マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊
第29話 植物の形づくり
調査のまとめドッキンレポート
調査のまとめドッキンレポート
受精卵に注目
小中学校の授業などで、タネから植物が育つ様子を観察したことがあるだろう。地上に芽が出てくるより先に、まずタネを突き破って幼根が出て、根をしっかり伸ばしてから、地上部分に子葉が顔を出し、茎が伸びていくよね。
こうした形づくりは、どのように進んでいくのだろう?
植物も動物と同じで、最初はたった一つの「受精卵」という細胞が、細胞分裂を繰り返して成長していく。細胞分裂の方向は、「上と下(葉と根)」、「内と外(維管束と表皮)」*というように表され、この3次元の空間を認識することが植物の形づくりの出発点ドキ。
*「上と下」、「左と右」、「前と後」などの細胞分裂の方向を「体軸」という。植物の場合、茎などは円筒形が多いため「左と右」・「前と後」をまとめて「内と外」と表される。
そこでタネを調べてみると‥‥。
タネは通常、かたい殻に覆われていて中が見えない。カキのタネを縦に割ると、スプーンのような形をした小さな「ミニチュアの植物(胚)」がすでにできあがっていることがわかる。なんと、この段階ですでに伸びる方向が決まっているってことドキ!

どのようなメカニズムで形づくりが進むのかを探るには、精細胞と卵細胞が受精してできた受精卵が分裂していく様子をリアルタイムに観察するしかない、そう植田先生は考えた。
二光子励起顕微鏡でリアルタイム観察
受精卵を観察するといっても、シロイヌナズナの受精卵は、めしべの根元のふくらんだ部分(子房)の内部の、将来タネになる「胚珠(はいしゅ)」の中にできる。受精したばかりの受精卵は、直径約10マイクロメートル(µm)(=0.01ミリメートル)ほど。

動物と違って植物の場合、受精卵だけを取り出して観察するわけにはいかない。植物は切り取られた葉っぱからでも根や芽が出るなど柔軟性が高く、取り出して外の環境に置かれると性質が変わってしまうからだ。このため、これまでは時間を区切ってタネをスライス(切片)して顕微鏡で定点観察するしかなかった。でもこの方法は、1日前に見たときは丸かったのに、今日見たら分裂していたというふうに、パラパラ漫画を1コマずつ見るようなもの。しかも、スライスしたとたん、観察していた細胞は死んでしまうから、連続した変化を観察できるわけじゃない。
そこで、植田先生が使ったのが、レーザーを使って組織の奥深くまで見ることができる「二光子励起顕微鏡」という特殊な顕微鏡ドキ! 神経細胞を見るときなどによく使われるスグレモノの顕微鏡で、シロイヌナズナの未熟なタネをシャーレの培地にのせて、「ガラスごし、培地ごし、タネごし」にリアルタイム観察することにしたんだ。


左:Hanaki et al., Plant Methods (2025) 中央・右:Kimata et al., PNAS (2016)より
受精卵を含むタネごと、細胞膜(細胞の輪郭)を白く染めた画像(左)。中央と右は、微小管を緑に、核をピンクに染めた画像の比較。二光子励起顕微鏡(右)は、受精卵の細胞の核や微小管の筋が鮮明に観察できる。
高性能な顕微鏡で何を見るか?
東京が日本の大都市だということは、人やいろんな物資が行き交う幹線道路や鉄道網を見るとよくわかる。夜になるとその道が光って見えるよね。細胞の中で物流を担当するのが、細胞骨格である微小管とアクチンだ。
植田先生はまず、蛍光タンパク質を使って、核をピンク、微小管を緑で光らせてみた。この株を観察し続けると、受精卵が伸びる様子を捉えることができるようになった(動画参照)。その結果、卵細胞の段階では上下に並んでいた微小管は、受精するといったんバラバラになったあと、リング状の「微小管バンド」構造がつくられ、細胞先端側へと移動していくことがわかった。
受精卵の中で、いったんバラバラになった微小管がリング状に並んで先端側に移動していく様子(動画9.6秒)。画面左上の数字は、受精直後からの経過時間(時:分)。
またアクチンも、卵細胞のときに網目状だったものが受精したとたんにバラバラになったあと、核と一緒に上に伸びていった。

