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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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マンガdeひもとく生命科学のいま ドッキン!いのちの不思議調査隊

第18話 睡眠の謎

試験前に徹夜で勉強しても、集中力が落ちたり眠気に襲われたりしなければいいのに…と思ったことはないかな? 神経系を持つ生き物はすべて睡眠が必要だという。眠っている間に襲われる危険もあるのに、なぜ眠らなければならないのだろう? この根本的で素朴な問いに、決定打といえる答えはまだ見つかっていないんだって! 今回は睡眠の謎について聞いてきたよ!

ある日の夜遅く… えぇ…? ふたりともまだ起きてるの? 明日からのテスト どうしてもいい点を取りたいんだ! 順位が上がったらおこづかい増やしてもらうの~ なんで眠くなるんだろう? 眠らないで済む方法ってないのかな? えぇ~!? カゲキなこと言うね・・・ きっとどこかでそういう研究があると思うけど… テストが終わったら調べてみましょ 夜明けまで続けるぞ~ ふたりとも大丈夫かなぁ? ドキドキ…

私たちは人生の約3分の1を睡眠に費やしていると言われています 睡眠は身近な現象ですが、それなのにまだわかっていないことがたくさんあります 睡眠を専門にする研究所は世界全体でも数少なく珍しい存在です ここでは神経科学や創薬科学、実験医学といった方法で睡眠の謎に迫る世界トップレベルの研究が行われているんですよ 本城咲季子先生 つくば大学国際統合睡眠医科学機構(IIIS) 助教

睡眠とは何か?と問われるときによく使われる“3つの条件”があります (1)運動量が落ちる。    動かなくなる。 (2)感覚閾値の上昇。    刺激に対する反応性が鈍くなり感覚が働きにくくなる。    起きていれば聞こえるような音が聞こえない。 (3)恒常的制御を受けている。  一定の睡眠量になるように調節されている。  ずっと起きているとその後の眠りが長くなったり深くなったりする。 そして睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠があります。 深いノンレム睡眠のときは意識が失われていて麻酔をかけられたときの状態に似ています レム睡眠のときには鮮やかな夢を見ることがわかっています そのときの脳は起きているときと同じくらい活発に動いているんですよ 寝てるからといって止まっているわけじゃないんですね~!

睡眠についてはさまざまな仮説がありますが「これがそのしくみだ!」とハッキリ言えるものはまだありません 仮説のうちひとつに「シナプス恒常性仮説」というものがあります シナプスは神経細胞と神経細胞が情報のやりとりをするところで 行動により増えたり減ったりします これが増えすぎると神経細胞にとって負担となるため 強くなりすぎたシナプスを睡眠によって弱くする作用があるのではと考えられています 「記憶の固定のために眠っているという仮説」もあります 寝ているあいだに一時的に覚えているような「短期記憶」を ずっと忘れないでいられるような「長期記憶」へ変化させているという仮説です 眠ることでしっかり覚える…みたいな感じですね ほかには「脳脊髄液が神経細胞の老廃物を洗い流しているという仮説」もあります 気持ちよさそう…

動物は眠らないでいるとどうなってしまうのでしょうか!? ラットを寝かさないようにするとどうなるかという古い実験があります ラットに脳波モニタをつけて眠りかけると水に落として起こす装置を用いていたようです 食べる量が増えるのに体重が減り毛が抜け そしてラットは2週間から1か月で死んでしまったそうです うわ~ テスト前の徹夜はやめて~ 現在では実験動物に対してこのような倫理的に問題のある実験は行うことができません 実験動物にとってダメージのない方法で知りたいことを調べる……よりいっそうの工夫が必要です!

