フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

世界で初めてALSモデルラットを開発

───ラットを使ったALSモデルについて少し詳しく教えてください。

ALSがどのように発症し、進行するのか、どんな薬が効くのかなど、ALSの病態を研究するためには、ALSにかかったモデル動物をつくる必要があります。私が日本に帰ってきてALSの研究をしたいと考えたときに使っていたモデル動物はマウスでした。しかし、マウスはALSを研究するためには、からだが小さいという問題がありました。
ALSの病態研究で重要な部位は、脳の運動ニューロンから情報を受け、それを喉や手足などが動くよう末梢神経に伝える脊髄です。マウスは脊髄がヒモのように細いため、そこに遺伝子を導入したり、薬を投与したりするといった作業が容易ではなかったのです。そこで私たちは、マウスより20倍近くも大きいラットをALSモデル動物として開発することにしました。

───ラットをALSモデル動物にするために、どんな点が大変だったのでしょう。

脳に関係したモデル動物は、脳が大きくて高次機能を持った、比較的身体の大きな動物が適しています。マウスよりラット、ラットよりマーモセットなどを使った方が研究の成果があげやすい。けれども大きな動物になるほど、遺伝子導入などの遺伝子操作が難しくなります。今、マーモセットなどの哺乳類をALSモデル動物にしようと挑戦していますが、なかなかうまくいかないのが現実です。そこで、マウスよりも大きくマーモセットよりも小さいラットを選んだのです。
ラットのALSモデル開発にあたっては、先ほどお話ししたSOD1変異遺伝子をラットに導入し、本当にALSを発症するかを試していくわけですが、93年に取りかかって結局6年もかかりました。

───それだけ苦労すると、ラットのALSモデルができたときの喜びは大きかったのではないですか。

ヒトで見つかったSOD1遺伝子を導入したラットがALSを発症したことが分かったときには、ラットには申し訳ないけれど、やった!と思いましたね。マウスより大きなラットを使って研究ができるようになれば、ALSで苦しんでいる患者さんのための治療法や薬剤づくりが進むと考えたからです。

───ALSモデルラットができたことで、実際にどんな研究が可能になったのですか。

ラットの脊椎(背中の骨)の間に針を刺して脊髄の周りを取り囲んでいる脳脊髄液を採取して解析することが容易になりました。また、脊髄の周辺にある脊髄腔という空間に薬剤を投与してその効き目などを確認することもできるようになりました。

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