マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第23話 なぜヘビはこわい?
ヘビが嫌いな人が多いのは、ヘビは足がなくて、ヌメヌメしていてズルズル動くからだと思いこんでいたら、なんとウロコの形状がポイントなんだって! ヘビを見たことがないサルでもすばやくヘビを見つけ出す。これは進化の過程で、大昔から天敵であったヘビの脅威に対抗するために、霊長類の祖先が視覚認知機能を発達させたためらしい。どんなアプローチで研究を進めたのか、こわさを感じるメカニズムとは? 名古屋大学の川合伸幸先生に詳しくうかがったよ。

キャンプの 夜…… ヘビ!! ヘビが 出た!! こわい! きゃ~! えっ これがヘビ!? 初めて見るのに なぜかこわい…! え~? ヘビって カワイイじゃない? なんでこわいの? ひぃ~ ヘビをこわいと 感じる人と そうでない人が いるのは なぜだろう!?

名古屋大学名古屋大学大学院 情報学研究科 教授 川合伸幸 先生 何かを見て「こわい」と感じるのはなぜでしょう? とくに ヘビをこわいと 感じる人が多いのは なぜでしょうか? 私たちは大学で このしくみについて 研究しています! え~と… ヘビの どんなところが こわいかと言うと ニョロニョロ ウネウネしてる ところが… かみつかれ そうだし… ヌメヌメ してそうな ところ… 動きが速いのも かなり… うわ~!

ヘビのいったい どんなところが こわいのか!? 確かめたいことが あるときはまず 「これが原因じゃないか」 と仮説を立てます そして それを確かめるには どんな実験をしたら いいのかを考えます 「霊長類はヘビの恐怖に 対抗するために 脳を進化させた」という リン・イズベル博士の 「ヘビ検出理論」が すでに発表されていました 私たちもこれを 確かめようと考えて ヘビやクモ 花の写真を並べた中から ヒトがヘビに対して 特に速く反応するの ではないか? ……という 実験をしました これをやってみると やっぱり本当に ヘビはかなり速く 見つけられる ということが わかったんです

つぎに こわいのが生まれつきか どうかを調べるために ヘビを見たことがない サルでも調べたところ やっぱり 写真パネルの中から ものすごい速さで ヘビを見つけていました 生まれつきだとすると どんな部分を見て 「これはヘビだ!」と 見分けているんですか? はい 最初はヘビの 「色」だろうか? と思ったんです でも 白黒写真のヘビも すばやく見つけるので そうではないようです ヘビは ひし形のウロコで 体の表面が おおわれていて これが重要な 特徴ですよね この模様を検知して 「ヘビだ!」と気付いて いるのではないか? と考えて こんどはそれを確かめる実験をしました

写真を加工して 「ウロコ模様を消したヘビ」を見せたところ ヒトもサルもヘビを見つけるのが「遅く」なりました そして 本来はウロコがないのに 「ウロコ模様のあるイモリ」 の写真を見せた場合には 見つけるのが 「速く」なりました このことから 「ヒトとサルがヘビを すばやく見つける手がかりは やっぱりウロコ模様だった」 ということが証明できました! ヘビ柄が目立つ ように感じるのは 本能による反応 だったんですね! サルもヒトと おなじように反応した というのが興味深い ですよね これは私たちの 共通の祖先が 獲得していた 性質のようです

ヘビに反応する 脳のはたらきについても これまで多くの研究が なされています ものを見るとき 情報はまず 網膜から入ります 通常その信号は外側膝状体や一次視覚野などを通って 扁桃体に届く「遠回り」をしますが 上丘や視床枕を通って すばやく扁桃体に届く 「近道」をすることもあります この近道を通って扁桃体に信号が伝わると「こわい」と感じます 網膜 外側膝状体 一次視覚野 下側頭皮質 扁桃体 上丘 視床枕 視床 ヘビを見た情報は まずは近道を通って ものすごい速さで 「うわっヘビだ!」と伝わります。 こまかい部分を 判断するための情報は あとからやってきます 「ヘビだと思ったら ロープだった」 なんてことがよく ありますよね! この脳のしくみが生き延びるのに重要だったんだね これを調べた人すごいね…

統計データによると 世界では1年間に 約8万人から13万人が ヘビに咬まれて 死んでいるそうです 都会で暮らしていると ヘビを見ることは まずありません でも自然に近い 地域の人々は ヘビを警戒しながら 毎日を過ごしている でしょう ※WHOによる2023年の調査 「こわい」は私たちを 危険から遠ざけて 安全な場所に身を 置かせようとする大事な はたらきを担っています つまり「こわい」が わからないカシコさんは 「長生きできない」 かもしれないですね イヤ~! これからはちゃんと こわがることにするわ!

こういう研究って おもしろいですね! やってみたいです 「認知科学」は ヒトや動物が どういうしくみで 情報を処理して いるのかをとらえて 「知能」が どんな性質をもっていて どんなはたらきを するのかを調べます 認知科学の分野で 動物を用いた実験をする人はほとんどいません なかでもサルは 知能が高いので 協力してもらうのが 大変なんです 何かをお願いしても 応じてもらえないこともあるんですよ その難しさのため サルの行動実験をしているのは 国内では私だけになったかもしれません おサルさんとの信頼関係をつくるのが大事なんですね

どうやって 認知科学の研究に 出会ったんですか? 高校生のときは 哲学に興味があって 研究をしてみたいと 思ったのですが その分野では もういろいろな 研究がされていて 今から自分が行っても できることはない…と 感じていました そこで当時はまだ 100年ほどしか経っていなくて 研究分野としては比較的 新しかった「実験心理学」を やってみようかと思いました そこから 現在の研究へと つながっています 認知科学の分野では まだまだ新しい発見が たくさんできるでしょう! 「どんな実験をしたら 何がわかるのか」を しっかり考えて 実験をデザイン することが大事です

地球には「ヘビ」という ニョロニョロ長い生物がいて これを見るとなぜか「こわい」気持ちになった! 霊長類はヘビを目にすると瞬間的に気付く能力があるみたい。 これはサルもヒトも同じで共通の祖先から受け継いでいるんだって。 ヘビの「ウロコの形状」で「これはヘビだ!」と 見分けていることが実験で証明されたらしい。 「こわい」がわからないと 危険を避けるのが遅くなり 生存が難しくなるようだ。 「こわい」は大事なんだね! それにしても ヘビを見たことがない ドッキンがヘビを見て あんなに怖がったのは 何だったんだろうね? ね~!? ドキドキ! まだ子供のドッキンは 知らなかった じつはDOKIDOKI星にも ヘビがいて 大昔にはたくさんの祖先が 丸飲みにされていたと いうことを…
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お話をうかがった先生

川合 伸幸
(かわい・のぶゆき)
名古屋大学 大学院情報学研究科 心理・認知科学専攻 認知科学教授
1966年京都府生まれ。関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員、京都大学霊長類研究所研究員などを経て、2001年名古屋大学に。19年より現職。専攻は比較認知科学・認知科学・実験心理学。第1回文部科学大臣表彰・若手科学者賞、第6回日本学士院・学術奨励賞をはじめ受賞多数。主な著書に、『心の輪郭―比較認知科学から見た知性の進化』、『コワイの認知科学』、『ヒトの本性―なぜ殺し、なぜ助け合うのか』、『心と現実 私と世界をつなぐプロジェクションの認知科学』など著書多数。