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第15回 生き物のからだの模様をつくりだす仕組みにズーム・イン! ~大阪大学大学院生命機能研究科・パターン形成研究室を訪ねて

動物のからだの模様はどのようにしてつくりだされるのだろうか? これまでの常識は、受精卵やそこから分化した胚の中に設計図があり、その設計図に従ってつくられていくというものだった。こうした受精卵決定説に疑問を投げかけ、動物のからだの模様は「波」がつくると提唱したのが、大阪大学大学院生命機能研究科パターン形成研究室教授の近藤滋先生だ。その論文は、世界的科学雑誌「Nature」の表紙を飾り、発生生物学に大きな衝撃を与えた。

寺田寅彦の予言

金平糖というお菓子を知っているだろうか。砂糖でできたぎざぎざの角がいっぱいある小さなお菓子だ。この金平糖がどのようにしてつくられるのか、明治時代にこの問題について物理科学で答えを探そうとした科学者がいる。漱石の弟子で随筆家でも知られる寺田寅彦だ。それにしても、なぜ、金平糖のできかたが物理科学の問題になるんだろう。

金平糖のかたちは、クッキーをつくるようにひな形があってそこに砂糖水を流し込んでできるのではない。ごく簡単に言うと、砂糖水が結晶化する過程で何かの拍子で偶然に突き出たところができると、そこからさまざまな凸凹ができていくらしい。しかし、その原理はよくわかっておらず、寺田寅彦がその原理を知りたがって、弟子の福島浩という若い学者に研究させた。福島は、いろいろ実験してそれを論文にまとめたのだそうだ。

もっとも寺田寅彦は金平糖のでき方だけに関心を持ったわけではなく、自然界でできるさまざまな模様について、それがどのようにしてできるのかに大いに興味を持ったようだ。「自然界の縞模様」というサイエンス・エッセイには、サンゴ礁、シャボテン、鍾乳石、モチの木の葉の環状紋からネコの毛並みまで、さまざまな模様を列挙して、それがどのようにできるのか、備忘録的に書き並べている。
そして、「これらの現象の多くのものは現在の物理的科学の領域では、辺鄙な片田舎の片隅に押しやられてほとんど顧みる人もいないが、それだけに将来重要な研究題目となる可能性を持っている」という意味のことを述べている。

さて、それから、百数十年も経って、「動物のからだの模様はどのようにしてできていくのだろう」という問題を、生命科学者の立場から解明しようと挑戦した研究者が近藤滋先生だ。寺田寅彦が言った「将来重要な研究題目」として、「動物の模様」が取り上げられたというわけだ。
なるほど、動物のからだには実にさまざまな模様がついている。シマウマの縞模様、ヒョウの斑点模様、キリンの網目模様、テントウムシの水玉模様・・・・・・挙げ出せばきりがないほど、自然界はたくさんの模様をつくりだしている。これらの模様がどのようにできるのか、その疑問に関しては従来の分子生物学では、発生初期の胚の段階で設計図があって、どの模様になるかの位置情報が個々の細胞ごとに定められているという考え方が支配的だった。言い換えれば、あらかじめひな型があって、クッキーがつくられるようなものだ。

ところが、こうした受精卵決定論に対して「それって、ホントか?」と疑問をぶつけたのが近藤先生だ。

動物のからだにはさまざまな模様がある

動物のからだにはさまざまな模様がある

近藤 滋 先生
近藤 滋 大阪大学大学院生命機能研究科教授

1959年生まれ。1982年3月東京大学理学部生物化学科卒業、1984年3月大阪大学医学部医科学修士課程修了、1988年3月京都大学大学院医学研究科博士課程修了、博士号取得。バーゼル大学(スイス)バイオセンター細胞生物学特別研究員、京都大学医学部講師、徳島大学総合科学部教授、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター位置情報研究チームチームリーダー、名古屋大学大学院理学研究科教授などを経て、2009年8月より大阪大学大学院生命機能研究科教授。

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