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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊

第12話 家畜化マウス

家畜動物は人懐っこくておとなしい。そうした家畜動物がどのようにつくられたのか、疑問を持ったことはないかな? 国立遺伝学研究所の小出剛先生は、野生のマウスから「従順性」に優れるものを選んで何世代にもわたって交配し、「家畜化」することに成功。遺伝子の解析や行動テスト、遺伝子発現の調査などさまざまなアプローチによって、従順なマウスへと行動が変化したメカニズムを探っている。そもそも先生が家畜化マウスをつくろうと考えたのはなぜ? 現在どこまで謎が解明できたのだろう?

動物って かわいいね! うちにも ペットが いたらなぁ~! イヌとかネコとか… 私は飼うなら ニワトリが いいわ! タマゴが とれるかも しれないし おうちで 一緒に住むの? ドキドキする~ ええ~!? そういうのは ムリだよ~! どうして ダメなの? 「飼える動物」と 「飼えない動物」が いるってこと? 何が違うの? たしかに そうねぇ? 「飼える」って 何なんだろう? 調べてみよう!

飼うことができる動物と できない動物というのは たしかにありますね! そこにどんな違いが あるのか? いい疑問ですね! 小出 剛 (こいで つよし)先生 国立遺伝学研究所 マウス開発研究室 准教授 気になる~! ヒトが 生活に役立つように 野生動物だったものを 慣れさせて飼い養い 繁殖させてふやし 品種改良した動物を 「家畜」 と呼んでいます! 家畜化されている 動物はいろいろ いるんですが 共通点をあげると こんな感じですね 1・ヒトにとってメリットがある   乳、肉、卵、毛、皮、毛皮、   労働力などをヒトが利用できる   かわいい・癒し効果がある 2・経済的にみあう 3・飼育しやすく簡単に繁殖できる 4・攻撃性が低い 5・従順性がある この中でも特に 従順性があることは 重要です!

いま 家畜となっている動物も 最初は野生の生き物 だったはずです もっとも古い家畜は イヌだったと言われ 数万年以上前から 飼われていると 言われています 長い歴史の中で ヒトと共存できるように 飼い慣らして変えていき 定着させたのだろうと 思われます しかし実際に イヌがどうやって ヒトと共生できるように なっていったのか? そのしくみについて 進化遺伝学や考古学 人類学など さまざまな分野で研究が 進められてきましたが 私達にとって 身近な存在である イヌのことさえ まだよくわかっていない という感じです

30年ほど前…… どんなテーマに取り組んで いこうかと考えて 動物の行動遺伝学を 研究しようと思いました 毎日の仕事で マウスと関わる ことになり…… そのとき 実験用のマウスは ネズミなのに すごくおとなしくて 扱いやすい! ということに 気が付きました 手で捕まえて 必要な処置をして 戻す… これが当たり前に できるんです 野生の ネズミでは こうはいかない でしょう? 逃げたり 暴れたり しそうです かまれて しまうかも… ドキドキ

実験で用いられている マウスは20世紀はじめに 当時飼育されていた ペット用マウスから つくられました 実験用のマウスと 野生のネズミの 行動や性格の違いは どこからくるもの だろうか いったい どうやってこれを 変化させるのか!? 遺伝子の どこか特定の部分に 行動に関係する カギがあるのでは… これを 知りたいと思い 研究を始めました しかしこれは ひとつふたつの遺伝子の 違いで決まるのではなく もっと複雑なもので あるようだ……と わかってきました

実際に 野生のキツネを飼育して ヒトに慣れている キツネだけを選択して 交配して家畜化する という試みがあり 1950年代から 交配を繰り返すことで 「ヒトになつくキツネ」 をつくったという ロシアの科学者による 実験の例があります このキツネの家畜化を 参考にして実験することで 遺伝的なしくみの解明に 近づけるのでは…と考え 私たちの研究グループでも マウスを交配して 組み合わせを調べて 積極的にヒトの手に 近づいてくるマウスを 実際につくることに 成功しました かわいい~! わぁ~ ドキドキ する~

