───先生は女性研究者の育成にも力を注がれています。
はい、2006年から「杜の都女性科学者ハードリング支援事業*」を推進しています。私の場合には幸いなことに女性としてのハンデはあまり感じたことはなかったのですが、自分だけの問題ではなく、女性の研究者全般の問題として考えると、研究者としてやっていく上で女性が不利なケースがたくさんあります。
そうした問題が少しでも改善できるように活動していきたいと思っています。女子中高校生で、生命科学に興味があり、研究したいという人が、将来研究しやすい環境をつくってあげられればと考えています。
*杜の都女性科学者ハードリング支援事業:2006年にスタートした東北大学の女性大学支援事業。

▲ 女性研究者をサポートするために、1)育児・介護支援、2)病児保育などの環境整備、3)次世代育成、の3つのプログラムを展開。ことに、次世代育成では、身近なロールモデルを提示するために、母校へのサイエンス・エンジェル出張セミナーや市民への科学コミュニケーションに力を入れている。
写真左2枚:2009年11月の 山形県立山形東高等学校への出張講義風景 右:2009年9月に実施した「理科実験教室:生き物ふしぎ体験」
───中高校生になにかメッセージをいただけませんか。
理科系の大学に進学しようと考えている人の中には、数学や物理、化学、生物など理系の勉強だけしておけばいい、国語なんて勉強しなくてもいいという人がいるかもしれません。けれど、それは大きな間違いです。自分が研究した成果を発表するためには、コミュニケーションとしての言語を使わなければなりません。しっかりした言葉を話し、ちゃんとした論文を書き、他人の話を聞いたりするためには、ベースとなる国語力が必要です。そのためには、いろいろな本をたくさん読むことをお勧めします。
───私たちが読んで参考になる本がありますか。
スタンフォード大学の女子医学生シャノン・モフェットが、脳科学について、DNAの二重らせん構造を発見したクリックなど、第一線の生命科学者にインタビューした「脳科学者たちが読み解く脳のしくみ」(日経BP社)という本がおすすめです。難しい内容を含んでいますが、やさしく書かれているので高校生ならおもしろく読めると思います。
それから、この本は絶版になっているので図書館か古本で手に入れなければならないのですが、レヴィ・モンタルチーニ博士の自伝「美しき未完成-ノーベル賞受賞科学者の回想」(平凡社)という本もぜひ読んでみてください。彼女は、ユダヤ人の家庭に育ち、ユダヤ人を弾圧するムッソリーニの迫害を受けながら、寝室に孵卵器、顕微鏡などを置いた粗末な実験室でニワトリの胚を使った実験を行い、神経発生学の分野で貴重な発見を成し遂げます。モンタルチーニ博士は、後にノーベル賞を受賞しますが、女性科学者の伝記として感銘を受けると思いますよ。
(2010年1月25日取材)