この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第4回 脳の発生の探求から、心の病の予防・治療までも視野に 東北大学大学院医学系研究科 大隅典子 教授

「スピード、自由、変化」がキーワード

───歯学部に進学したのはどんな理由からなんでしょう。

直接、人を治すことができる職業は素晴らしいと思い、医学部を考えないことはなかったのですが、他人の命を背負い込むだけの踏ん切りが当時はつかなかった。でもヘルスサイエンスには魅力を感じていて、歯学部を選びました。受験勉強は嫌いだったので、浪人したくなかったから、ここなら受かるという大学の学部を選んだんです(笑)。

───歯の研究から脳の研究に移ったのはどうしてですか。

私には自分のキーワードがあって、それは「スピード、変化、自由」なんです。これ、射手座のキーワードなんですよ(笑)。スピード感があり、自由があって、特に変化するものに魅力を感じました。
歯学部で学び始めたころは、新しい治療の技術を学んだりできて楽しいけれど、いずれ一定のレベルまで技術習得が進んでしまうと、歯学の世界ではそれ以上の進歩がなかなか難しいように思えたんです。両親の研究を見ていると、新しい発見に向けてダイナミックな変化があるように思われて、そうした変化や自由さ、最先端の研究につきもののスピード感などを満足させられる発生生物学の基礎研究を、大学院の歯学研究科でやってみようと決めました。

───発生生物学を始めたときに感じたことは?

いってみれば水を得た魚の感じといえばよいでしょうか。
ある日、先輩がマウスの胎児の研究をしているのを見る機会がありました。そのマウスは受精してから10日ほど経っていて、ちょうど心臓の血液がたくさんできるようになった状態で、赤い心臓が拍動していました。まだ皮膚が発達していないから、体は透明で血液の循環が透けて見えるんです。まさに生命がそこに生きていることを感じることができ、それはとても綺麗だったのです。この光景を目の当たりにして、これが私の求めていたものだって直感的に感じました。同時に、いま、学問の入口に立っているって思いました。

培養しているマウスの胎児

培養しているマウスの胎児

───歯学部の経験が役立ったことはありますか?

科学の研究には、私たちの言葉で「WET」な実験と「DRY」な実験とがあります。実験動物や細胞を使った実験は、命そのものを扱うので、コンピュータの中だけでできる「DRY」な実験に比べて「WET」な実験と呼んでいます。WETな実験では、職人的な手先の器用さが要求されることが多いのですが、私は歯学部で入れ歯を作ったり、歯の詰め物の金属加工をしたりというトレーニングを受け、かなり手先が器用だったんです。手先が器用であったことは、後から細胞や胎児の培養などをする際にもとても役に立ちました。

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