このマウスは こうして手を 差し出すと… ネズミなのに 逃げない…… それどころか 近寄ってくる!! 従順性は 「受動的従順性」と 「能動的従順性」に 分けられます 実験用のマウスは さわられても ガマンするという 「受動的従順性」は あるのですが 積極的にヒトに 近づいていくという 「能動的従順性」は ありません …… 近づく このマウスは 8種類の野生のネズミ 全部の組み合わせを 考えて交配させ…… 高い能動的従順性の ある個体を選んで さらに交配させて つくりました すると 10世代もしないうちに 人に近づいていくような 行動をするように なったんですよ

行動から調べたり 遺伝から調べたり 脳や神経回路の しくみが関係して いるのではないか …など 他の研究者とともに いろいろな方法で 家畜化のメカニズムを 調べていますが まだまだスッキリした 答えが見つかって いません いま私たちが アフリカのガーナ大学 などと協力して 取り組んでいるのが グラスカッターの 家畜化です グラスカッターは 食用肉として とても美味しく 現地では高値で 取引されていますが 野生の グラスカッターは ヒトへの病気感染や 捕獲の際の 森林消失などが 問題になっています 品種改良で おとなしく育てやすい グラスカッターを つくることができれば より安全な食料となり 現地での環境破壊を防ぐことに つながると期待しています 家畜化できたら みんながラクに なりますね

先生は どうして家畜化の 研究をしようと 思われたんですか? 学生の時は ヒトの遺伝病の研究を していました 博士になったあと イギリスの ケンブリッジ大学へ… そして現在いる 国立遺伝学研究所に来て 定年まで30年でできそうな テーマは何かと考えて 行動遺伝学の研究を始めました それから 25年ほどが経ち… やってみたけれど 時間が足りなかった という感じです もっと自分で 明らかにできるかと 思っていましたが… 30年前に戻れるとしたら あともう一回 やりたいくらいです 野生動物が どういうメガニズムで 家畜化されて 行動が変わっていくのか まだまだ謎が残っています この漫画を読んでいる みなさんの中から このテーマの研究をする人が 現れるといいなと思います!

ヒトの役に立つように慣れさせて 品種改良した動物を「家畜」って言うんだって! 特に大事なポイントは「従順であること」なんだって! すぐに逃げたりかみついたりしてきたら困るもんね。 小出先生たちの研究グループでは ヒトに慣れているマウスだけを選んで交配して 積極的にヒトの手に近づいてくるマウスを つくることに成功している! 野生のネズミとの違いに驚かされた! ヒトになつく性質を決める遺伝子をさがすのは とても難しいらしい。 まだまだ研究のしがいがありそうだ。 マウスが手に 寄ってくるなんて ビックリしたね! フワフワで ドキドキ したよ~! 私は 今日のお話 スッキリした答えが すぐに出ないと 思いながらも 長い間粘り強く研究を 続けているのが すごいと思った! そのうち どんな動物も自在に 家畜化できるように なるのかな~? ドッキンレポートを 送信して 今回の調査…終了! ―――ここまで

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(全10ページ)

お話をうかがった先生

小出 剛
(こいで・つよし)

国立遺伝学研究所 マウス開発研究室 准教授

愛媛県立宇和高等学校卒業後、愛媛大学理学部入学。1990年大阪大学大学院医学研究科生理学専攻 博士課程修了。学術振興会特別研究員(国立遺伝学研究所所属)、ケンブリッジ大学研究員などを経て、95年国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 哺乳動物遺伝研究室(現マウス開発研究室)助手。2002年10月より助(准)教授。『行動遺伝学入門 動物とヒトの“こころ”の科学』『個性は遺伝子で決まるのか 行動遺伝学からわかってきたこと』など著書多数。

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