Kimata et al., PNAS (2016)より一部改変
核をピンク、アクチンを青に染めて観察。核はアクチンとともに上に移動する。右は模式図。
微小管やアクチンがどんな働きをしているかを調べるには、「それが無くなるとどうなるか」を見ればよい。微小管を壊すと、頭でっかちになって細胞がまっすぐ伸びられなくなった。微小管はちょうどコルセットのように、上へと移動しながら細胞の輪郭を締めていたのだ。
一方、アクチンを壊すと、核が動かないまま分裂して、正常な細胞なら上は小さく、下は大きい「非対称分裂」をするはずが、対称分裂になることがわかった。
シロイヌナズナは細胞の形(外側)を決める微小管と、細胞の内側で核を動かすアクチンの合わせ技で、非対称分裂していたってことドキ! この研究は、2016年に報告されたよ。

Kimata et al., PNAS (2016)より一部改変
正常な場合は、細胞内にかたよりができて、上は小さく、下は大きい「非対称分裂」になるが、微小管を壊すと受精卵は先端が肥大してきちんと伸びることができず、アクチンを壊すと核が上に移動できずそのまま分裂してしまった。
液胞はただの水袋じゃなかった!
「ライブイメージングってすごい!」と実感した植田先生は、細胞骨格だけでなく、さらに細胞の内部構造を観察して、「かたより」(細胞極性*という)が出て非対称分裂するしくみを探ることにした。
*細胞極性:植物をはじめとする多細胞生物の体は、いろいろな種類の細胞が三次元空間で適切な形状や配置をとることで形成される。特定の分子や物質が細胞内でかたよって違いが出ることで、細胞の成長の方向性や性質が決まり、分化していく。
多くの植物の細胞内部には「液胞」と呼ばれる小器官がある。レタスがみずみずしいのは、この液胞が大量の水分をためているからだ。
蛍光タンパク質で核をピンクに、液胞に緑の目印をつけてライブイメージングしたところ、受精前には細胞の大半を占めていた液胞が、受精すると脱水して急に小さくなったあと、核のまわりで細長い管のような形になって核を避けるように下方向に移動し、核は上に行き、その後、非対称分裂をすることがわかった。

Kimata et al., PNAS (2019)より一部改変
液胞は緑、核はピンク。上部の数字はライブイメージングの経過時間(時:分)。矢尻で示しているのが核の位置。6:40の写真の右下は核周辺の拡大図。スケールバーは10µm。受精後すぐに、液胞の脱水により受精卵は縮む。その後、液胞はダイナミックに形を変えながら、下部に移動していることがわかる。
液胞が柔軟に形を変えることができない遺伝子変異のある株(sgr2変異株)で観察したところ、受精して細胞が縮むところまでは同じだったが、細胞の上部に液胞が残ってしまい、核が上部に到達できないまま、等分に近い比率で分裂してしまった。

Kimata et al., PNAS (2019)より一部改変
sgr2変異株では、液胞が核の上部にとどまり、非対称分裂に失敗してしまった。
液胞が管状になって上下に動く様子がアクチンの動きと似ていたことから、アクチンを青、液胞をピンクに染めてみたところ、一緒に並んでいることがわかった。また、アクチンが働かない場合にどうなるかについて調べたところ、液胞は移動できず、非対称分裂にも失敗。一連の観察の結果、液胞は管状になって、アクチン繊維を「足場」として下側へ移動することで、上側へ核が移動するのをサポートしていることが裏付けられたんだって。

液胞(緑)とアクチン(青)の関係の模式図
では、非対称分裂が正常に起きないと、このあとの形づくりにどんな影響が出てくるんだろうか?
正常な細胞の場合、非対称分裂したあと、上側の細胞は、「始原細胞(幹細胞)」として活発に細胞分裂を行い、花や葉、茎、根など植物のさまざまな器官をつくり出していく。下側の細胞は「支持細胞」として、根の一部をつくるとともに、始原細胞の成長を支える。

植物の上下軸がつくられる様子
次の写真を見て! 受精卵が細胞分裂を繰り返し、葉や茎、根の原型がつくられ始めたころの様子だ。右側のsgr2変異株では、薄い緑の破線で囲んだ部分に大きな液胞が残っていて、形もいびつドキ。さらに子葉が出てからを見ると、変異のない野生株では子葉が2枚なのに、sgr2変異株では3枚ある。
液胞は単なる水袋ではなく、細胞内に極性を生み出し、非対称分裂を行うためになくてはならない存在だったんだ!

