マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第28話 クマムシ
クマムシって聞いたことがあるかな? 乾燥すると生命活動を止めて、その間100℃の灼熱からマイナス273℃の絶対零度、宇宙空間や大量の放射線にも耐える"最強の生物"だ。なぜ、極限状況でも死なないのか? その秘密を探る研究が進んでいるよ。兵庫県立大学の國枝武和教授に、クマムシの驚異の能力の謎についてうかがった。
今日も図鑑で 地球の生物を学ぶ ドッキンです この世で いちばん強い生物は 何なんだろう? やっぱり ライオンかな? いろんな 比べかたが あると思うけど 「クマムシ」は 熱や放射線にも 耐えることができて 宇宙でも生きられる なんて言われているよ クマムシ!? なんなの その生き物!? どこにいるの!? 検索すると 「その辺に どこにでもいる」 ってあるけど 見たこと ないよね〜
クマムシは 本やテレビなどでも 紹介されていて 「不思議な生き物」 として人気ですね! 「熱や放射線に強い」とか 「何をやっても死なない」 …なんて言われていて よく話題になっています 実際には どんな生物なのか? そしてその 特殊な体のしくみから 役に立つものをつくる! そんな研究の お話をして みましょう! 兵庫県立大学 理学研究科 生命科学専攻 生体物質 機能解析学部門 國枝 武和 教授
クマムシの実物を 見てみますか? 顕微鏡で 見るような サイズなん ですね!? えー!? 思っていたより 小さい! 1mm以下… 赤ちゃんが ハイハイしている みたいな歩き方! かわいい! 海・陸・淡水 …クマムシは 種類によって 住む場所が 異なります 街なかでも コケなどに たまった水の中を歩いていたりする ことがあります でもそんなに 小さいとなると 見つけるのは 大変そうですね
「クマムシは最強の生物」 などと言われる理由は 非常に厳しい環境条件に 耐えられることがわかって いるからでしょう 放射線 高温・低温 真空・高圧 有機溶媒 電子レンジ 普通の生物なら 重大な怪我をしたり すぐに死んでしまう ようなものばかり です! クマムシに いろんなことを 試したんですね… ドキドキ する…
ところが 「普通の状態」の クマムシは カンタンに 死にます! 指で押すと 簡単につぶれて 死んでしまい ますし 42℃以上の お湯に つけるだけでも 死んでしまいます ええっ! 無敵ってわけ じゃないの!? クマムシは 普通の状態から 乾いてかたくなり 体を守る姿に なることがあります これを 「乾眠」と いいます この状態になった クマムシは強い! というわけです 普段はやわらかくて 弱い生き物…… でも環境から水分が なくなったとき 乾眠状態になって 極限状態から 命を守っている クマムシはこうして 生き延びてきたの かもしれませんね
クマムシはどうして こんなに不思議な 体のしくみを持つの でしょうか!? これには遺伝的な理由が あるのではないかと考え DNAと結合する タンパク質を調べました 生物のDNAは 強い放射線が当たると 破壊されてしまいます しかしクマムシには 放射線からDNAを守る はたらきをもつタンパク質が あることがわかりました 私たちはこれを 「ディーサップ(Dsup)」と名付けました このしくみを ヒトの体にも安全に 取り入れることが できたら がん治療の放射線から健康な細胞を守れる かもしれません こんな感じで クマムシの独特の 体のしくみを医療に応用することを めざす研究が 増えているんですよ
クマムシの 「体を乾燥させて もとに戻すしくみ」 にも注目が 集まっています あるタンパク質が線維化して生きた細胞を乾燥から守ることが わかっています これを医療に活かす アイデアがたくさん 生まれてくるでしょう たとえばこれまで 凍結で保存していた 血液製剤を乾燥させて いつでも利用できる 形にするなどです もしクマムシと おなじように 魚を乾燥させたり みずみずしい状態に 戻せるように なったら いつでも生の魚を 食べられるように なるかもしれない ってことですね!
実験室では クマムシの飼育も しているんですよ! 以前は難しかったのですが 2000年代に 安定した飼育の手法が確立されて 遺伝子の研究はほぼ100%飼育したクマムシを 利用しています 分子生物学の研究で 遺伝子解析をするには 「同じものを集めて 実験をする」ことが 非常に重要です! おかげで クマムシ研究は この20年ほどで ゲノムの解読や 耐性にかかわる 遺伝子の同定が 爆発的に進みました ヨコヅナクマムシは 卵から孵化までが およそ5日 そして約1か月で 寿命を迎えます 2024年には クマムシの 遺伝子改変にも 成功しました さらに研究を 進めていきたい です!
國枝先生は 高校生のころから 研究の世界に 進むつもりだったそうですね 「生命をつくる」 ということに 強い関心がありました 博士になったあとは ミツバチの脳とか オタマジャクシの しっぽの再生を研究 していました しかしあるとき 『へんないきもの』 という本でクマムシを知り 乾燥状態の生命なら つくれるのではないかと 思い研究を始めました 師匠にあたる先生からも 「だれもやっていないなら ぜひやるとよい!」と 励ましがありました だれもいない荒野を 切り拓くのは大変ですが 予想もしなかったことが 次々とわかってくるのが とても楽しいです どうやったら生命をつくれるのか これから どんな発見があるか ワクワクしながら 研究しています
「クマムシは何をやっても死なない丈夫な生き物」 だと思っていたけれど、 普通の状態では簡単に死んでしまう。 でも「乾眠」という状態になると 熱や低温、放射線や真空などの極限状態で 生き延びることがわかっている。 放射線に強い性質のしくみがわかれば 放射線による がん治療をするときに 健康な細胞を守ることが できるかもしれない。 ぼくが 地球に来た時も 乾眠状態だったら よかったかも しれないね〜 クマムシのように 宇宙空間でも 体を守れるかも しれないね! 干しシイタケ みたいにして 戻すのかな… DOKIDOKI星の人々は このレポートを読んで 宇宙旅行のための 乾眠研究を 始めたそうです
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お話をうかがった先生

國枝 武和
(くにえだ・たけかず)
兵庫県立大学 理学研究科生命科学専攻 生体物質機能解析学部門 教授
1971年東京生まれ。東京大学薬学部卒。同大大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。スイス・バーゼル大学バイオセンター研究員、東京大学理学系研究科特任研究員を経て、2007年東京大学大学院理学系研究科助教。18年准教授。25年4月より現職。専門は極限環境生物学。04年からクマムシの研究を開始し、24年にクマムシのゲノム編集技術の開発に成功。