フクロウ博士の森の教室「からだを復元させる医療の話」

夢の中で奇妙なストーリーが生まれるわけは?

───ところで私たちが夢を見ているときの脳の活動について、どんなことが分かっているのですか。

近年、PET(陽電子放射断層撮影)やfMRI(機能的核磁気共鳴画像)などの発達により、脳波では分からなかった脳の各部位の働きを見ることができるようになり、脳波と組み合わせてレム睡眠やノンレム睡眠時にどのような活動をしているかがかなり分かるようになってきました。
レム睡眠中には覚醒時と同じように脳全体に高い活動が見られますが、大脳皮質を強力に駆動させている橋被蓋や、怖いとかうれしいとかの感情に関係する扁桃体、さらには記憶などに関係する海馬といった部位が覚醒時よりもむしろ強く活動しています。
レム睡眠中には怖い夢や嬉しい夢など感情を刺激する夢を多く見ますが、これは感情(情動)に関係する扁桃体の活動が活発なことに関係があるといえるでしょう。
また、レム睡眠時には視覚的なイメージ豊かな夢を見ることが多いとされています。これは、視覚イメージを再構成する働きのある視覚連合野が強く働いているため、脳内に既に記憶として蓄えられている情報をイメージとして再構成して夢の中に取り込むからだと思われます。

───夢の中では現実には起こらないような奇妙なストーリーが登場するのはなぜなのでしょう。

たしかに夢の中では、絶対に出会うはずのない歴史上の人物と会話したり、時間が前後した辻褄の合わないストーリーを平気で見ることができますね。それは、レム睡眠中には覚醒時に比べて脳の前頭葉にある前頭前野の活動が低下していることに関係しています。私たちの脳の中には感覚系を通じて大量でばらばらな情報が流れ込んできていますが、前頭前野はこれらの情報を整理し、統合する役目を果たしています。レム睡眠中にこの前頭前野の働きが低下すると、論理的に辻褄の合わない出来事をチェックする機能が失われてしまい奇妙なストーリーの夢が出現するのです。

───それにしても、レム睡眠中に脳が活発に動いていてストーリー性の豊かな夢を見るというのは実に不思議です。

レム睡眠時には、ストレスに関連した完成した脳内の化学物質のレベルが低下し、ショッキングな記憶に対するネガティブな反応を和らげる効果があったという報告があります。私は、レム睡眠の際に記憶の断片を感情によって重み付けし、整理しているのではないかという仮説を立てています。
最近の研究で、レム睡眠中に神経細胞同士がランダムにつながるなど、私たちのひらめきに影響を与えているという実験などもあります。レム睡眠が果たしている役割や、睡眠の機能などについては、今後の研究の進展が待たれますね。

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