中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第23回 診断から治療まで。がんを狙い撃つ高分子ナノマシンで医療を革新!~東京大学大学院 工学系研究科 片岡研究室を訪ねて~

目に見えない極小サイズの乗り物に運ばれた薬剤が、細胞が仕掛けたさまざまな防御システムを潜り抜けてがん細胞をやっつける。こうした極小サイズのテクノロジーを医療に応用したナノ医療がいま注目されている。東京大学大学院工学系研究科の片岡一則教授は、「ナノ医療は治療困難ながんの治療や診断に大きな変革をもたらす」と語る。いったいどんなテクノロジーなのだろう?

親水性と疎水性でできた「高分子ミセル」

最近、「ナノテクノロジー」という言葉をよく耳にすることがあるだろう。「ナノ」とはもともとはラテン語で「小人」という意味で、1メートルの10億分の1の大きさのことだ。10億分の1と言われてもピンとこないかもしれない。地球の直径を1メートルとすると、1ナノメートルはわずか1円玉くらいの大きさにすぎない。途方もなく小さいことがわかるだろう。
私たちが目で見ることができる大きさは、せいぜい0.1~0.5ミリメートル程度だから、仮に30ナノメートルのノロウイルスを観察しようと思ったら光学顕微鏡でもムリで電子顕微鏡の出番となる。それくらい極小の領域の物質を取り扱うのが、ナノサイエンスであり、ナノテクノロジーなのだ。

このナノテクを医療の世界で活用しようとする研究が「ナノ医療」で、東京大学大学院工学系研究科の片岡一則教授はこの分野の第一人者だ。先生が取り組んでいるのは、インフルエンザウイルスよりも小さい高分子のナノマシンを使って、がん細胞をピンポイントに狙い撃ちしたり、精密診断に活用すること。
「現在日本では年間約35万人ががんで亡くなっており、死亡原因の約28%を占めています。効果の高い抗がん剤が開発されてはいますが、私たちが飲んだ薬の多くは、胃や小腸を経て肝臓に送られ、細胞に吸収されやすいように分解され、血液によって全身に送られますが、病巣に到着するまでに薬の成分が効能を失ってしまったり、正常な細胞にも働いて副作用を起こしてしまうなどの問題があります。がん細胞だけに集中的に薬を届け、その場の環境に応じて薬物が溶け出すタイミングや時間を調整できるようなナノマシンが必要なのです」

そこで先生が開発したのが、水に溶けやすい親水性の部分と水に溶けにくい疎水性部分とをあわせもった「高分子ミセル」と呼ばれるカプセルのような極小のデバイスだ。
「親水性の高分子と、末端部に抗がん剤を結合させた疎水性の高分子がつながったヒモ状のポリマー(高分子化合物)を水に溶かすと、抗がん剤を内部に閉じ込めながら凝集して微粒子を形成します。これが高分子ミセルです。このウイルスサイズの高分子ナノマシンが、拒絶反応など体内の監視網を潜り抜けて、目的のがん細胞にピンポイントにたどり着く。言ってみれば、ステルス戦闘機みたいなものですね」

片岡 一則
片岡一則(かたおか・かずのり)東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻教授

1974年東京大学工学部合成化学科卒業、79年東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了、工学博士。東京女子医科大学助手、助教授、東京理科大学教授を経て、98年より現職。2004年より東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター教授を併任。ナノバイオテクノロジーを基軸として、医薬工の分野を融合し、新たなイノベーションの創出をめざしている

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