マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第25話 電子皮膚
半導体というと、硬くて小さい電子部品を思い浮かべる人が多いだろう。ところがキッチンラップの10分の1ほどの薄さで、羽毛より軽く、柔軟に伸び縮みする電子回路がある。皮膚に貼り付ければ生体信号が計測できるし、脈拍などのデータを表示するディスプレイにもなる。こうした「電子皮膚」を開発したのが東京大学の染谷隆夫教授だ。最近では着るだけで医療レベルの心電図が取れるTシャツなど、医療応用も進んでいるという。電子皮膚の開発ストーリーをうかがったよ!
カシコちゃんどこか悪いの? 検査のために入院しているだけだよ 見てこれ!装置がたくさんつけられているのよ~! あっ! つけ直しますね 動くと外れるから検査が終わるまでじっとしていないといけなくて・・・ すみません・・・ いまはこうして機械とケーブルでつないでいるでしょう? でも未来の病院ではケーブルをつながずに体にピッタリくっつく皮膚みたいなセンサーが使えるようになるかもしれないんだって! 皮膚みたいなセンサー? 電子皮膚!! って何だ~!?
生物の体には弱い電気が流れているって聞いたことありますか? 心電図や筋電図はこの電気をとらえて測定しているものです 測定に使われる器具は「かたい材料」でできているものが多くて体に取りつけるとき不便だったり気をつけるべきことがたくさんあります そこで私たちは電気を流すことができて自由に形を変えられる「やわらかい材料」をつくって・・ 体の表面に貼りつける薄い電子シートをつくって「電子皮膚」という名をつけました! 今日はこれを使って生体情報を調べる「やわらかいセンサー」をつくっている・・・というお話をしますね! 染谷隆夫先生 東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
計測用のセンサーやコンピューターそしてさまざまな電気製品を動かすのに欠かせない「トランジスタ」という部品があります これは弱い電気信号を強めたり電気を通したり止めたりする「スイッチ」のようなはたらきをします その材料となるのが「半導体」です よく使われている半導体はシリコンからつくられています これはかたいので自由な形に加工しにくいという欠点がありました そこで登場したのが主に炭素と水素からつくられている「有機半導体」です これは曲げても叩いても壊れにくく伸び縮みする・・・ まさに求めていた「やわらかい半導体」です! 1980年代にはこれを使った「有機トランジスタ」の研究が世界中で」行われるようになりました 私も2001年ごろから研究を始めて・・・・最初は下敷きのようにしなるものをつくり改良を重ねて2007年にはゴムのように伸び縮みするシートをつくれるようになりました 大面積!
そして薄いシートに有機半導体を「印刷」して大面積で自由に曲げられる「有機トランジスタ」がつくれるようになり・・体にピッタリくっつく やわらかいセンサー「電子皮膚」が誕生しました! 「電子皮膚」を実際につけてもらうお試し用のシートがあります おふたりもつけてみますか? えっ!? ホンモノを つけられるんですか? ドキドキする~! 金でできている電子回路を薄い膜に印刷して皮膚の上に置いて水を霧吹きすると なんと、薄い膜が… わ~っ ピッタリくっついた! 肌に転写する「タトゥーシール」みたいな感じ!
これまではベッドに横たわりケーブルでつながれるので 限られた時間しか測定できませんでした カシコちゃんもそうしていたね 「電子皮膚」を貼るだけで使える測定器なら姿勢も気にせず自然なまま…長い時間測ることができます 眠っているときの体の状態なども継続的に調べられます! 普段の生活の中で体がどうなっているのか? 普通の装置だとつけていられないような運動をしているときは? 電子皮膚で測定することでこれまで不可能だったことができるようになりました!