植物体の図版:Kimata et al., PNAS (2019)より
液胞が柔軟な動きができないsgr2変異株と正常な野生株の胚と子葉の比較。
ミトコンドリアは始原細胞側に分配
こうして、細胞骨格や液胞の働きで細胞極性が生まれ、始原細胞と支持細胞に分かれることがライブイメージングで見えてきたけれど、受精卵が分裂するときに非対称に分配されるものはほかにもあるのではないか?
そう考えて、次にミトコンドリアをライブイメージングしてみた。教科書で見慣れているミトコンドリアは俵形をしているけれど、ライブイメージングで実際に見たミトコンドリアは、アクチンの筋にそって繊維状になっていて、しかも核が分裂するとき(図の矢尻で示した部分)には繊維状から断片化する(図の01:10の白い四角内)。そのおかげで、上側の細胞に多くのミトコンドリアが濃縮されることがわかった。
ミトコンドリアはエネルギーを作るのに重要なので、上側のさかんに分裂する始原細胞側に分配されるってわけドキ。

Kimata et al., QPB (2020)より一部改変
上:シロイヌナズナの受精卵が第一分裂する際に、2つの娘細胞にミトコンドリアが非対称に分配される過程の模式図。
下:細胞分裂の前後を捉えたミトコンドリア(緑)と核(ピンク)を蛍光標識した受精卵のライブイメージング像。
力学で受精卵の成長を記述
受精後に起こるダイナミックな動きを、ライブイメージングによって世界で初めて次々に明らかにしてきた植田先生。いま取り組んでいるのが、ライブイメージングによって得られた高精度の画像データを解析し、物理学や数学の力(数理シミュレーション)で発生のしくみを明らかにしていくことドキ。
「たとえば受精卵は、提灯をひっぱるように上に伸びていって、ドーム型の始原細胞と細長い支持細胞とに分裂しますが、この細胞の変形はどんな原理で進むんだろう?と気になっていたんです。材料力学の専門家に聞いたら、『弾塑性変形(だんそせいへんけい)』で説明できますという返事。そこから、当時秋田県立大学助教で現在は北海道大学工学研究院准教授の津川暁(つがわ・さとる)先生たちとの共同研究が始まりました」
弾塑性変形とは、変形すると元に戻ろうとするバネの性質である「弾性」と、元に戻らない性質である「塑性」とをあわせ持った性質のこと。ライブイメージングで得られた画像データをもとに分析したところ、受精卵が半球状態を維持しながら成長することや、細胞の内側から押し広げる力(膨圧)と、細胞表面の変形しやすさ(細胞壁伸長性)という力学的な要素で説明できることがわかった。

Kang et al., QPB (2024) Abstractより一部改変
受精卵の形状の変化を、細胞内部からの圧力と柔軟性の組み合わせで再現した力学モデル。
次に、微小管のバンド構造が形成されて、細胞先端側へ移動する際のバンドの幅や速度をシミュレーション。微小管は、細胞が伸びようとするときに細胞膜に生じる物理的な張力(引張応力)を感知し、その張力に応じて自動的に集まることがわかった。また、受精卵の成長速度が、1分あたり14ナノメートル前後なら微小管のバンド構造は保たれるが、22ナノメートルを越えると保たれないことも予想できるようになった。
一連の研究から、受精卵が上方向(縦)に成長すると、その部分の表面張力が高まり、そこに微小管が集まることで自律的に新しい微小管バンドがつくられることが解明された。そして、そのバンドが細胞を締め付けるコルセットとなって、受精卵の横への成長が阻まれて縦への成長が続くことで、上下軸が形成されることを2026年に論文で報告した。

