フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

動物の脳のナビゲーションシステムを解読したい

───これからの研究テーマについて教えてください。

10人の研究者と一緒に、生物がどのように移動するのか、そのナビゲーションの研究をやっていこうとしています。これは文部科学省科学研究費助成事業の2016年新学術領域として採択されたもので、私は場所細胞を受け持ち、ほかにロボット科学者、生態学者、ビッグデータ研究者、神経科学者などが参加する大型融合プロジェクトです。
これまで場所細胞やグリッド細胞の研究では、研究室の中の小さな空間でした。もっと大きなスケールでの移動にあたって、生物がどのように位置を把握し、適切な経路を選択して目的地に到達するのか、その「ナビゲーション」の仕組みを解明しようというわけです。

たとえば、海鳥は東北のある地域から北海道を経て、さらにはシベリアへと数百キロ、数千キロを飛び、再び帰ってくる。その間、どのようにエサのある場所を検索しているのかなどを明らかにしたいですね、もしかすると場所細胞を使っているのかもしれないし、使っていないかもしれない。それを検証したいと思っています。

───その研究は、どんな意味を持っているんですか。

動物がどのようなナビゲーション機能を持っているかが分かれば、たとえば、サケなどの行動を予測するなど、生物資源を有効に活用できるでしょう。また、鳥インフルエンザや蚊が媒介するデング熱・ジカ熱などの伝染病の拡散予防、あるいは野生の有害動物が町などに侵入することを防ぐこともできるでしょう。

───最後に中高校生へのメッセージを。

海馬の研究をしていて気がついたことは、「よく学んだあとはよく休め」ということ(笑)。
先ほどお話ししたリプレイ現象は、ただリプレイしているだけでなく、学習にも関係があることが分かってきました。ラットの実験では、リプレイは立ち止まっているときに、これまでの記憶の整理とこれからの行動計画を練っているわけです。走り続けるのではなく、立ち止まってリプレイしなければ、こうした学習はできないわけです。
最近の研究では、睡眠時にもリプレイ現象は起きることが分かってきたのですが、同じ睡眠でも、浅く眠っているレム睡眠時より深く眠っているノンレム睡眠のときの方がリプレイが起こりやすいということも分かってきています。
もっとも、学習しなければ海馬には記憶として何も残らないわけだから、一生懸命勉強することがまず大事なんですがね(笑)。

(2016年8月2日取材)

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