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脳が治る分子メカニズムから 脳梗塞の後遺症の創薬をめざす~東京科学大学 神経炎症修復学分野 津山淳先生を訪ねて~

iPS細胞由来の心筋細胞が実用化され、再生治療の進歩はますます期待を集めている。そんな時代においても「治らない臓器」と言われるのが脳だ。しかし、脳は自ら回復する力も備えている。その力をしっかり持続できれば脳卒中の後遺症も改善できると考え研究に取り組んできたのが津山先生だ。脳の免疫細胞「ミクログリア」の回復力に着目し、「脳が治る」メカニズムの一端を解明した。脳はどうやって自らを回復させているのか、研究の成果をうかがった。

津山 淳(つやま・じゅん)

東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所 神経炎症修復学分野 助教

神奈川県横浜市出身。2015年慶應義塾大学医学研究科博士課程修了。医学博士。同年同大学医学部生理学教室特任助教。17年東京都医学総合研究所 脳卒中ルネサンスプロジェクト研究員、23年より現職。専門は神経科学、免疫学、エピゲノミクス。細胞の性質が時間とともに変化するしくみに着目し、脳損傷後の回復力のメカニズムを解明している。

ショートムービーで見る研究のあらまし

「脳は治らない」という常識をくつがえす

日本人の死因の第1位は悪性腫瘍(がん)だが、寝たきりになる原因の第1位は脳卒中だ。要介護になる原因で考えると認知症が上回るが、重度要介護になると脳卒中が最も高い*という。

*厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ介護の状況「現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因」より。要介護度5の原因の1位は脳血管疾患(脳卒中)で27.6%。

脳卒中は脳の血管が詰まったり傷ついたりして、脳や身体の機能に障害を起こす病気の総称。その約80パーセントは血管が詰まって組織が死んでしまう脳梗塞で、急性期を過ぎた後の神経機能回復そのものを促す薬物治療は、まだ確立されていない。カテーテルを使って詰まった血栓を取り除いたり血栓を溶かしたりする薬はあるが、失った脳機能の回復はとても難しく「脳は治らない」と言われてきた。一命は取り留めても、後遺症で脳や身体の機能が低下して寝たきりになると、患者さんや家族はもちろん、医療・社会福祉にとっても大きな負担となってしまう。

2026年5月、そんな現状にひとつの朗報が入った。脳卒中で失われた脳機能の「回復メカニズムを持続させる方法」が、世界的な科学雑誌『Nature』に論文として掲載されたのだ。「脳は治らない」という常識をくつがえす大きな発見で、そのメカニズムを使って後遺症を回復させる薬の研究もスタートしているという。

この研究を中心となって進めたのが津山先生だ。2017年にスタートした「脳卒中ルネサンスプロジェクト*」に参加し、とくにミクログリアなどの脳内免疫細胞に注目して、脳梗塞後の炎症と修復を研究してきた。

*脳卒中ルネサンスプロジェクト:患者の社会的な「復活(再生)」と、脳卒中研究の「再興(ルネサンス)」を目的に、免疫学、分子生物学、神経科学を融合させ、脳梗塞後の炎症と修復の仕組みを解析しようと2017年4月に東京都医学総合研究所でスタートしたプロジェクト。2023年からは東京科学大学(旧東京医科歯科大学)で研究を推進。プロジェクトリーダーは七田崇(しちた・たかし)教授。

「後遺症があっても早期にリハビリを行えば回復は進みますが、一定の期間を過ぎるとその回復力は大きく低下してしまう。その理由はわかっていませんでした。そこで脳の回復のメカニズムを細胞の働きから調べてみようと考えて、研究を進めてきたのです」

発見した脳の回復メカニズムを詳しく教えていただく前に、先生が神経細胞の研究にたどり着いた経緯を簡単にうかがっておこう。

神奈川県横浜市で育った先生は、小さいころから実家の裏にあった自然公園でよく遊んでいた。そこには科学雑誌や図鑑がたくさん置いてある施設があって、それが読みたくて頻繁に足を運んでいたという。
「当時から生物や宇宙が大好きだったんです。でも、同じくらいボクサーにもあこがれていて、県立高校を卒業した後はプロボクサーをめざして養成所に通っていました。もちろん親は大反対でお金も出してくれず、昼間はバイトをしながら夜はジムに通う生活を2年ほど送りました」

