フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

「なぜ」と常に問いかけながら、小さな発見を大切にしていきたい

───岩田先生は早くから研究者の道を歩もうと考えていたのですか。

私は、高校時代は読書が好きで文科系に進みたいと思っていたのですが、あるとき化学で分からない問題があったので先生に聞きにいったところ、実験すれば分かるよと言われ、しぶしぶ実験をしました。その先生は薬学のご出身で、その後私の顔を見るたびに薬学部の受験を勧めてくるのです。薬剤師の免許が取れるからいいかと進学したのですが、大学で実験を繰り返すうち、そのおもしろさに魅せられました。それまでは、分かっていることを覚えることが勉強だったのですが、研究とは、分かっていないことを明らかにしていくこと。新しい発見が次々に生まれ、知的好奇心が満たされる楽しさに気づきました。
それで、博士課程に進んで研究者になろうと思ったのですが、最初は薬がからだの中に入ってどのように代謝され効いてくるのかを探る、薬物代謝の研究をしていました。けれども30歳の頃に、もっと直接病気に関わる分野の研究をしたい、病態のメカニズムを探ることによって新しい薬を生み出すような研究がしたいと思うようになったのです。
ちょうどその頃、遺伝子治療が話題になった時代で、遺伝子の働きと病気の治療というテーマに新鮮な魅力を感じました。

───アルツハイマー病の研究はいつ頃から始められたのですか。

そうしたところ、理化学研究所の脳科学総合研究センターの西道隆臣先生から声をかけていただきまして、異動しました。脳科学分野は、私にとってこれまで研究対象にしたことがない分野でしたので、必死になって勉強しましたね。
そこで、アミロイドベータが脳の中でどう分解していくのかという研究に取り組み、ネプリライシンの同定や、ネプリライシンの活性を調整する分子を探る研究など、アルツハイマー病の研究に入って行きました。

───研究者にとって大切なものはなんでしょう。

ノーベル賞を受賞された田中耕一先生は「なぜ失敗したか、失敗した原因が理解できないと成功につながらない」と言われていますが、私もそう思います。実験に失敗したとき、なぜそうした結果になったのかを追求しないでそのままにしておいては、新しい発見はできません。常に「なぜこうなるのか?」と問いかける姿勢が大切だと思います。
また研究をしていると、本来の目的とは違うところで、小さな発見がいくつもあるものです。その時は重要性に気づかなくても、あとでいろいろなことにつながってきたりもする。しかし、知識がないとその重要性に気づかないまま過ごしてしまい、大切な発見を見過ごしてしまいます。生涯にわたってたくさんの知識を吸収し、小さな発見を大切にしながら、発見する喜びを仲間や研究室の若い人たちと分かち合っていきたいですね。

(2013年6月12日取材)

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