フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」 第18回 難治性皮膚疾患の再生医療 大阪大学大学院医学系研究科再生誘導医学寄附講座 玉井 克人 教授 インタビュー

皮膚は地球を救う

───皮膚の研究を通じて、若い人に語りかけることがあればお聞かせください。

私は学生たちに皮膚について語るとき、「皮膚は地球人の宇宙服」という話をしますが、これについては「森の教室」でもお話ししました。それからもう一つ、重要なことを話します。それは「皮膚は地球を救う」という話です。
私は表皮水疱症の子どもたちを診察し、診てきました。彼らはとても辛い病気にかかっているにもかかわらず、健康な子どもたちに負けず劣らず、まっすぐ明るい心を育んでいます。なぜ、こんなにやさしい心を持っているのか、不思議に思ったことがあります。

───先生はその理由をどんなふうに考えたのですか。

皆さんはヘレンケラー女史のことを知っていますね。目が見えない、口がきけない、耳が聴こえない、三重苦にもかかわらず、教育者、社会運動家として生涯を送った女性ですね。ヘレンケラーとサリバン先生との密接な教育や触れ合いは有名ですが、表皮水疱症の子どもたちも、母との触れ合いを通じて、心の愛情を最も潤沢に受けているのです。
表皮水疱症の子どもの皮膚を母親が処置するときには、1日5-6時間かけて水ぶくれの部分を消毒し、軟膏を塗って、ガーゼ、包帯をしてあげる必要があります。皮膚の健康な子どもに比べて、圧倒的に母親と触れ合う時間が多い。それが脳にポジティブな信号を流し、優しい心を育むと、私は仮説を立てているんです。
もし、皮膚に「心を伝える」という受容体が進化の必然としてあるとすれば、表皮細胞の中の細胞が進化しているからで、私はそれを「スキンシップ遺伝子」と名づけているんです(笑)。

───スキンシップ遺伝子の存在は証明されているんですか(笑)

いいえ、まだです(笑)。でも、握手をし、肩を抱き合い、肌を寄せ合う行為が、お互いの心を育むメカニズムは種を越えて存在すると思います。皮膚の最も重要な機能は、心を伝えることではないでしょうか。
スキンシップ遺伝子の存在が証明され、サイエンスの面から触れ合うことの重要性が証明されれば、教育も大きく変わるのではないですか。現在のように、子どもがゲームやコンピュータばかりに夢中になり、学校から帰るとすぐに塾に行くようでは、母親が子どもとに触れ合う時間はあまりにも少ないと思います。
みんなが手を握り合う時間を増やし、他者を思いやる気持ちを持った子どもたちが増えれば、それは、地球を救うことになるでしょう。そう、「皮膚は地球を救う」という、その意味が分りましたね。

(2012年6月26日取材)

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