しかし、度重なるケガでプロの道を断念した先生は、小さいときから興味のあった脳の研究をやろうと一念奮起。北里大学に編入し、サイエンスという、もうひとつの夢へと踏み出した。

「大学で初めて分子生物学の本や『Nature』の論文を読むうちに、もっと分子生物学的な研究をやりたくなりました。先輩に相談すると、医学部に間葉系幹細胞を研究しているラボがあるから行ってみたらどうかと勧められたんです。さっそくそのラボで細胞の研究を1年ほど経験し、さらに研究を続けたいと、大学院では再生医療研究で世界的に活躍されている慶應義塾大学医学部の岡野栄之(おかの・ひでゆき)先生*の研究室へ。そこで、神経幹細胞の時間とともに変化する性質と、その制御因子について研究しました」

*岡野栄之先生の研究についてはフクロウ博士の森の教室「生命科学の基本と再生医療」第12回「中枢神経系の再生~脊髄損傷を中心に」を参照。
アニメーション https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/12/slideshow.html
インタビュー  https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/12/interview01.html

神経幹細胞はさまざまな神経細胞をつくりだす細胞だ。脳がつくられていく「発生」と呼ばれる過程で、つくる神経細胞の種類を切り替えていく。初期には主としてニューロン(神経細胞)をつくりだすが、発生が進むにつれて特定の分子経路が働いてグリア細胞をつくるようになる。先生はそのメカニズムを発生から時間軸で追いかけながら、変化を起こすスイッチとなる遺伝子の種類や働きを調べていった。
その後、東京都医学総合研究所へ移り、そこで「脳卒中ルネサンスプロジェクト」を立ち上げた七田崇先生とともに脳梗塞の研究を進めていくことになったのだ。

脳卒中ルネサンスプロジェクト立ち上げ当初。前列中央が七田崇先生、後列右から3人目が津山先生。

「脳の細胞も脳梗塞になった後は時間軸に沿って決まった動きをします。最初のうち脳に炎症を起こしている細胞が、しばらくすると神経細胞の回復を進めるような物質を出すようになり、さらに時間がたつとその働きをやめてしまう。大学院で研究していた神経幹細胞と似て、時間軸に沿った動きをしていたんです」

それに気づいた先生は、脳梗塞の後に脳の細胞が時間とともにどのように変化し、脳の回復に関わっているのかを分子生物学で確かめることにしたのだ。

ミクログリアが脳を治していた!?

脳の機能回復のメカニズムで先生が注目したのは「ミクログリア」という細胞だ。脳細胞には、おもに情報伝達を担う神経細胞と、その周りを埋めつくすミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイトなどのグリア細胞がある。長い間、グリア細胞は神経細胞を支える膠(にかわ:glia)のようなものだと考えられていた。しかし近年、グリア細胞は単なる支持細胞ではなく、脳内の情報伝達や恒常性の維持など、重要な役割を持っていることが明らかになってきていた*

*グリア細胞の主な役割については、フクロウ博士の森の教室「脳の不思議を考えよう」第15回「脳の新たな主役? グリア細胞ってなんだ!」を参照。
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_15/index.html

「ミクログリアは脳だけにある特殊な免疫細胞で、感染などを防いだり、炎症を起こしたりします。常に突起をすごい速さで動かして脳内をパトロールしていて、脳梗塞後には『IGF1(インスリン様成長因子)』などの神経栄養因子をつくり、神経のつなぎ目のシナプスを再構築したり、髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる神経線維を覆う絶縁体を修復したりするなど、脳の修復を支えることが知られています。ただ、本当にミクログリアが脳の修復に関わっているのかどうかや、そのメカニズムはわかっていませんでした」

