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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊

第27話 脳の透明化

SFの定番のひとつが「透明人間」。でも体を透明にするなんてありえない!と思っていたら、なんと、脳の組織を透明化して、神経細胞がつくるネットワークを三次元的に探ろうという研究が進んでいるんだって!
いくつかある透明化技術のうち、「Scale法」の開発にかかわった順天堂大学の日置寛之先生に、透明化する方法や、この技術を使ってどんなことが調べられるのかをインタビューしたよ!

みんなで ロールケーキを食べるよ! やった!イチゴだ! おいし~! えぇ!? ぼくだけ イチゴなし!? ウウウ… 食べる前から ロールケーキの中を 透視できれば…! そういえば 脳を透明にして 中にある神経細胞を 見る研究があるって 最近聞いたなあ ケーキも 透明にしたら 中身が見える かもね ええ~! 脳を透明に する!?"

脳の中にある 神経細胞を もっと詳しく 見たい! でも脳は不透明で あまり光を通さないので 中がどうなっているか 見ることができません 脳を透明にして 見たい神経細胞を 目立たせて 顕微鏡で観察する 私たちは そんな研究を しています 脳の 透明化! 順天堂大学大学院医学研究科脳回路形態学 日置 寛之 教授  "

これまで 脳の中を調べるには 脳を薄くスライスして 断面を顕微鏡で見る方法が 用いられてきました 病院でよく使われている MRIやCTも たくさんの輪切り画像を 重ねることで立体の形を 見られるようにしています 見たこと ある! 切り取った ものではなく まるごとの姿で 神経細胞の形や 周辺とのつながりを 詳しく知りたい! 私たちは これを目標にして マウスの脳を使って 実験を始めました

脳が透明じゃない理由は 脳の中で光が散乱して しまうことです 特に脳には脂肪が多く 光があちこちに 散らばって 奥の方まで届いて いかないんです 散乱で光が外に 出られない…見えない 奥まで光が届き うまく外に出る…見える このことから いろいろな 研究者が 光の散乱を 減らす技術を 開発しました 脂肪を取り除いて 光が通っていける ようにする方法 水溶性試薬で 除去する (CUBIC法) 有機溶剤で 除去する (DISCO法) ゲルに埋めて 水溶性試薬で除去する (CLARITY法) 水溶性試薬を 使って光が 散らばらない ようにする方法 尿素含有試薬で 透明化する (Scale法) 高屈折率の 糖液で 透明化する (SeeDB法)

私たちの研究グループは 神経細胞の膜構造を壊さずに 透明化する「Scale法」の開発者 宮脇敦史先生の協力を得て 技術を改良していきました この方法で マウスの脳を 透明にしました! あらかじめ神経細胞を 蛍光タンパク質で 光らせてうまく 目立たせるように しておきます 透明化処理を したあとに 光学顕微鏡で 広い範囲を 観察して 気になる場所を 電子顕微鏡で さらに詳しく 調べました こうして 神経細胞やシナプスを 3次元のつながりのまま 確認できるようになったんです!

この方法で 研究を続けたことで 神経細胞どうしが 情報をやりとりする 接続部分である シナプスの構造まで 確認できるように なりました 立体的に 観察することで 樹状突起の全体像を つなげて捉えられる ようになり     枝ごとの構造や シナプスの配置を 詳しく調べられる ようになりました     このような研究は ひとりでは できません 透明化技術をつくる人 顕微鏡の技術を持つ人 光る分子を操れる人 生物を深く知る人 それぞれが 専門を深めて 結び合うことで はじめて ここまで見えるように なったのです

研究が進むにつれて さまざまな問題が 浮かび上がってきました まずこの方法では 「形はわかる」けれど 「その細胞の活動や 機能を知る」ことが できないということです あっ そうか… 観察に使う細胞は 死んだ状態で 固定されたもの だから 生きているときに どんなふうに活動して いるのかがわからない ってことですね つぎに 大脳皮質の神経細胞は 種類が多くて分類が大変 ということもわかりました そして ヒトにしかない 細胞があることも わかりました その場合 動物実験では 再現できないので 研究が難しい ものになります

それでも研究が進み 脳の構造が詳しく わかるようになると 神経が関わる さまざまな疾患のことが 明らかになるでしょう パーキンソン病 アルツハイマー病 自閉症など さまざまな病気は 神経回路の異常が関係して いると考えられています そもそも 「正常な脳が どうなっているのか」が まだわかっていないので これを知るのが大事ですね 「どう見るか」という 透明化や観察の技術は もうだいぶ 進んでいますので これからは 「何を見るか」 という問いが 大事になるでしょう

先生は中高生時代 どんな生徒 だったんですか? スポーツが好きな アウトドア派で 生徒会長をつとめたり していました 学生時代の いろいろな経験が たくさんの人と 力を合わせて 研究することに つながっています 理系科目は好きで 身の回りの自然現象を 記述していく物理に 特に興味がありました 医学部では さまざまな高次機能を 実現する脳に興味をもち 研究の道に進むことに… 研究の世界では 分野を越えて 学ぶことが大事と よく言われます でも 自分の専門を深く 掘り下げることも とても大切です 興味を持ったことを 納得するまで 考え続けると その積み重ねが 思いがけない道に つながることも ありますよ

これまでの研究では 脳の中で神経細胞がどうなっているかを 調べるのが大変だったみたい。 そこで登場したのが「脳の透明化」。 脳の構造を保ったまま、中身の細胞を 顕微鏡で観察することで樹状突起やシナプスを 立体的に見られるようになったんだって。 形だけでなくどんな機能があるのかを知ること、 時間経過の中でどう活動するかを知ることが これからの課題のようだ。 あきらめずに 「どうやったら 見えるようになるか」 挑戦したところに 感動したね! まるごと 食べてる… レポートを DOKIDOKI星に送り 今回も任務完了!

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(全10ページ)

お話をうかがった先生

日置 寛之
(ひおき・ひろゆき)

順天堂大学 大学院医学研究科 脳回路形態学 教授

1977年埼玉県生まれ。2003年京都大学医学部医学科卒業。医師免許取得。同年4月京都大学大学院医学研究科博士課程入学。05年同大学院医学研究科高次脳形態学講座助手、07年助教。17年11月順天堂大学医学部准教授。14年5月理化学研究所脳科学総合研究センター客員研究員。20年順天堂大学大学院医学研究科マルチスケール脳構造イメージング講座代表。21年より現職。大学院医学研究科神経機能構造学(併任)医学部神経生物学・形態学講座(併任)。神経解剖学を専門とし、「形能不離(けいのうふり、構造なき機能はないという意味)」を掲げ、かたちから真理に迫ろうと分子生物学・生理学・理論神経科学などへと分野横断的に研究を展開。

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