フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

培養研究の長い積み重ねが間葉系幹細胞の強み

───間葉系幹細胞を目的の細胞に分化させるために、具体的にどんな研究をしていったのですか。

「森の教室」でも少し話しましたが、受精して間もないころの細胞はどんな細胞にでもなれる可能性を持っています。けれども、すべての細胞がどんな細胞にも分化することができると、心臓に骨ができたり、からだをつくるうえで不都合が生じます。そこで、どんな細胞になるのか、細胞運命を遺伝子がコントロールしています。たとえば、神経細胞は神経になる細胞をつくる遺伝子が働き、皮膚の細胞になる遺伝子は働かないように制御されているのです。このように遺伝子の働きを制御することを「エピジェネティック制御」といいます。
間葉系細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨芽細胞以外の細胞にはなりにくいように遺伝子が制御されていて、心筋細胞や骨格筋細胞、神経細胞、血管内皮細胞などに分化させるためには、そうした遺伝子制御をリセットすることが必要でした。
私たちは、ある方法でリセットすることに成功し、間葉系細胞が自由に分化できるような条件をつくりだしたんです。そして、研究室のスタッフが集まって、間葉系幹細胞を心筋細胞や神経細胞など、目的の細胞に分化誘導することに夢中になって取り組みました。

───間葉系幹細胞を目的の細胞に分化させて、それを再生医療に使うことにはどんなメリットがあるのでしょう。

一つには、iPS細胞のように遺伝子を導入して多能性細胞にするのと違い、間葉系幹細胞はもともと自分のからだの中にある体性幹細胞なので、がん化する心配も少なく、比較的安全に使うことができること。そして、間葉系細胞に関する研究はかなり長い間行われていて、培養技術が進んでいるために、幹細胞を大量に増やすことができる。このため、患者さんからは少量の間葉系細胞をもらえば済むことなどもメリットですね。

───先生が携わっておられる間葉系幹細胞を使った臨床研究にはどんなものがありますか。

2013年から実施しているのが、重症の末梢動脈疾患の患者さんから骨髄を少量採取し、間葉系幹細胞を培養し、これをたくさん増やして、虚血下肢に移植して治療効果や安全性を確認するものです。重症の末梢動脈疾患の場合、脚を切断しなければならないようなケースもあり、治療効果、安全性が確かめられれば、そうした患者さんの希望につながると思います。向こう3年間で10症例を研究対象と考えています。

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