そこで津山先生が用意したのが、IGF1をつくっているミクログリアが蛍光で光るという特殊な遺伝子改変マウスだ。実験の結果、脳梗塞後6日目くらいで、マウスの脳内でIGF1をつくるミクログリアが現れたことを確認できた。このミクログリアがつくりだしている全遺伝子を調べたところ、IGF1以外にも、脳の損傷後の機能回復に関わることが知られている栄養因子をつくっていることがわかった。

では、このIGF1をつくる細胞がいなくなったら、回復はどうなるのだろう? そのためには、IGF1をつくりだすミクログリアを取り除いたマウスをつくって、脳梗塞になった後の症状を比較すればよい。しかし、このマウスの作製がひと苦労だったという。

「ひとことで“IGF1をつくるミクログリアを取り除く”といっても、単純に取り除いたら受精卵から成体になるまでに一度でもIGF1をつくったことのあるミクログリアはすべて除外されてしまいます。脳梗塞以降にIGF1をつくったミクログリアだけをラベリングする必要がありました。そこで、脳梗塞後にIGF1をつくった細胞だけにジフテリア毒素受容体が現れるようにし、ジフテリア毒素を投与すると、その細胞だけを除去できるマウスを開発しました」

作製したマウスで脳梗塞後の症状を確認すると、通常のマウスに比べて明らかに神経症状が悪化して回復が見られなかった。このことから、IGF1を発現するミクログリアが、脳梗塞後の機能回復に重要であることが示されたのだ。

回復をじゃまする隠れた因子たち

ミクログリアがIGF1をつくって脳機能の回復を促すことはわかったが、時間がたつとその回復力が衰えてしまう原因は謎のままだった。
そこで次に調べたのが、脳の回復を促していたミクログリアの変化だ。IGF1をつくるミクログリアが消えてしまうのか、IGF1をつくるしくみが衰えるのかを確認するために、IGF1をつくるミクログリアと、つくらなくなったミクログリアを識別できるマウスを開発した。

「IGF1をつくっているミクログリアは緑と赤の蛍光で光り、つくらなくなると赤の蛍光だけになるんです。このマウスで、脳梗塞になってから1カ月前後の細胞の様子を観察すると、緑の蛍光はほとんど見られなくなり、赤く光るミクログリアだけが脳梗塞の周辺部に残っていました」

神経栄養因子IGF1をつくっているミクログリアは緑(EGFP)と赤(tdTomato)に光るが、つくらなくなると赤だけに光る特殊なマウスを開発。脳梗塞発症1か月後、脳梗塞を発症した部分(脳梗塞巣)の周りに、赤く光るミクログリアが多数残っていることがわかる。

つまり、IGF1をつくるミクログリアは損傷・死滅して消えたのではなく、IGF1をつくるのを止めたのだ。いったい何が引き金となってつくるのを止めてしまうのか。その原因を探るため、IGF1をつくるミクログリアの遺伝子がどんな変化をしているかを詳しく調べることにした。今度はどんな手法を使ったのだろう。

「『ATAC-seq(アタックシック)』という手法を使いました。ひとことで言うと、遺伝子が発現しやすい状態かどうかを調べる遺伝子解析技術です。DNAは通常、細胞の中でコンパクトに折りたたまれています。遺伝子を使うときはこの構造がゆるんでDNAが開き、そこにタンパク質が結合して遺伝子が読み出されます。ATAC-seqはDNAが開いている場所を酵素で切断して、目印となるDNAを付加できるのです。その目印を手がかりにDNAの開いた部分を調べれば、ミクログリアにある脳を回復させる因子をつくる遺伝子のうち発現しやすいものを抽出できるというわけです。そして、その働きをさらに一つひとつ調べていきました。すると『YY1』というタンパク質が、IGF1をはじめとした脳を回復させる遺伝子が発現する引き金になっていることがわかりました」
つまり、ミクログリアにIGF1をつくらせていたのはYY1だったのだ。

「さらに、調べていくと、回復力を失ったときは『ZFP384』というタンパク質がYY1をゲノム上から脱落させて、IGF1ができるのをブロックしていることもわかりました」

