フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第18回 難治性皮膚疾患の再生医療 大阪大学大学院医学系研究科再生誘導医学寄附講座 玉井 克人 教授 インタビュー

骨髄幹細胞の移植によって、表皮水疱症マウスの皮膚が再生して緑色に光る

───骨髄の間葉系幹細胞を使った表皮水疱症の再生治療の研究はどのように進められたのですか。

「森の教室」でもお話ししましたが、表皮水疱症は、表皮と基底膜、基底膜と真皮をくっつけているノリの役割を果たすタンパク質が欠けていることが主要な原因です。私は、これまで、厚生労働省稀少難治性皮膚疾患調査研究班のメンバーとして、1996年から表皮水疱症の病態解明研究、遺伝子診断技術の開発研究、再生医療の研究を続けてきました。そうした研究を積み重ねて、私は骨髄にある間葉系幹細胞が血液循環を介して損傷を受けている皮膚に動員され、水疱症の皮膚再生を促していると考えるようになりました。
そこで私は、まず生まれつき7型コラーゲンを欠損させたマウスに緑色蛍光タンパク(GFP)を導入した健康なマウスの骨髄細胞を移植してみようと考えました。移植した骨髄細胞が血液を介して皮膚にたどり着き、はがれた皮膚を再生すれば、緑色に光る皮膚を持つマウスができるはずだと思ったからです。
ところが、7型コラーゲンを欠損させたマウスは口の中に水ぶくれができてお母さんのミルクを飲むことができずに生後数日で死んでしまうため、このマウスでの骨髄移植はあきらめざるを得なかったのです。

───次にどう研究を進めていったのですか。

そこで、今度は大きくなった正常マウスに表皮水疱症マウスの皮膚を移植した後に、GFPを導入したマウスの骨髄細胞を移植することにしました。その結果、表皮水疱症マウス皮膚に緑に光る骨髄由来細胞が多数集まって、さらに皮膚の基底膜部分に欠損していた7型コラーゲンが供給されて、皮膚の損傷が回復されたことが観察できました。

───実際にはどのようにして皮膚が修復されるのですか。

骨髄細胞は末梢循環血液を通じて、表皮に移植されます。表皮で血管があるのは真皮の部分だけなので、骨髄由来の細胞は、最初は真皮の中にしみ出していきます。やがて、これらの骨髄由来の細胞は基底膜を乗り越えて表皮の中に入っていきました。そして、皮膚の線維芽細胞や表皮細胞に分化して表皮を再生していったのです。
この研究から骨髄由来の細胞が表皮水疱症の治療に有効なことが証明されました。しかも、それから半年後も骨髄細胞由来の表皮細胞として定着し続け、毛や皮膚をつくり出していたのです。

損傷組織(表皮のはがれた部分)から出されるSOSシグナルによって、骨髄由来組織幹/前駆細胞が末梢血を介して損傷皮膚に動員される(左)。
右の写真は蛍光タンパク質(GFP)マウスの骨髄細胞を移植したマウスの表皮水疱症皮膚の再生時の蛍光顕微鏡写真。表皮および真皮内が緑色に光っていることが分かる。

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