フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」第2回 細胞の不思議 ヒトのからだができるまで 東京大学大学院 総合文化研究科 浅島 誠 先生 インタビュー からだの器官づくりを促すアクチビンを発見!

ナチュラルヒストリーを知り、失敗を恐れずチャレンジを

───生命科学を学ぶにあたって、どんなことが重要だと考えていらっしゃいますか。

高校生のワークショップで、卵が受精していく様子を観察させたことがありました。そのとき、「何もしなくていいから、受精卵が割れていくのを見ていなさい」といいます。もともと一個の細胞が分裂していって、私たちのからだは60兆もの細胞でつくられていく、そうした生命の不思議やすばらしさを実感してほしいからなんです。そして、発生生物学や生命科学のすばらしさを体得するには、本を読んで理解するだけではなく、中高校生が自分の手で実験することが大切です。

───中高生でも、そんなむずかしそうな実験ができるのですか?

もちろんできます。ワークショップでは、実際にカエルの卵を手術してアニマルキャップの未分化細胞をばらばらにします。これにアクチビンを高濃度で処理して溶液に入れておくと、3日目くらいに心臓がぱくぱく動いているのを見ることができます。ワークショップで心臓が形成されていくのを見た高校生は、生命の不思議さを目の当たりにして、とても感動していましたよ。
こうした実験を通して、最先端の生命科学や生物学に触れられることはすばらしいと思います。

───すごい!そんな実験はぜひやってみたいですね。生物科学の原点が学べる気がします。

私は「ナチュラルヒストリー」(自然誌科学)という言葉が好きです。たとえば、研究に必要なイモリを業者から購入しないで、大学の研究室の学生たちをイモリのいる場所に連れて行って採集することにしています。野生のイモリはどういうところに生息しているのか、また周囲にはどんな生き物がいるのかなどを知ることができる。イモリはこの地球上に3億年も生息していて、人類より長い歴史をもっています。手足を切断してもまた生えてきたり、人間がいかに弱い存在なのかを教えてくれます。多くの生物の生態を知ることで人間は謙虚になれ、いのちの多様性や共存について考えるきっかけを与えてくれます。
今はゲノム(遺伝子情報)の全盛時代ですが、生命、生物の持っているさまざまな可能性や全体性を理解するためには、ナチュラルヒストリーに注目する必要があると考えています。

───中高校生にメッセージをお願いします。

生命現象にはわからないことが、まだまだたくさんあります。若い人は、失敗を恐れずチャレンジして、生き物のおもしろさ、すばらしさを発見してほしいですね。

(2009年8月31日取材)

参考図書
発生のしくみが見えてきた─高校生に贈る生物学

『発生のしくみが見えてきた─高校生に贈る生物学』
岩波書店

たった1個の受精卵からさまざまな生物の形ができあがっていく不思議。生物の発生の鍵を握る物質「アクチビン」を発見した浅島先生による、発生学の歩みと新しい展開、今後の展望をわかりやすく解説した著書。

PAGE TOPへ
ALUSES mail