ZFP384はDNAに結合して遺伝子の働きを調節する転写因子の一つだ。この因子が本当にミクログリアがIGF1をつくるのをジャマしているのか? それを調べるために作製したのが、ミクログリアでZFP384をつくれないマウスだった。

「じつは、ミクログリアを普通のマクロファージや好中球といった免疫細胞と区別するのも難しいんですよ。どちらも見た目や働きがとても似ているので、ふつうの遺伝子改変マウスで実験すると、全部まとめて操作することになってしまう。そこで、この研究ではドイツのマルコ・プリンツ(Marco Prinz)先生と九州大学の増田隆博(ますだ・たかひろ)先生から、ミクログリアだけを遺伝子操作できるマウスを提供していただきました。それを、私がつくったZFP384をつくれなくするマウスと交配させて、“ミクログリアでZFP384をつくれなくするマウス”を開発したんです。データの解析にも『シングルセルRNA-seq』という別の遺伝子解析技術を使うことで、1つの細胞ごとにすべての遺伝子の発現を調べました。その解析には、東京都医学総合研究所ゲノム医学センターの川路英哉(かわじ・ひでや)先生と原雄一郎(はら・ゆういちろう)先生にご協力いただきました」

さて、ここまでの研究結果を整理しておこう。
脳梗塞後には、YY1という転写因子の働きによってIGF1などの修復に関わる遺伝子が発現する。しかし時間がたつとZFP384が増加し、YY1の働きに必要なしくみを妨げることで、これらの遺伝子の発現が低下する。それが、脳梗塞の後遺症の回復が持続しない原因だったのだ。

機能回復を維持する新たな薬も!

津山先生たちは、ZFP384の働きを抑えることができれば、脳機能の回復が持続できるという視点から、新たな薬の開発に取り組むことになった。
ここで着目したのが「アンチセンス核酸(ASO)」だ。ASOは、特定の遺伝子だけに作用するよう設計された薬で、日本では2017年に乳児型脊髄性筋萎縮症の治療薬として承認されており、神経系の難病に対する新たな治療薬として期待されている。

「ASOは特定の遺伝子からつくられるmRNAに結合して分解を誘導する働きがあります。そのしくみを使ってZFP384をつくる遺伝子を分解して細胞の状態を変えようと考えました。こうして開発したのが、ZFP384の遺伝子の発現を強く抑える『ASO-Zfp384』という薬剤です」

脳梗塞を発症したマウスにASO-Zfp384を投与したところ、予想どおり、機能回復が持続した。

機能回復の持続状況。左:発症8日目に投与 右:発症29日目に投与

「マウスの神経症状の改善は想像以上でした。脳梗塞マウスの回復状態を見るためには、コーナーテストという実験を行って、神経症状を数値化します。囲いの角にマウスを置くと、普通のマウスは左右半々ぐらいで体を回転させるんですが、脳梗塞マウスの場合は、病変と同じ側の方向だけになります。感覚や運動の障害のせいで病的に偏るんです。その偏りが、ASO-Zfp384を投与するとほとんどなくなったんです」

ASO-Zfp384は脳梗塞のリハビリ期に機能回復を促進させる、今までにないタイプの薬剤だという。
「脳梗塞の後遺症を改善させる治療法としては、たとえば間葉系幹細胞を投与するといった再生医療なども行われていて効果が期待されるものも出てきています。ただ、それらは“細胞を外から足す”というアプローチですが、ASO-Zfp384は“脳に備わった回復力”に直接、働きかけます。これは今までにない視点なので、他の手法と併行して進めていけば、さらにいい結果が期待できるのではないかと思います」

今回マウスで確認した成果は、東京都医学総合研究所神経病理センターなどの協力を得て、ヒトの脳梗塞患者の死後脳についても、発症後の経過が異なる複数の検体を用いて検証している。IGF1をつくるミクログリアが発症1~2カ月後にかけて時間の経過とともに減少していること、代わりにZFP384(ヒトではZNF384)が発現していることがわかり、マウスで見いだしたしくみが、ヒトの脳梗塞後の回復にも関係している可能性が示された。