Kang et al., Nature Communications (2026) より一部改変
細胞成長と微小管による力学フィードバックの模式図
ライブイメージングに取り組むまで
新しい発想で植物研究に取り組んでいる植田先生は、どんなきっかけから植物の研究に進むことになったのだろう?
「物理や化学よりもとくに生物が好きだったというわけではなく、京都大学理学部に入学した時点では、専攻は決まっておらず、宇宙物理学や電気磁気学などいろいろな講義を受けていました。でも生物系が好きな友人たちと一緒に動物園や森林などへ足を運ぶうちに、『植物っておもしろい』と興味がわいたんです。とはいえ、野山を探検して植物の多様性を探究するより、なぜ桜が春に咲くかとかなぜ八重の花になるかといった、植物の原理原則や、基礎となるメカニズムが知りたいと思っていました」
こうしてシロイヌナズナの突然変異体を使って、分子遺伝学で花の形態形成の謎に取り組んでいた岡田清孝(おかだ・きよたか)教授の研究室に所属し、根の研究に取り組むことになった。
「大根を輪切りにすると、どこを切っても金太郎飴のようにきれいな円形をしていますよね。これは、細胞がデタラメに分裂するのではなく、重力や上下の方向を正確に認識して、縦方向(上下)にだけ規則正しく細胞分裂を繰り返しているからです。もしこのルールが狂って横にも分裂してしまうと、カブのように丸く膨らんでしまう。私は、根が伸びるうちに太くなってしまう変異体を使ってその原因を調べました。そしてタンパク質の分解を担う『プロテアソーム』という複合体が働かず、不要になったタンパク質の役割を適切なタイミングでオフにすることができなくなった結果、細胞分裂の方向が揃わなくなることを明らかにしたんです」
しかし、プロテアソームは、植物の細胞内のあらゆる活動に関わっているうえ、根では多数の細胞がさまざまな相互作用をしている。形づくりの謎を解き明かすには複雑すぎた。
「もっとシンプルで、一番おおもとの形づくりが始まる瞬間を見たい」。そう考えた植田先生は、学位を取ったあと、フライブルグ大学で単細胞である受精卵から始まる胚発生を研究。帰国後は、植物のライブセル生物学を掲げる名古屋大学の東山哲也(ひがしやま・てつや 現・東京大学大学院)教授のラボで、胚のライブイメージングに着手。そして奈良先端科学技術大学院での助教時代は、細胞周期の変化を見るための蛍光ツールづくりと、植物の受精卵のライブイメージングに取り組むための技術を着々と身につけていったそうだ。
多様な植物の形づくりの基本原理に迫りたい
今後は、シロイヌナズナで発見した形づくりの知見が、裸子植物やシダ植物、コケ植物など他の植物にもあてはまるのか、受精卵や胚をライブイメージングし、多様な植物の形づくりの基本原理に迫りたいと植田先生は考えている。
「シロイヌナズナに代表される被子植物の精細胞は鞭毛(べんもう)を持っておらず、花粉管に運ばれて受精するんです。一方、シダ植物やコケ植物は、鞭毛を持った精子が水中を泳いで卵細胞に到達して受精します。このとき、受精卵や胚で何が起こるのかは、ほとんどわかっていません。そこでもっか被子植物以外でもライブイメージングができないかと取り組んでいます。
いろいろな植物を見ることによって、共通のしくみと新しく獲得したものが見えてくるはず。それによって、進化についても新しい発見があるかもしれません」
「好き」「おもしろい」を大切に
植田先生は、昔から自分が好きなことは延々とやっているタイプだったという。
「小学校の通知表に、『やれと言ってもやらないけど、いったん始めるとやめろと言われてもやめない』なんて書かれていました。これがどうなるかという道筋がわからないと落ち着かない。それで理系に進みました」
研究をしていてワクワクするのは、予想外のことが出てきたとき。「そう来たか!」と好奇心に火が付くという。そしてライブイメージングしながら、「この現象は誰も見たことがない」と思うと、苦労も吹き飛んでしまう。
「だから、自分が好きなこと、打ち込めることを見つけてほしいですね。単純な疑問、素朴な思いつきからだって、研究の世界はどんどん広がっていきます」

シロイヌナズナを育てているラボにて
植物の研究をしたい人、興味がある人にオススメ
植田先生に植物に興味がある人におすすめのサイトを教えてもらったドキ。
■日本植物生理学会webサイト「みんなのひろば」
https://jspp.org/hiroba/
植物に関するさまざまな質問に専門家が答える「植物Q&A」をはじめ、植物科学に関するエッセイ、植物の不思議なしくみを紹介する画像、動画のリンクやプレスリリース、本が紹介されている。
■植物科学への誘い
https://bsj.or.jp/PSP/
日本植物学会、日本植物生理学会、日本植物バイオテクノロジー学会が連携して提供している植物科学に関連したトピックスにアクセスできるサイト。学会での講演内容や最新の研究成果の紹介など、植物研究のいまを調べるのに便利。
こうしたサイト以外でも、植物についてちょっと疑問に思ったときや、何か調べたいことがあって検索すれば、いまやAIがピッタリのサイトや、ニュースリリースを教えてくれる。そこから芋づる式に自分の興味があるサイトや最新の研究成果、それを探究している研究者の情報も得られる。おもしろいな、と感じるものにきっと出会える。そうして好奇心を広げていってほしいとのこと。
(取材・文:「生命科学DOKIDOKI研究室」編集 高城佐知子)