誰でも簡単に使えるようにと「服型センサー」も開発しました これは着るだけ! 病院から宅配便で送られてきて家で測定したら返す すでに200以上の病院で利用されています えっ もう実際に使われているんですか! この技術は医療用だけではなくいろいろなことに役立つはずです! 装着感のないヘルスケアセンサー ストレスのない福祉用入力装置 衝撃に強いスポーツ用センサー どんなことに使ったらいいかな?ぼくたちも考えてみたいね!
「電子皮膚」のもうひとつの目標はロボットの体に貼りつけて「触覚」の機能を持たせることです 「電子皮膚」を用いることで 押されたときにどの部分にどんな力がかかっているか 「ざらざら」「なめらか」のような感触 「ひんやり」「ぬくもり」のような「温度」・・・などを知ることができます これからの時代は人とロボットがおなじ場所にいることが増えるでしょう 感触がわかるようにするとより安全にロボットを利用できるようになります! ロボットが何かを感じ取ったら動きを変えるみたいなことができるようになるんですね
有機トランジスタは米国や中国などでもさかんに研究されていて 曲げられるディスプレイや身につけて使うウェアラブルデバイスにも使われています これからは「安心して使えて安くたくさんつくれる」ことも課題となります 有機トランジスタだからこそ より精度の高い計測を実現するセンサーとして 高い目標を達成できる可能性があります 「電子皮膚」では従来の方法では難しかった方法で体を調べられるので気づくのが難しい病気を早く発見できるようになるといいなと思っています そして「皮膚感覚をもつロボット」を社会に増やして人々の暮らしを変えていきたいです!
先生はどうやってこの研究をするようになったんですか? 中高生の頃から数学と物理が好きで理系に進学しました そして大学入学後に応用のために物理を使う「工学部」の考え方が自分に合っているということに気づきました 大学院のあとはアメリカにわたりコロンビア大学とベル研究所で客員研究員をしました 当時多くの研究者たちはやわらかいトランジスタで「ディスプレイ」をつくろうとしていましたが自分は違うことをしよう!と思い「ロボットの皮膚」を目指しました 人と違う発想を持ち行動することはやっぱり大事ですね 難しいことにチャレンジしようとすると失敗の連続です それでもあきらめずに続けるコツは好きなことに取り組むことです 「今日はダメだったけどまた明日チャレンジするのが楽しみだ」と言えるくらい好きなことをみなさんも見つけてください!
生物の体には弱い電気が流れていて、心電図や筋電図を測るときはかたい器具をケーブルでつないでいる。動いているときや長い時間の測定が難しかったみたい。そこで登場したのが、やわらかくて曲げられる「有機半導体」でつくった「有機トランジスタ」。 これを使った「電子皮膚」の薄いシートを肌にペタッと貼るだけで生体情報を集められるんだって! すでに病院でも使われていて、将来はスポーツや福祉にも広がるかもしれないんだって。 さらにロボットの体につけて「触覚」の機能を持たせることもできるらしい。 ざらざらやぬくもりまで感じ取れるというから驚きだ。社会を大きく変えそうな技術だね。 見て見て! 実験室でつけてもらった電子皮膚!(お試し版)」 いいな~!私も一緒に行きたかった! 早く病院でも普通に使われるようになるといいね このレポートが伝わりDOKIDOKI星でも電子皮膚の研究が始まったという・・ もっとドキドキを調べるぞ!
(全10ページ)
お話をうかがった先生

染谷 隆夫
(そめや・たかお)
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 教授
1997年同大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。東京大学助手、講師、助教授(後に准教授)を経て、2009年より現職。その間、01年2月~02年12月 米国コロンビア大学化学科・ナノセンター客員研究員。09 年~17年プリンストン大学Global Scholarなどを併任。15 年より理化学研究所主任研究員(兼務)。23年より東京大学執行役・副学長。24年より東京大学産学協創推進本部長。
電子皮膚は、優秀発明の一つとして05年にはTIME誌の表紙を飾った。09年日本学術振興会賞、19年江崎玲於奈賞、24年度テルモ生命科学振興財団森下泰記念賞をはじめ受賞多数。