フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

ナルコレプシーを発症する率が高いのは10代半ば

───ナルコレプシーとはどんな病気なのでしょう。

ナルコレプシーは、日中でも耐えがたい眠気に突然襲われ、ばたっと眠ってしまう病気です。1880年、フランスの医師がどんな状況にあってもいきなり眠ってしまい、しばらくすると突然覚醒する患者と遭遇しました。患者はここぞという重要な場面でも眠ってしまいます。また、大笑いをしたり、感情的に高ぶると下肢の力が抜けて崩れ落ちてしまうことなども分かってきました。そこでこの疾患は、ギリシャ語の「しびれ、昏迷」という意味の「narke」と、「発作」という意味の「lepsis」とを合成して、「ナルコレプシー」と名づけられたのです。

───ナルコレプシーは脳波に異常がある疾患なのですか。

ナルコプレシーは、脳波や筋電図、眼球運動、心電図など身体の生理学的な指標を同時に記録する「ポリグラフ」で睡眠状態を調べることによって診断します。ナルコレプシーは脳波そのものに異常があるわけではなく、覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の現れるタイミングや順序の睡眠パターンが健常者と異なり、覚醒からいきなりレム睡眠と同じような脱力のメカニズムが起きるのです。また、ヒトは通常1日に1回、7時間ほど連続して睡眠をとり、十数時間にわたって起きていますが、ナルコレプシーの患者さんは、1回に長時間起きていることができず、短時間で睡眠と覚醒を繰り返すのが特徴です。

───何歳ぐらいで発症するのですか。

ヒトの場合、10代で発症する人が多く、ピークは12~14歳ごろ、つまり思春期の真っただ中で、日本では受験期に該当しています。ちょうど受験勉強で夜更かしをして睡眠時間が減る年代に当たります。そのため、ナルコレプシーを発症しても、眠気と闘いながら受験勉強しているのだと本人も家族も思い込んでしまって、発症に気づくのが遅れてしまう場合もあります。
もちろん、成人してからも発症する疾患で、大学受験だけでなく人生を左右する入社試験の面接で突然眠ってしまうようなことも起きるし、乗るべき電車が来て、「電車が来た!」と思った瞬間に睡眠が襲ってきて眠り込んでしまうなど、日常生活に支障をきたす疾患です。

───睡眠障害のほかに何か特徴がありますか。

ナルコレプシーの特徴に、感情が昂ったときに身体の力が抜けてしまう「情動脱力発作(カタプレキシー)」があります。引き金になる感情は怒りよりも喜びとか自尊心をくすぐられた時など、うれしい感情に伴う場合が多いと考えられています。

───オレキシンの欠乏がナルコレプシーを引き起こすメカニズムを教えてください。

本編でもお話ししましたが、おさらいもかねて整理してみましょう。
オレキシンは「視床下部外側野」のニューロンによって産生されます。そしてオレキシンの受容体は、必要に応じてモノアミンやアセチルコリンをつくり出す部位に強く発現して、こうした覚醒や意識を司るニューロン群を刺激します。こうして覚醒の安定化に寄与しているのです。したがって、オレキシンがなくなってしまうと、安定して覚醒していることができなくなるというわけです。

───オレキシンがなくなると、覚醒ができなくなって、ずっと眠り続けてしまうのではないのですか。

そうなってはたいへんなので、神経には「可塑性」といって、一つの機能を失ってもそれを補う変化が生じるので、オレキシンなしでも覚醒はできるのですが、フライホイールのない車と同様、すぐにエンストを起こして覚醒し続けられないという状態になってしまうのです。

───ナルコレプシーの患者さんは、覚醒から突然レム睡眠に入るということですが、やはり夢を見るのですか。

ええ。ナルコレプシーの患者さんの夢の場合、とくに、大脳皮質が覚醒しているうちにレム睡眠に入って夢を見るため、現実と区別できないような非常にリアルで鮮明な夢を見てしまうのです。これを「入眠時幻覚」と呼んでいて、ナルコレプシーの特徴の一つとされています。

PAGE TOPへ
ALUSES mail