フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

ALSは脳神経科学で最難関の分野

───これからALSの研究、治療にとって重要なことは何ですか。

研究者、専門医の間には家族性ALSと孤発性ALSは違うので、家族性ALSを研究しても孤発性ALSについては解明できないという人もいますが、私自身は、家族性のALSの研究がもっと進むと、ALSの多くを占めている孤発性の病態解明が進むと考えています。実際、現在使われている家族性のALSの治療薬が孤発性ALSの病気進行を遅くさせる効果が出ていますから。

───できるだけ早期にALSと分かるような画像診断法は開発されていないのですか。

現状では、アルツハイマー病のように海馬のニューロンがまとまって欠落しているというような画像は写せても、一つひとつのニューロンを画像診断することができません。もし、運動ニューロンの軸索を移動するミトコンドリアの動きが遅いなどと可視化でき、ニューロンの異常を画像で捉えることができれば、早期に治療を開始することで、病気の進行を抑えることもできるでしょう。薬剤や治療法の開発だけでなく、こうした画期的な画像診断技術の開発も重要なテーマですね。

───ALS研究の意義を若い人に伝えていただけますか。

ALSを根本的に治すことができる治療法を発見できたら、それこそノーベル賞を100個もらえるほどのものだと思っています。こうしたいという意思を持つことができ、見る、聞く、感じるなどの感覚機能が健常でありながら、自分の意思で手や足などを動かすことができないALSは、病気の中でも最も過酷な難病といえるでしょう。
日本にはALSの患者さんが1万人近くいて、一日も早く根本的な治療法が見つかるのを心から待っています。皆さんの中で医師、あるいは医学の中でも神経内科を志す人がいたら、ALSをはじめとするこうした難病の研究者や臨床医をめざしてほしい。自分の人生をかけて難病の患者さんの役に立ちたい、そうした志を持ってほしいとつくづく思います。

───そうした志を持った若い人は多くいるのでしょうか。

高校生のころは、熱い志を持った人がいると思います。けれども、いざ、医学部に入ってしまうと治すことが難しいALSのような難病を避けてしまう人が多いのが現状です。でもALSなどの神経変性は、脳神経科学に関連した研究領域の中でも最高レベルの分野であり、さまざまな困難が待ち受けていますが、それだけにチャレンジしがいのあるテーマだと思います。

(2015年12月24日取材 2016年3月公開)

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