先生はどんな研究をなさっているんですか? ノンレム睡眠中に「オフピリオド」という状態があります 私はこの現象について特に関心を持って研究しています! ノンレム睡眠や麻酔下ではたくさんの神経細胞が一斉に情報のやりとりをしたり 一斉に情報のやりとりを止めたり を繰り返しています このピタッと止まっている状態が長く続くことを「オフピリオド」と言います なぜどうやってこれが起きるのかを知りたい! これは情報伝達や意識・記憶にとって重要な現象ではないかと考えられているんです マウスの脳の中に小さな電極を埋め込み、オフピリオドがどの神経回路で起きているのかを調べる実験をしています この実験で脳の中にある睡眠に重要な領域が発見できるのではないかという強い期待を持って研究を続けています

睡眠のことってよくわかってないことが多いみたいですね? これまでにぐっと研究が進んでよくわかるようになった!っていうこともあるんですか? 検索… この研究所ができる前から始まっていた研究により神経伝達物質「オレキシン」が睡眠と覚醒の制御に重要な役割を持っていることが発見されました 2016年と2022年には睡眠の質と量がどのような遺伝子によって調整されているのかという「シグナル伝達経路」の発見もありました 柳沢正史 機構長 櫻井武 副機構長 船戸弘正 教授 さまざまな仮説を確かめるためにいろいろなアイデアでいろいろな実験をしているたくさんの研究があるという状況です どういう実験をどういう方法で行うのか? そこが研究の勝負どころで、よい実験を思いつくととてもうれしく感じます

睡眠の研究はどんなところが難しいですか? 研究倫理の難しさがあるという話をしたんですが、現在の研究ではそんなに無理をすることはないのであまり問題にはなりません 何が難しいのかと言うとたとえば 「マウスの大脳皮質を活性化させたい!」というアイデアがあったとしてもまだその方法がわかっていなくて「やりたいことはあるけど技術的に実現できない」というような場合があります 睡眠の実験をするにはマウスを使うのが向いているんですか? 神経活動のパターンやオフピリオドがヒトに似ているという点でマウスやラットが選ばれることが多いです マウスやラットは実験動物としてよく調べられていて その遺伝子がどうなっているかがはっきりわかっていて継続的に同じ系統のものを実験で使い続けることによって比較がしやすいという利点があります

睡眠の研究に興味が出てきたんですけど睡眠のことが学べる大学ってあるんですか? 睡眠そのものを!というような大学の学部学科は今のところありません 生物学を学んだり医学を学んだりするのはこの研究につながりやすい道だと思います 私自身は進学校の女子高出身で、京都大学理学部に入学して線虫を用いて老化の研究をする先生のもとで学びました その後は著名な睡眠研究者のジュリオ・トノーニ先生とキアラ・チレリ先生のいるアメリカのウィスコンシン大学へ留学しました なぜ寝ないといけないんだろう? この身近な現象の謎をずっとずっと追い続けています 楽しんで不思議だと思うことを素直に追いかけて 好奇心を大事にしてほしいです! みなさんも納得いかないことをしつこく疑ってください!

睡眠の3つの条件は 動かなくなること、周囲からの刺激に反応しにくくなること、そして眠る深さや長さが一定に保たれるようにできていることらしい。 深いノンレム睡眠のときには麻酔にかけられたように意識をなくし、レム睡眠のときは脳が活発に動いて夢を見るんだって。 動物はなぜ眠るのか? まだ、さまざまな仮説があるという状況で、それらの仮説を確かめるための実験を考えるのが研究の勝負どころらしい。 この、睡眠を専門とする研究所で重要な発見が今後も生まれていくに違いない。 徹夜でレポート! 睡眠のしくみがわかったら同じ現象が起こるような薬を作って これを飲めば眠ったのと同じ!みたいなことが起こるかもしれないってことかなあ!? もしそうなったらそんな薬を飲んでテスト勉強しちゃうかもしれない… 普通に眠ろうよ~ レポートをDOKIDOKI星に送って今回も任務完了! 今夜は早く寝るぞー

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お話をうかがった先生

本城 咲季子
(ほんじょう・さきこ)

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 助教

1999年桜蔭中学校高等学校卒業後、京都大学理学部入学。2009年京都大学大学院生命科学研究科修了(博士/生命科学)。同研究科西田研究室で博士研究員、特命助教を経て12年-17年ウィスコンシン大学マディソン校精神医学部で睡眠・覚醒状態の制御に関する研究をスタート。17年9月より現職。PI(Principle Investigator、主任研究者)として研究室を率いる。

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