの音が 聴こえるかで よし大丈夫だ まわりには 何もないぞ とか 壁との距離や 他のコウモリが 近くてぶつかりそう! ということを 感じ取っています
みなさんは山に登って 「お~い」と叫んで みたことがありますか 自分の声が 周囲の山々からはね返り 「お~い」という声が 聴こえる「やまびこ」 という現象が起きます このとき 近くの山から届く声と 遠くの山から届く声には 時間差が生じます コウモリたちも これを利用していて 反射で聴こえる音が 早く聴こえるなら あっ!近くに何か あるんだな 遅く聴こえるなら 遠くにあるんだなと 自分と周囲との 位置関係を確かめて いるようです イルカも 同じしくみを利用して 超音波で「もの」との 位置関係をとらえている と言われています 反響する音で 位置を知ること…… これを 「エコーロケーション」 と言います
研究をしていて 興味深かったのは 洞窟や夜の屋外で 大量に飛び交う コウモリたちが… あんなにたくさんいて それぞれが超音波を出して 自分と周囲の位置を 知ろうとしているとき 自分の声なのか? 他のコウモリの声なのか? を間違わずにちゃんと 聴き分けているようだ… ということが わかったことです ええっ…? 自分の声って どうやって わかるんだ? 私だったら ぜったい まちがって しまいそう! ドキドキ する~! 実験で コウモリが出す音を 測定してみたところ 他のコウモリが鳴き始めたら 「ちょっとだけ」 違う高さの音で鳴くよう 全員が調整していることが わかりました へえ… そんな細かいことを しているんですね
もうひとつ 興味深かった ことは 超音波をつかって 物の形を知るって どういうこと? という疑問を持ち 調べていたときの ことです たとえば 立体物が置いてあるとき 光で見ようとすると その「こちらがわ」と 「キワ」の部分だけしか 見ることができません こういう形だな でも反響音で調べるときは 音の波が持つ 「回り込み」の 性質によって その「むこうがわ」まで届いた 音の波が こちらにはね返って来るので 「むこうがわ」の形まで 知ることができます こういう形だな 暗闇の中で生きていて 目が見えないなんて 大変じゃない? と思うかもしれませんが もしかしたら コウモリたちは 私たちが思っている以上に 多くの情報を受け取って いるかもしれませんよ!
こんなにすごくて 便利な能力が 私たち人間にも あったらいいのに! インターネットで 見たことがありますが ヒトでもまれに この能力を持つ人が いるみたいですよ! ええ~ ホント ですか!? ドキドキ する~! 機械や装置の力を借りれば もっと実現しやすく なるかもしれないですね! このように 生物がもつ特性をまねして 世の中に役だつ技術として 利用することを 「バイオミメティクス」 といいます コウモリがもつ エコーロケーションの能力が これからのドローンや クルマの自動運転の制御に 役立ったらいいな…と 思いますね! 私たちの研究室でも ロボットにコウモリの 真似をさせて うまく動かすという 実験をしています
「コウモリの研究」 と言っても いろいろな かかわり方が あります! ロボット工学 数学、数理モデル 脳科学 心理学 データサイエンス 飼育・観察 音響学 センシング そのための デバイス作り 電子工学 行動学 分類学 生態学 一人で全部を やることは できません だから みんなで協力して 研究を進めて いるんですよ! できないことが あっても大丈夫… 得意なことを 伸ばしていきましょう!
今回の調査では 音で「見る」能力を持つコウモリのことを調べた。 コウモリたちはヒトには聞こえない高い音「超音波」を発して、 それが物に当たってはね返ってくる音の高さを聴き、 自分との距離をとらえているらしい。 音は波の性質をもっていて その波が物の向こう側に回り込み、 それをとらえることができれば、 目では見えない「向こう側」の形も 知ることができるようだ。 最初は、目が見えないなんて 大変そう!と思っていたけれど コウモリたちは 超音波で「見る」ことで 意外と多くの情報を受け取って いるのかもしれない…… 目で見るだけが 「見る」じゃない ということを 知ったね…… 動物たちの すごい能力から 学ぶことがたくさん あるね! ドキドキ する~! 今回も DOKIDOKI星への レポート送信完了!
(全10ページ)
お話をうかがった先生
飛龍 志津子
(ひりゅう・しづこ)
同志社大学 生命医科学部 医情報学科 脳神経行動工学研究室 教授
同志社女子中学・高等学校卒業。1997年同志社大学工学部電子工学科卒業。99年3月同大学院 工学研究科修士課程修了後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。大型コンピューターの電源システム等の開発に携わる。5年目の2003年4月、会社の国内留学制度を利用して同志社大学大学院工学研究科博士後期課程に入り、コウモリの生物ソナーに関する研究を始める。06年博士号取得(工学)。12年同志社大学 生命医科学部准教授、14-18年JSTさきがけ「社会と調和した情報基盤技術の構築」研究員、17年より現職。
13年文部科学大臣表彰若手科学者賞、18年日本学術振興会賞をはじめ受賞多数。専門は生物音響工学。コウモリの生態学から工学応用に関する研究、さらには、コウモリのエコーロケーションを神経活動と行動の両面から解明する研究に取り組んでいる。