ミクログリアと脳梗塞の回復力に着目してから約8年の年月をかけ、一連の研究は2026年5月に『Nature』に掲載された。

「今後、ASO-Zfp384については実用化に向けたベンチャーを立ち上げて、引き続き研究を進めていくことになります。細かいメカニズムや安全性など、臨床で確認すべきことは山積みですが、将来的にはリハビリと併用して後遺症の改善から早期退院、社会復帰までをめざした治療薬の開発につなげられればと考えています」

臓器のもつ回復力を治療の力に

手探りで始まった研究は長期間にわたることとなったが、その着地点が見えてきたのはどのあたりだったのだろう。

「やはりZFP384が出てきたときです。どんな因子が脳の回復を妨げているのか見当もつかなかったので、片っ端からいろいろな因子を試しました。私はこういう場合の勘が鈍くて、『これじゃないか』と思った予想はたいがい外れる。だから、ZFP384がIGF1の発現を強く抑制するデータが出てきたときは本当に嬉しかったですよ。ZFP384については、骨密度を上げたりインフルエンザの症状を和らげたりするといった報告はあるのですが、脳に関わる報告はそれまで一つもなかったんです。まさかここで出てくるとは思いませんでした」

じつは、論文を最初に投稿したのは2024年だったという。しかし、「本当にこの薬剤がミクログリアに効いているのか?」、「ミクログリアだけでの遺伝子操作が必要」、「治っていることを示す明確なデータを出せ」など、査読者からのいろいろな指摘に対応するために、東京科学大学の研究者や技術技官はもちろん、東京都医学総合研究所や九州大学、さらにはフライブルク大学病院の研究者たちの協力も得て、さまざまなツール開発やデータ解析を繰り返した。

「細かな実験やデータの取り直しに技官さんの協力がなければ、今ごろ私は過労死していますよ(笑)。ちなみにフライブルク大学のマルコ・プリンツ先生は、ミクログリアの発生起源や特異性を解明してきたミクログリア研究の世界的権威。ミクログリアだけで遺伝子操作できるマウスも、九州大学の増田先生がプリンツ教授の研究室で一緒に開発したものです。そのご縁で、今回の論文に関してもプリンツ教授からいろいろなアドバイスをいただくことができました」

今後、取り組みたい研究や新たなテーマはあるのだろうか。
「まず、今回の研究ではさまざまな制約から機能回復の実験は2カ月でストップさせたので、最終的にどのくらい持続させられるのか、その結果どんな問題が起きるのかを調べていきたいです。副作用が起きることもあるので、そこは慎重に見極める必要があります。それから、臓器に備わった回復力に着目した治療コンセプトを、他の臓器や疾患にも広げていきたいですね。脳は体の中でも最も治りにくいとされてきた臓器ですから、そこで実現できた手法は他への応用も十分に期待できると思います」

最後に、読者に向けたメッセージをお願いした。
「夢はあきらめずに、興味をもったらやってみる。私自身、いろいろなことに興味をもっていたことが、研究者としても役に立ったと思っています。学校でもなぜだろうと思ったことは、恥ずかしがらずに先生に質問したり調べたりしました。授業で質問ばかりして『そんなことは大学に行ってから勉強しろ』と言われたことも、よい思い出です」

ちなみに、最初の夢、ボクシングはその後どうなったのだろう。
「今でもボクシング観戦はするし、少し前まで運動代わりにジムにも行ってました。ただ、最近は忙しすぎてご無沙汰です。そのため、たまに研究室まで階段で上るようにしているんです。22階だから1日1回、上ればいい運動になりますよ。論文を出してからも半年は忙しいから覚悟しろと言われているので、落ち着いたらオフの時間にも新しいことを始めたいですね」

自分の夢を追いかけ続けた結果、誰も知らなかった脳の回復メカニズムにたどり着いた津山先生。「やってみたい」の先には、きっとまだ見ぬ発見が待っている。脳梗塞の後遺症にも、いつか新たな治療の道が開かれるに違いない。

(2026年9月14日更新)